オーバーモース戦顛末
オーバーモースとの戦いには、まるまる一週間かかった。
狙ってなかったわけじゃないけど、まさか、本当に討伐までいけるとは思ってなかった。
ひたすら耐え忍ぎ続けて援軍が来てくれればいいな、とか、最悪、街の人達が避難し終わったら、頃合いを見て俺たちも撤退しようなんて考えてた。
ところが、俺たちが戦っていることを聞きつけた街の人たちが見物にやってくるっていうね。
逃げてくれよ。
しかも、彼らは寝床や食事を準備してくれたり、ポーション準備してくれたり、ヘイワーズさんと協力してうっかりやらかしてぶっ倒れてしまった俺を回収したりとかいろいろやり始めた。
そんなわけで、撤退するにもできない空気になって、そのまま8日目の早朝、ルナと交代した直後に俺の会心のクリティカルが決まり、オーバーモースは倒れ、観衆から大歓声が上がった。
俺たちが戦う前にドヴァーズたちがどれくらいオーバーモースのHPを減らしていたか分からないが、多分、ほとんど俺たちが削っているんじゃないかと思う。
オーバーモースは【クリティカル】でしかダメージが抜けない分、HPが低めの設定のはずで、それのおかげで俺たちだけでも倒せたのだだろう。
あと、どうやら、【ウィークポイント】の水色の弱点表示、かなりの確率で、俺にしか見えてなかったという事が戦い始めてすぐに分かった。
どうやら【ゼロコンマ】はオーバーモースに対する特攻スキルでもあったみたいだ。アルファンの時、このスキル持ってた奴とか居たのだろうか?
転生後も冒険者になってからも、状況に振り回され続けてきた感がすごかったけれど、このレイド戦については思いどおりにいって大満足。
って思ったけど、よく考えたらダメージ観測されてないから、功労点つかないんだよね、これ。
そんなこんなで、オーバーモースをやっつけた日の夜。
この街の商店街の集まりみたいな市民団体が俺たちの休んでいる宿屋にやってきた。
恰幅の良いおっさんたちばかり5人だ。
リコたちを宿の俺の部屋に呼んで、彼らの用件を聞くことにする。
「我々はケルダモの各市街の寄合長です。この度は街を救ってくれてありがとうございます。」
「あなた方はこの街の英雄です。」
「皆様のおかげで我々は街を失わずに済みました。」
「逃げ出した市長や街の貴族どもに爪のアカでも煎じて飲ませてやりたいです。」
口々に俺たちを褒めそやかす。
「いやぁ、そうですか。ありがとうございます。」ヤミンが嬉しそうに頭を掻く。
少しは謙遜しろ。
「特にケーゴ様の鞭さばき。見惚れるほどでした。」
「本当ですよ! あれほどの化け物相手にまったく怯まず、逆に化け物が怯んでいるくらいなんですから。」
おっさんたちが今度は俺個人を褒めにかかる。
「いえいえ、たまたま俺と相性のいい敵だっただけですよ。それにハルピエたちやエデルガルナさんが居てくれたお陰です。」
「ケーゴ。そなたの【クリティカル】能力あっての勝利だ。謙遜のし過ぎはよくない。ヤミン殿を見習え。」エデルガルナ状態のルナがたしなめるように言ってきた。「あの怪物に対し、冷静に分析を行い作戦を立て遂行したケーゴの戦士としての能力がこの勝利を導いたのだ。もっと自信を持つべきだ。」
この世界、日本と違って謙遜は美徳にならんのだろうか?
って、よく考えたら、ルナって中身日本人じゃねえか。
服着ると脳の構造変わるんか?
「ルナルナの言う通り、ケーゴはもっと自分をアピールしてくべきだよ。」
「そうだよ、ケーゴ。ケーゴって多分自分が思ってる以上にずっと強いんだからね。」
リコとヤミンがルナに同調して俺を褒める。
「あ、はい。」
あんま人前で褒めないでくれ。
人前で身内に褒められると反射的に身構えちゃうんだよ。
「王都からは連絡はありませんが、私どもからだけでもささやかな感謝のお祝いをさせていただければと思っているのですが。」
「いえいえ、お構いなく。」
ていうか、この宿も今日はただで泊めてもらっている。
それに式典って、また挨拶とかさせられるんだろ? やだよ。
「そう言わずに。仰々しい式典とかではありませんので。」街の顔役の一人が俺の心の内を見透かしたように言った。
「レイドボス戦の勝利を祝って街を上げて祭りをする予定なのです。明日には準備も整いますので、是非皆さまにも参加していただきたいのです。」別の顔役が言う。
「お口に合うかは判りませんが、ケルダモの名産やグルメを食べ放題、飲み放題でございますよ。」
「「やったー。」」
リコとヤミンが行儀悪くバンザイしてハイタッチを交わした。
「そういうのでしたら、喜んで。」俺も喜んで首を縦に振った。
堅苦しくないお祭りなら、ぜひとも参加したい。
「ぜひとも。せっかくですので、祭りの乾杯の音頭などもいただければ。」
挨拶はあるのか・・・。
「え、エデルガルナさんって王都の偉い騎士ですし、挨拶はお任せできますよね?」
「何故、ルナと呼ばない?」
「あ、はい。ごめんなさい。」
「ハルピエの方々にも是非とも参加していただきたいのですが・・・。」
「ああ。是非ともお願いします。彼らも喜ぶと思います。」
街の人達はハルピエたちのこともちゃんと感謝してくれているようだ。
ていうか、みんなハルピエたちのサポートとかにも入ってくれてたしな。
半ば引き込むように協力してもらった手前、ハルピエたちが街の人たちにちゃんと評価されなかったら、と不安だった。
アルファンではハルピエとケルダモの仲はあんま良くなかったけど、こっちではこれをきっかけに仲良くやってくれたら嬉しい。
「あとで、ピーちゃんに連絡に行ってもらおうよ。大丈夫かな、ルナルナ。」ヤミンがルナに訊ねた。
「大丈夫だ。彼はタフガイだ。」ルナが得意そうに答えた。
タフガイ?
「ピーちゃん?」ピーちゃんのことを知らない街の顔役たちが不思議そうな顔をする。
「あ、いえ、こっちの話です。」リコが慌てて答えた。
意地でも挨拶はルナにやってもらおう。
けど、その前に俺たちにはやらなくてはならないことがある。




