クリムマギカ
それはまだケーゴたちがオーバーモースとの死闘を続けている頃。
山脈の裏側からクリムマギカへと抜ける地元の人すら知らない抜け道の途中。
3人の冒険者がクリムマギカ側へと歩みを進めていた。
「は、速いよ。ふ、二人とも、もっと、もっとゆっくり、行こうよ。ね。」
他の二人より大幅に遅れた、魔法使いらしい太った冒険者が汗だくになりながら、前の二人に文句を言う。
「なんで、お前はデブなんだよ!」先行した二人のうち背の低い栗毛の冒険者が太っちょの冒険者を怒鳴りつけた。
「普通、転生したら、そこそこカッコよくて運動もできるように生まれ変わらないか?」先行していたもうひとり、大槌を背負った大柄な戦士が呆れたようにため息をついた。
「そ、そんな事、言ったって、しょうがないじゃん。」
太った魔法使いは立ち止まって、両手を膝についた。
「う、馬に乗って、ぐ、ぐるっと、大回りすれば良かった、のに。」
「このルートが一番早いんだよ。休んでんじゃねえ! 僕ら以外にも転生者がいるって話だから、急げよ。デブ。誰かに先を越されたら叱られちまう。」
「で、でも、ジェイクだって、レイド戦に、よ、寄り道した。」太っちょの冒険者は歩き始める様子は見せず、栗毛の冒険者に向けて口答えした。
「うせえな! レイドポイントを稼ぐチャンスだと思ったんだよ! まさか、ダメージ観測してねえなんて思わないじゃんか。しかも、オーバーモースだし。」
「れ、レイドボスを倒せば、ご褒美で、お、女の子とたくさん遊べるって言ったのに。」
「我慢しろ。この間ケゾーフルで散々させてやったろ!」
「あ、暴れない娘がいい。」
「分かった。次な。次。だから歩け!」
「あと、次は一番最初。」
「分かった分かった。だから我慢して歩けっつってんだろ。」ジェイクが呆れたように言う。
「や、約束。」
「クリムマギカから宝珠と最強武器を回収してからな。」ジェイクはそう言うと、これ以上話す気はないとばかりに前を向くと歩き出した。
「ヘイトはどうにかならんのか。あいつは女と食い物のことしか考えていない。」大男の冒険者は後ろで太っちょの冒険者が歩き出したのを確認してからジェイクに追いついて言った。
「俺に言わないでくれよ。あんたこそ前世も合わせたら年上なんだから、なんとかしてくれ、タイチさん。」
「勘弁してくれ。」タイチと呼ばれた冒険者は眉を潜めた。
二人がヘイトについて話しながら進んでいる間に、道は山間を抜け、突然視界がひらけた。
「なんだよ! これは!」ジェイクが道の先の異変に気がついて大声を上げた。
本来、クリムマギカまで続いているはずの道がない。
削れたような断崖にぶつかって途絶えている。
彼らは断崖のギリギリまで道を進み崖下を見渡す。
道はえぐれ、はるか見渡す先までクレーターのように凹んでいる。
「おいおい。なんだコレ。どうなってるんだ?」タイチが目の前の遥か深くえぐれた地面を眺めて呟いた。
「畜生、何が簡単な任務だよ!」
ジェイクは腹に据えかねたとでも言うように持っていた荷物を地面に叩きつけた。
「話が全然違うじゃねぇか、ユージの野郎!」




