クリムマギカは一筋縄ではいかない
「剣に関する研究してる奴だけで何人も居るしのう。もう少し詳しい機能とかを説明してくれんか。」
「最強の剣? なら、お前さんの剣にダンダリック紋章を掘ってやろうか?」
「よく分からぬ。仕様を出せ。」
「そこは、ほれ。素材から決めていくもんじゃろ。ちょうど良い材料があるんだが見ていかんか?」
「仕様について? 強度、攻撃性、防御、汎用性、様々な性能が武器にはあるだろう。お前たちの求める仕様は何だ?」
「何なんだよ! あいつ等!!!」
誰からも見えない通路に入った瞬間、ジェイクは何かを爆発させたように地団駄を踏んだ。
「ドワーフもエルフも話がまったく噛み合わねえ!」
「はぐらかされてるようだな。その首飾り、ぜんぜん効いてないんじゃないのか?」タイチが言った。
「畜生、舐めやがって。」
ジェイクは魔法の首飾りを首から外して床に叩きつけた。
首飾りはコンコンと音を立てて地面を転がった。
「見張りもないし、自由勝手に動き回れるようだから、むしろ、自分たちで探したほうが良いかもしれないな。」
「おいデブ! 【マナサーチ】かけろ。」ジェイクが不機嫌にヘイトに命令した。
「ん。【マナサーチ】」
ヘイトが背中に背負っていた魔法効果補助の杖を構えて集中する。
しばらく目をつぶっていたヘイトはやがて言った。
「ま、魔法の反応だらけで、わ、分からないんだな。」
「魔力の大小は分かるのか?」タイチがヘイトに訊ねた。
「お、大きい反応のも、た、沢山あるんだよ。」
「なら、大きな反応から当たっていくか。」ジェイクが言った。
冒険者たちはヘイトの呪文で星の数ほど感知された魔法の反応を大きい順に回っていくことにした。
彼らは洞窟のようなクリムマギカの街の探索を進めていった。誰も邪魔はしてこなかった。
そして、5つ目の場所にたどり着いた所で再びジェイクが癇癪を起こした。
「おい!また武器じゃねえじゃねえか!」
「そ、そんなこと、ぼ、僕に、怒られても困る。」ヘイトが不服そうに口を尖らせた。
「今度はゴーレムだな。これは動くのか?」
通路脇に無造作に置かれた巨大なゴーレムを見上げながらタイチは呟いた。
ゴーレムを叩いたり、触ったりしたものの動く気配はない。
「ま、魔法で魔力を込めないと、う、動かない。」
「デブ! 武器の反応と見分けはつかねえのかよ!」
「む、無茶言わないで。そ、そんなのわかんないよ。」
「くそ、いちいち探すのも大変だ。どうしたもんか。」
「ね、ねぇ。」ヘイトがジェイクに声をかけた。
「なんだ?」ヘイトからはろくな意見が出てきたことがないことを知っているジェイクは不機嫌に返事を返す。
「お、お腹減った。」
「ちっ! 本能がっ!」予想以上にろくでもない台詞が出てきたのでジェイクは苛立ちの声を上げた。
「け、携帯食じゃない食べ物食べたい。」
「知るか!!」
「飯食うとこくらいあるだろ。」タイチがため息をついて言った。「一度、落ち着いて作戦を練り直そう。」
通りがかったエルフに訊ねて、冒険者たちは街の食堂の一つにたどり着くことができた。
「なんで食堂は簡単に教えてもらえんだよ!」
ジェイクがイライラとした様子で、セルフサービスで取ってきたハムのような食べ物をテーブルの上に乱暴に置いた。
「街ぐるみではぐらかしに来ているのだろう。」
タイチは皿をテーブルに置いて、席に座った。
「なんだよ。俺らの探してるもんはそんなに重要なものだってことか? その割にはぜんぜん警戒されてねえぞ?」
ジェイクは食堂の中を見渡しながら席に着いた。
ドワーフばかりが食事をしていて、誰もジェイクたちには注意を払っていない。
「最強の魔剣もあるという話だからな。」
「にしても、まずそうな飯だな。ハムかよ。」
ジェイクが目の前の皿の上の物をフォークでつついた。
「め、目玉焼き味と、しゃ、シャインマスカット味、どんな味なんだろ。た、楽しみ。しかも、タダだって。」
2つの皿を運んで来たヘイトが二人の向かいの席についた。
どちらの皿にも分厚いハムのような食べ物が二枚重ねで置かれている。
「それに、お、女の人、カウンターに居た。可愛くなかったけど。き、きっとエルフの女の子、い、いる。」
「ほんと、お前は本能しかねえな。」ジェイクが呆れたように文句を言う。
「た、食べようよ。お、お腹が減ると、み、みんな怒りっぽくなるんだな。」
ジェイクとタイチは呆れたように顔を見合わせてため息をついた。
「い、いただきます。」
三人は目の前の加工肉のような食べ物を口に入れた。
「何だよこれ、クソまじい!」ジェイクはすぐに口の中の物を皿に吐き出した。
「うまくはないな。」タイチも顔をしかめながら口の中の物を飲み込んだ。「肉のような噛みごたえのある触感、火を通した時の油、そして生暖かさが絶妙にぶどうの甘みと合わない。」
「食レポすんじゃねえよ。こんなん醤油があったって食えたもんじゃねえ。」ジェイクはそう言って分厚いハムにフォークを突き立てた。「飲み物も酒しか無えし。」
「俺はもう食べないからな。」
「ぼ、ぼくもいいや。」
「ヘイトが食べないのは相当だな。」タイチが驚きの声を上げた。
「お前は食うのかよ?」
「食べるわけ無いだろう。こんなもの。」
「しばらく携帯食で過ごすしかないか。」
「えー。」ジェイクの言葉にヘイトが不満そうな声を上げる。
「携帯食はいくつある?」ジェイクはヘイトを無視してタイチに訊いた。
「あと6日分だ。」
「おい、おい。何でそれだけなんだよ。」
「ここに来るのに日数を使いすぎだ。狩りもできなかったし。ケルダモであまり買い込まなかったのが失敗だったな。」
「帰えることも考えると、食料は残しておきたいな。このままじゃ、何日かひもじい思いをすることになりかねねぇ。」
「そ、それは困る。」
「うるせぇデブ。そもそもてめえが食い過ぎなんだよ。」
「まあまあ。他にも食堂があるかもしれない。村の奴らに聞いてみよう。」
タイチの提案どおり、食堂のドワーフたちに話を訊いた3人はエルフたちの食堂の存在を教えて貰うことができた。
そして、これ幸いとエルフの食堂にやってきた3人はそこの料理のあまりの甘さに絶望するのだった。




