北方戦線、瓦解
「なんだよ、じゃあレイド戦なんて参加しても意味ねぇんじゃん。」
栗毛の冒険者は頭の後ろで腕を組むと呆れたように言った。
口調も表情も変って、いきなり感じが悪くなった気がする。
「な、突然、何を。」突然の仲間内の離反に北方国境守護隊長のドヴァーズは目を白黒させる。
「僕らも慈善事業者じゃないんでね。メリットがないなら抜けさせて貰う。」今度は大男がドヴァーズに向けて言った。
やはり栗毛の冒険者と大柄の冒険者は同じパーティーのようだ。もう一人栗毛の隣に出てきた太っちょの魔法使いもそうなのだろう。
「今回のレイドボスは運要素が強い。僕たちみたいな実力者にとっては美味しくないレイドボスだしね。」栗毛がつまらなそうに続ける。
「ジェ、ジェイクが言うなら、お、俺も抜ける。」魔法使いが二人に同調した。
「行くぞ!」
栗毛は二人にそう言うとドヴァーズに背を向けて歩き始めた。
他の二人も栗毛の冒険者についていく。
「ちょ、待て! 報酬なら国からちゃんと出るはずだ。今、お前たちに抜けられるのは困る。」
「でも、ダメージ観測してねぇんだろ?なら、功労点出ねぇじゃん。やる気でねぇよ。じゃっね〜。」栗毛の冒険者はドヴァーズをわざと苛立たせるかのように言った。
「ちょっ! 待て、ケルダモの街がどうなっても構わないというのか! 今はお前たちが一番頼りなのだ!! 今ここでAクラス冒険者に抜けられるのは困る!」
ドヴァーズがこの場を後にしていく冒険者達の背中に悲痛な叫びを浴びせた。
「あっはっは! 何言ってんの! あんただって税金払ってないハルピエは見捨てたじゃん。」栗毛の冒険者は愉快そうに答えて止まった。「僕らに残ってほしいんなら金詰めよ。」
「金貨200出す。」ドヴァーズが言った。
「桁が違うよ。舐めるな。金貨1万だね。」
「そんな額払えるわけ無いだろう!」
「じゃ、交渉決裂。」そう言って栗毛は再び歩き出した。「冒険者にとってはレイド戦の功労点って凄い大事なんだよ? 月間ランク入りの有り無しでマジックアイテムの入り方も違うし、ギルドでの扱いも変わってくるしね。」
「我々はこの近くの別な用事の時間つぶしのためにレイド戦に協力していただけだ。功労点が入らないのならもはや居る意味はない。」大男も冷たく付け加えた。
そう言って、冒険者たちは悠々と去っていく。
「ちょっと! あんたら! ケルダモはどうなってもいいの!?」ヤミンが冒険者たちの背中に向けて声をかけた。
「ケルダモを救う栄誉は君たちに譲るよ。」栗毛の冒険者が振り返ることもなく言った。「何回もラッキーヒット噛ませば良いさ。ビギナーズラックって言うしね。がんばってね〜。」
栗毛の冒険者は背中を向けたまま俺たちに手をふると、仲間を引きつれてそのまま去っていってしまった。
3人が去っていくとすぐに別の冒険者の一団がドヴァーズの前に出てきた。
「俺たちも抜けさせてもらう。彼らが抜けたなら、あのレイドボスに敵うべくもない。」一団のリーダっぽい男が言った。「そもそも、我々はあの化け物にダメージすら与えられなかったからな。もはや手の打ちようがない。」
そう言い残して彼らもこの場を去っていった。
残った冒険者達も顔を見合わせると彼らの後を追うように離れていく。
みんなの見切りがすげえ・・・。
「ちょ! 待ってくれ! 今は少しでも戦力がほしいのだ。」ドヴァーズが狼狽えながら悲鳴を上げる。「あんな化け物をこの戦力でどうすれば良いというのだ!」
ドヴァーズの声は虚しく響き渡り、ついに冒険者たちは全員去っていってしまった。
レイド戦を前にして防衛戦線が瓦解しちょる。
残された16騎の騎士たちは突然の展開にあからさまにうろたえている。
「そ、そうだ! そこのハルピエ! ケルダモを守るのを手伝ってくれ。お前たちの村も一緒に守ってやる。どうだ?」ドヴァーズがピネスのところに近づいてきて言った。
「冗談だろ?」ピネスは呆れてドヴァーズを見た。
「もちろん報酬は出すぞ! どうだ、金貨30枚出そう。お前たちには大金であろう。」
冒険者たちに言った額よりだいぶ減っとるやんけ。
「我々の村はもう安全になった。なぜなら、お前たちが役立たずになったからだ。ケルダモの街は我々の村の囮になってもらおう。」
ピネスはせせら笑うように言うと今度は俺に向き直った。
「戦士ケーゴよ。これ以上この男に付き合うのはバカバカしくなった。仲間も心配なので、私はそろそろ失礼させてもらう。」
「あ、はい。」
ろくな返事ができんかった。
急峻な展開についけん。
呆然としている俺たちを残して、ピネスはゆっくりと羽ばたいて浮かび上がると、そのまま飛び立っていった。
ドヴァースが懇願するように去りゆくピネスに向けて手を伸ばす。
「待ってくれ! 街が守れないと私の経歴に傷がつくのだ!」
そこかよ。
俺たち以外の登場人物に善人が居なくない?
こんな奴助けるのは癪に障るけどしょうがない。
ドヴァーズたちと協力してなんとか街を守る方法を考えないと。
街を守るためには少しでも戦力があったほうが良い。
「くそ、戦えるものがいなくなってしまった! 冒険者達を説得するのだ! 皆の者、急いで追うぞ!」
ドヴァーズは声をあげ、慌てて馬に飛び乗った。
「えっ? 俺たちは?」
無視っすか?
「害悪どもが! どけっ!」
ドヴァーズはあんまりな言葉を俺たちに吐き捨てると、冒険者たちを追いかけていってしまった。
俺たちを囲んでいた騎士団たちも俺たちをわざわざ跳ね飛ばすかのように馬を走らせ、慌てて逃げた俺たちの脇を駆け抜けて行った。
そして、俺達だけが取り残された。




