ケーゴの策略
「これで本当に良かったのか?」
逃げ去っていった騎士団が見えなくなるとピネスが俺に訊ねてきた。
彼は【サウンドリプレイ】の風魔法を使って、録音していたオーバーモースの咆哮を大音響で再生したばかりだ。
「はい、彼らとは組まないと決めました。」
仕事をしていくのに重要なのは、何をして働くかじゃない。誰と働くかだ。って職場の先輩が言ってた。
俺たち二人は隠れていた草陰から出ると、オーバーモースとの戦いで破れてしまったルナの軍服・・・というかコスプレ衣装を着た冒険者の死体のもとへと歩み寄った。
ルナの衣装を着ているのはオーバーモースとの戦いで戦死してしまった冒険者の遺体だ。
これを隠滅しておかないといけない。
エデルガルナの軍服を冒険者が、まして男性が胸に詰め物をしてまで着ているのはおかしい。
万一、明るくなって誰かにこの死体を見られたら困る。
今はエデルガルナには死んでてもらう必要がある。
そうすればドヴァーズが街を捨てて逃げれるからだ。
前世では、断れない無理な仕事が振られてくるなんてよくある話。
無理じゃなくても、何かしらのトラブルでスケジュールがやばいなんて事はよくある。
その時、大抵の人は多少あがいてから報告する。
大抵の場合、それはスケジュールを取り戻せるかもしれないからではない。
頑張らないで報告すると怒られるからだ。
むちゃを押し付けられたのが予算付きのプロジェクトなんかだったりすると、簡単にギブアップはゆるされない。
プロジェクトリーダーはギリギリまで粘らないといけないわけだ。
そういう人たちに、撤退の理由を与えてあげるのも良い部下の仕事だ。
ま、大逆転の一手を提案するのが本当に優秀な社員だとは思うけど、俺は凡用なだけですから。
ドヴァーズは本来何千、何万という人間で挑むべきレイド戦と言うイベントに、数百くらいの人員で挑まなくてはならないという無茶振りを受けた。
しかも、あのときの冒険者たちの話から類推するに初動をミスってしまったらしい。
簡単には逃げ出せない状態だったのだろう。
だが今回、エデルガルナという強力な力を持った王都の第一人者が単騎特攻して死んだということで、王都側にも責任が発生した。
しかも、王国随一の騎士が敗れたことはオーバーモースの脅威も示すことができる。
これで、ドヴァーズは大手を振って逃げられるわけだ。
というわけで、ルナに頼んでドヴァーズに手紙を書いてもらい、ここにおびき寄せてエデルガルナさんの死体を発見してもらった。
万一、オーバーモースを見張ってる奴が居た場合に備えて、実際に戦闘までしてもらった。
とりあえず、半分は成功。
これで、ドヴァーズが街を放棄してくれれば思惑通りだ。
昼間、責任がどうこう言ってたから、多分、俺の思ってるタイプの中間管理職だと思うので、この点は問題ないだろう。
ヤミンとリコが街に侵入して状況を探ってくれている。
ドヴァーズが逃げ出したらルナの文鳥のピーちゃんを使って連絡してくれる手はずだ。
これで、俺たちとハルピエはいざという時に街を放棄できる。
もちろん、レイドボスが倒せればいい。
そのつもりで戦うが、それは確実ではない。
誰かが死ぬかも知れない。
それはリコやヤミンかも知れないし、ハルピエの誰かかも知れない。
今回、俺たちが守ろうとしているのはカリストレムじゃない。
誰かの命を賭けて、命を賭けるリスクを負いたくない。
俺のそんなふわふわした覚悟を老ハルピエに見透かされた。
非情と言われても、無責任と言われても、優先順位はケルダモが一番下だ。
「これで、お前に手を貸しても我らの敵に手を貸すことにはならなくなりそうだな。」
ピネスの言葉には揚々とした語気が混ざっていた。
「しかも、我らがオーバーモースを倒せば、我々の村を囮にしようとした人間どものメンツは丸つぶれ。さらには我々は人間の王国と堅固な関係を築けるというわけか。」
ピネスって雰囲気的に実直な脳筋とか思ってたけど、意外とおちゃめな人なのかも知れない。
「はい。ピネスさん。」
俺はピネスに手を差し出し、ピネスは俺の手をがっしりと握った。
「オーバーモース戦の共闘、よろしくおねがいします。」




