ハルピエの村
ハルピエの村はすぐ見つかった。
ってか、場所知ってたし、知ってた所にちゃんと在ったし。
村についたのは良いけど、俺たちは林の真ん中でハルピエたちに囲まれていた。
ハルピエたちの家はこの林の木々の上にあって、そこに昇る階段がない。
ハルピエたちも俺たちを家に上げる気はないらしい。
とはいえ、ハルピエたちはかなり友好的だ。
ルナとリコがハルピエたちから手当を受けている。
怪我の少なかった俺の治療はもう終わっている。
今は、さっき一緒に戦っていたらしいハルピエの女の子が俺の肩をマッサージしてくれている。
お礼だそうな。
マッサージなんて分不相応に偉そうなのでご辞退申し上げたかったが、ケモミミ女子にマッサージされたい欲が勝った。
リコとヤミンにめっちゃ睨まれてるが、断れなかったふりをしてマッサージされてる。実際、断れなかったし。
ちなみに、リコとヤミンはイケメンハルピエからのマッサージの申し出を断っている。
ルナは横になって治療を受けながら、女の子のケモミミハルピエにエステっぽいマッサージをしてもらってる。
ケモミミマッサージを堪能していると、この場を離れていたピネスが林の上から戻ってきた。
彼は長老たちに俺たちの協力要請について伝えて、俺たちの代わりにオーバーモースと一緒に戦ってくれるよう交渉してきてくれていたのだ。
「『我々は村を危機に陥れようとした連中を助けることはしない。』以上がハルピエ族の決定だ。申し訳ない。」ピネスは残念そうに言った。
「そうですか・・・。」
降りてきた瞬間のピネスの表情で分かってたけどさ。
あのションボリした表情でOKだったらバラエティーで撮影許可を取りに行ける。
「だが、お前たち自身への協力は惜しまない。ここへ来れば回復もするし、必要な武器や道具も貸そう。」
「ありがとうございます。」
「お前たちのおかげで、エアリオとオキュテピアの命は助かったのだ。村からあの怪物を遠ざけてくれたのもお前たちだ。だから、なんでも言ってくれ。なんなら、オキュテピアを嫁にやっても良い。」
俺のマッサージをしていたハルピエの手が何やらとても慌ただしくなった。
もしかして、この娘がオキュテピアちゃんなのかな?
「冗談はやめてください。」リコが即答。
「そんな馬鹿げた協力なんていりません!」ヤミンも即答。
本来、答えるの俺じゃない?
「お前たちも、我ら戦士たちの中から婿を選んでも構わんぞ。」
「結構です。」リコの口調がものっそ不機嫌。
俺も目の前でリコに恋人ができるのを素直に祝福できるほど懐は深くないので、そろそろ真面目に説得をすることにする。
「どうしても援軍に来てもらうわけにはいかないのでしょうか? この村の人たちを守ろうとしたあなたなら、ケルダモの街の人々を守りたいという俺たちの気持ちも分かってもらえるはずです。」
「残念だが、これは長老たちの総意だ。」ケネスは自分の気持ちは違うというように答えた。
「彼らに対する意趣返しということですか?」
「否定はしない。だが、それ以上に、ここで彼らを助けてしまってはハルピエ族が舐められるのだ。」
「恩を売れるという考え方もあります。」
「彼奴等が恩義を感じるような人間に見えたか?」
「だから助けないと?」
「そうだ。」
「自分たちの村を守るために?」
「その通りだ。」
「それじゃ、あのドヴァーズって人のやっていた事と同じですよ?」
「・・・・。」
「あなたのようなハルピエの戦士があんな奴と同じなんかで良いのですか?」
「目には目を歯には歯をと言うだろう。我々に害を及ぼす彼らを滅ぼすことの方が、我々にとっては利益がある。」
この世界はその理屈が割とまかり通る世の中なんだよなぁ。
「本当に我々が憎むべきはあのレイドボスでしょうに。」
「すまぬ。」
「本当にそれが村の総意ですか?」俺はピネスの目を見ながら訊ねた。
「そうだ。」一点の迷いもなく彼は答えた。
それだけ明確に返事したってことは、すでにピネス自身が今の理屈をこねて長老たちを説得しようとしてくれたんだろうな。
「俺たちには手を貸すっていうのも村の総意ですか?」俺はピネスから目を離さずに訊ねた。
「・・・そうだ。」
少し気まずい間があった。
やっぱりか。
「じゃあ、なんで俺とルナを人質に取るんです?」
「「!!」」
リコが素早く剣を抜き、ヤミンが慌てて弓に魔法の矢を召喚してつがえた。
が、もちろん俺にベッタリと張り付いていたオキュテピアちゃんのほうが速い。
マッサージしていた手が鉤爪に代わり、俺の喉元で止まる。
「やめろ。彼らはお前の恩人だろう。オキュテピア。」ピネスが不機嫌に一喝する。
「申し訳ありませんでした。」
オキュテピアが鉤爪を引っ込めて、俺の横に座ると頭を地面につけた。
「リコとヤミンも武器引っ込めて。」
リコとヤミンが武器を収める。
ちらりとルナの方を見ると、ルナの首元に爪を突きつけていたハルピエの女の子が爪を引っ込めた。
ルナはマッサージが気持ちよかったのか熟睡している。
ルナ・・・。
「すまない。長老たちは人間を信用していないのだ。」
ピネスが深く頭を下げた。
「お前たちが歓待だと思ったまま、この場が終われば良いと考えていた。本当にすまなかった。」
「いや、これはこれでとても気持ちが良かったので気にしてませんよ。」
まぁ、アルファンでもこの村は来たことあったから、ハルピエたちの対人感情は知ってたし。
ていうか、マッサージについてリコやヤミンに怒られない理由もできたし、俺的にはありがたいくらい。
むしろ、マッサージは続けててくれても良いのに。
本音はさておき、次の一手。
「俺は皆さんのこと信じてましたし。」
相手の良心を抉りにかかる。
「本当にすまなかった!」ピネスがさらに深く頭を下げる。
「いや、本当に頭をあげてください。」
そんなに頭下げられると、絡め手使ってまで説得しようとしているこっちの良心が痛む。
「それにしても残念です。皆さんにしたってあのモンスターには仲間を殺されているんだ。アレを憎む気持ちは俺たち以上でしょうに・・・。」
「・・・・。」
ピネスから返事はない。
「頭領・・・。」
オキュテピアが心配そうな声を出した。
もう一息だ。
「そんなに、困った顔をしないで下さい。大丈夫です。俺たちだけでもなんとかしてみせます。俺たちが皆さんの仲間の敵も討って見せますよ。」
「本当に、本当に申し訳ない・・・。」
ピネスは平謝りでまったく顔を上げようとしない。
「そんな、気にしないで下さいって。俺たちは冒険者です。『自分たちの意思で』動けますから、皆さんの気持ちを背負ってあの憎むべきレイドボスと戦います。任せて下さい。」
「ケーゴ・・・。」ピネスがすまなそうに顔を上げた。
「大丈夫ですって。『俺たちはなにかに縛られて』戦ってるわけじゃありません。俺たちだってケルダモやこの村を脅威にさらすあの化け物は憎い。だから俺たちは『自分の気持ちに素直に従ってるだけ』なんです。自分が大切だと思ったことから目を背けられない性分なだけなんですよ。」
ちょっと露骨すぎたか?
「・・・やはり、私だけでも、お前たちの戦いに参加しよう。これは私個人の意思だ。ただし、騎士隊には従わない。それで良いか?」
ピネスが折れた。
「ありがとうございます!! 是非、お願いします!」喜びのあまり思わずガッツポーズがでる。
リコとヤミンもハイタッチしている。
「私も参加します。」俺の後ろからオキュテピアも志願を口にした。
さらに、オキュテピアがそう口にした瞬間、あたりの木々からバサバサと10数人のハルピエたちが降りてきた。
「俺も参加する。」
「兄の敵をうたせてくれ。」
「私も参加します。恩義は返さねばならない。」
ハルピエたちが次々と俺たちに協力することを約束し始めた。
「ありがとうございます。みんなであの憎きレイドボスをやっつけましょう!」
よっしゃ!
なんだかんだで義に熱いハルピエ!
とりあえず、これで第一関門はクリアだ。
でも、これからが勝負。
「ならんよ。」
ハルピエたちを叱りつけるような老人の声が俺たちの頭上から降ってきた。




