昇給
約束の一週間がたった。
俺はスージーの執務室に俺は呼び出された。
魔石のズレの結果についての結果の報告だ。
これが少なければ業務改善は正式に認められる。
魔石のズレが大きければ俺の作業分担案については却下される。
まあ、結果知ってんだけど。
何せ計ってんの俺だからな!
スージーは机の向こうででっぷりと背もたれに寄りかかって座りながら、ご満悦の様子で魔石の収支簿を眺めている。
スージーの隣で番人のように黙って立っているカムカの顔は極めて不機嫌だ。
「見事だ、ケーゴ。」スージーが嬉しそうに俺を褒めた。
「ありがとうございます。」俺はうやうやしく頭を下げた。
「1週間の最大のずれが15だってさ! しかも他の6日はズレ無しときたもんだ!!」
「そうでしょ? ボス!」
思わず揉み手が出てしまう。
「昇給だな! 時間5銅貨昇給してやる。」
こっすいなぁ。
「なんだよ、不服そうだな。」
「いえ、これじゃ俺自身の買い戻しに1年以上かかります。俺は今年中には村を出たいんです。」
俺は正直に答えた。
早くリコに追いつきたい。
冒険したい。
「今年中? そんなん、お前、カムカくらい稼がないとだめだぞ?」
スージーの隣に番人のように立っていたカムカが片方の眉を上げて俺を睨んだ。
「もしこの店にもっと儲けを誘導できたら、そんくらいください。」
「アホか、こんな村でこれ以上売り上げなんて増やせるわけねえだろう。まあ、カムカが必要なくなるくらいお前が働いてくれるんなら考えなくもないが?」
スージーの隣でカムカがきっと身を固くしたのが分かった。
あんまそういうの社員の前で言うの良くないんだぜ?
「もし、売り上げが増やせたらどうします?」
「あ? そんなことできるもんか。」
「できたら?」
「そんなことできたらお前の給料を上げまくってやるよ。」
「言いましたね?」
俺は冷静にそう言おうとしたが、スージーの素敵すぎるお答えに思わず口元がにやけてしまう。
「ちょっと見てください。」
俺はそう言って、手に持っていた小さなカゴを置く。
カゴの底には30個くらいの小さな魔石が転がっている。
俺が今週二回の納入分300樽からより分けた魔石だ。
「? その魔石がどうした。」スージーが不思議そうな顔をする。
「この魔石には10万以上の魔導力が含まれています。」
「10万だと?」スージーが信じられないと言った感じの声を上げた。
「この個数で?」
「魔導力の濃い魔石があるみたいなんです。何だったら測定してみますか?」
「こんなんどうした?」
「いや、樽に入ってたのをより分けたんですよ。 邪魔ですし。」
「樽に入ってた? アタシが買ってるのはたいした魔力の入ってない魔石のはずだ。」
「そうなんすか? メーカーが適当に入れてるんじゃないですか?」
「マジかよ!」
スージーは魔石を一つつまみ上げて眺め始めた。
「商人たちが充電用の魔石を買って行くときにカサが高いのを嫌がるんです。どうでしょう、これを商隊に高値で・・・・
「よくやった! カムカ並みの給料だな、分かった!」スージーが俺の言葉を遮って断言した。
えーと、一足飛びで話がついてしまった・・・。
俺の職場での気づきからの立案について、もっと聞いて欲しかったんだけど。
「こいつは魔石として高いんだ。量こそ少なぇが、携帯用の高純度魔石は超高級品だ。商品として高値で卸せるぜ。」
そんなん良いもん混ざってるん?
「ちょっと計らせろ!」
スージーは興奮気味に立ち上がると俺が机に置いたカゴを持って魔導力計のある受付バックヤードにのしのしと速足で向かい、魔導力計の前に付くと迷いなくカゴを置いた。
魔導力計がカゴの中の魔石の魔導力を表示する。
「113567! マジで10万以上あるじゃないか。」
113567.40229793な。
「ケーゴ、お前、今日からこれを集めろ。いいな!」
スージーは興奮気味に叫んだ。それから高らかに笑いながら続けた。
「はっはっは! お前を買ったアタシの目に狂いはなかったようだ!!」
今更、どの口が言うかね・・・。




