北方国境守護隊
突然の大声に何事かと思っていると、幾人もの騎士たちが進み出てきてあっという間に俺たちと馬車を取り囲んでしまった。
さらに騎士たちの後から徒歩で一緒について来ていたらしい冒険者達が遅れて出てきて、なんとなく騎馬の間を埋めるように俺たちを包囲する。
おそらく、騎士団に雇われているのだろう。
「貴様ら、何てことをしてくれた!!」
さっき俺たちに向かって叫んできた騎士が再び俺に怒声を浴びせてきた。
ちょび髭で細面の騎士だ。
彼は俺たちの前に馬を止めると、ひらりと馬を降りた。
「せっかく時間稼ぎに成功したというのに、考えもなしに余計なことをするから、奴の進路がケルダモに向いてしまったではないかっ! この脳たりんが!! 少しは状況を考えろ!」
ちょび髭騎士が怒りに任せて怒鳴り散らす。
「俺たちはレイドボスと戦っただけです。」
いきなりの頭ごなし、且つ、状況も何もわからないのでムッとして応える。
「それが余計なお事だというのだ。野良冒険者が。」ちょび髭が居丈高に言った。
ピネスは突然始まった人間同士の揉め事に唖然としている。
「お前のような弱そうな冒険者レイドボスと戦うだと? レイドボスは軍や一流が立ち向かうものだ! 貴様らみたいなのがちょっかい出すな! せっかくケルダモから離れていっていたオーバーモースがまた街に向かい始めたではないか。何故大人しく見てられなかった!」
「ハルピエのみなさんを助ける必要があったのです。このままではハルピエの村にオーバーモースが向かっていました。」俺は状況を説明した。
が、
「ハルピエの村を囮に使っていたことも分からんのか!」
ちょび髭がとんでもないことを口走った。
「なんだと!」それを聞いたピネスがちょび髭に詰め寄る。「まさか貴様らは我々の村に向けて、あの化け物を追い込んだというのか!」
「当然だ、獣風情の村と我々の街では人数も違う。壊された時に治す費用も違う。貴様らのような原始的な村は一度壊されたところで、簡単に立て直しなどできるだろう。かかる資金と起こりうる犠牲の重さを考えろ!」
「貴様っ。」
ピネスが槍を構えた。
「ちょっ、今ここで争うのは無しですって、本当の敵はあのレイドボスです。」
今にもちょび髭に躍りかかるところだったピネスを慌てて抑える。
状況を考えてくれ。
この状況で喧嘩売るのはない。
それにピネスはいざとなれば飛べるけれど俺らは逃げようがない。
俺たちをとり囲んでいる騎士と冒険者達が警戒して包囲網を狭めてくる。
「何だって、レイドボスをハルピエたちの村なんかに向かわせたんですか? ケルダモの守護隊なら耐えることだってできたでしょう。城壁もあるし、北方守護隊も居るでしょうに。」今にも襲いかかりそうなピネスに代わってちょび髭に文句を言う。
「私がその北方国境守護隊隊長のドヴァーズだ! 今のケルダモにオーバーモースに対応できる戦力なぞ無い!」
このちょび髭、北方守護隊の隊長か!
なんか、あんま強うそうじゃない。
「それでも防壁のない村にレイドボスをおびき寄せるなんてしちゃだめでしょ。」
「若造が生意気な口をきくな。南にレイドボスが出てることも知らんのか。兵はみなそっちに出払っとる。時間稼ぎをしてケルダモを守る必要があることくらい察しろ。グズめ。」
「ふざけるな! どれだけの犠牲が出たと思っているのだ!」ドヴァーズの言い様を聞いたピネスが吠えて暴れようとする。
「ちょ、待って。」
ケネスを羽交い締めにして抑え込む。
暴れるピネスの羽が顔に当たってこそばい。
「他のやり方だってあったはずです。」ピネスはもちろんだろうが、俺だって納得いかない。
「お前たちごときが納得しようがしなかろうが、国にとって必要なことは変わらん。」ドヴァーズはツンとして言った。「またオーバーモースをコイツらの村に追いやらねばならなくなったではないか。それが、どれだけの苦労か解るか? 命を賭けるのは我々なのだぞ?」
「また、我々の村を囮にする気か!」ピネスが怒りに任せて叫ぶ。
「そうだ、囮が嫌だと言うなら、貴様らは生贄だ!」
「貴様!」
「駄目ですって! 包囲されてますし、俺たちの戦うべき敵はオーバーモースです。」
俺はピネスが襲いかかろうとするのを必死で止める。
ドヴァーズは状況の有利さを確信しているのか、悠々とちょびヒゲを引っ張りながらピネスのことを薄ら笑っている。
「別の方向に誘導したって良かったじゃないですか。」俺はピネスを羽交い締めにしながらドヴァーズに文句を言う。
「はぁ? これだから無知な野良冒険者は。」ドヴァーズは露骨に蔑むように肩をすくめた。「レイドボスが人や街を狙うことも知らん。こいつらの村を囮にするのが最も効率的で有効な策だろう? 納税も何もしていないハルピエ共など守る義務はないのだからな。」
「きさまっ!」
ついに、ピネスが俺の拘束を振り切って槍を構えた。
「ひぃっ!」
ドヴァーズが悲鳴を上げて後ろに逃げる。
そのままドヴァーズを殺しかねない勢いのピネスだったが、一歩踏み出したところで固まった。
ドヴァーズの近くにいた背の低い栗毛の冒険者が二人の間に割り込んで、ピネスの喉元に剣を突きつけたのだ。
素早い動きだった。
そうとうな手練だ。
多分、もう少しピネスが止まるのが遅かったら、冒険者の剣はピネスの首に突き刺さっていただろう。
「偉い偉い。よく止まれたね。やめておきなよ。ハルピエの戦士ごときじゃ僕には敵わない。」
栗毛の冒険者はピネスを挑発するように見上げた。
周りの騎士たちや他の冒険者たちも一瞬遅れて剣を構えて、ドヴァースを守るように壁を作った。
あたりに緊迫した空気が流れた。
「待って下さい!」
一触即発の中、外野から声が上がった。
リコの声だ。
リコが馬車から降りてきたのだ。
「何だ、貴様は。」ドヴァーズが片方の眉を上げてリコを睨みつける。
リコはそんな視線にも物怖じせず、堂々と声を上げた。
「第2特殊騎士大隊、大隊長。エデルガルナ様の名のもとに命じます。その剣を収めて下さい。」




