オーバーモース
ヘイワーズさんの言葉通り、馬車は普通なら3日以上かかる道のりをあっという間の半日で踏破した。
不思議なもんで、アレだけ怖かったヘイワーズさんの運転にも午後にはなんか慣れていた。
街道を見つけ馬車はますますスピードを上げケルダモに爆進中。多分、そろそろつく。
田舎のせいか、それともレイドボスの発生のせいか、畑ばかりの平地を抜ける街道沿いに馬車や人は居ない。
こんな猛スピードの馬車が対向車でやってきたら、相手は危なくてしょうがなかっただろう。
道の両側には一面緑色の畑が広がっている。
開けた農地に遮るものがなく、はるか遠くに小さくケルダモが見えている。
「みんな! あそこ!!」
ヤミンが声を上げた。
ヤミンの指し示す方を見ると、はるか先で大きな何かが動いている。
ケルダモとは別の方角だ。たしか、あっちにはハルピエ族っていう獣人系の種族の村があったはずだ。
「あれがレイドボスのようだな。」ルナ・・・エデルガルナさんが言った。
俺もエデルガルナさん側の窓に寄って遠くの敵に目を凝らす。
四足の巨大な獣。
機械のような金属光沢を持った体。
コイツ、知ってる。
忘れようもない。
オーバーモース。
アルファンで最も嫌われていたレイドボスだ。
攻撃魔術無効。デバフもほとんど効かない。
物理的にも激硬でクリティカルしない限りほとんどダメージが通らない。
出現当時の最高レベルキャラでも、クリティカルなしの最高ダメージは2点だったと言われている。
おかげでレベルが高くても必ずしも活躍できるとはかぎらなかったので、コイツ大っ嫌い。
クリティカルをすればダメージは通常通りに抜ける。
クリティカルを連発できた運のいい奴だけがダメージを加算していくので、レイド貢献度ランキングがバカ荒れして、大炎上したモンスターだ。
見た目は高さ10メートルくらいの狐と馬を合わせたような獣の姿。
全身銀色でツルピカで直線的。生き物というよりは、機械。この世界で言うとゴーレムに相当するのだろうか。
狐のような長い耳。獣のような尖った顔に目は付いてるが瞳がなく、どこを見ているのか、果たして見えているのかも判らない。
10メートルというは大きさはレイドボスにしては小型だ。カリストレムのオオムカデやロックジャイアントたちとたいして変わらない。
俺の鞭なら【フライト】の魔法なしでも攻撃可能なサイズ。
しかもクリティカルのみ有効。
今の俺のためにあるようなボスかもしれない。
正直、クリティカルビルドにしたのはこいつとの戦いを見据えていたところもないわけではない。
「見て、みんな、誰かいる!」
ヤミンが声をあげた。
よく見ると、オーバーモスのまわりの空中にいくつかの人影が舞っている。
人のような大きな鳥のような影だ。
「戦ってるみたい!」
オーバーモースは首を振り回して、上空の人影を追っているようだ。
「助けに行かなきゃ。」
「急ごう。」
「あの化け物の近くまで急いでくれ。」エデルガルナさんが小窓を開けてヘイワーズさんに命令を出す。
「まかせてください! 姐さん!!」
姐さん?
馬車が急角度に方向を変えた。
って、ちょ、畑、畑。
畑に轍を作りながら馬車はオーバーモースに向け爆走する。
めっちゃ揺れる。
オーバーモースに近づいていくと、まわりの人影が何だか見えるようになった。
オーバーモースと戦っているのはハルピエ族だった。
ヤミンのマイルウンと同じように、アルファンオリジナルの種族で人間の背中に羽が生えているフォルムだ。鳥の獣人っぽいがやっぱり頭にはケモミミが付いてる。
彼らは槍を手にオーバーモースに戦いを挑んでいた。
そういえば、アルファンではこのあたりの山地にハルピエの集落があったはずだ。
地上、空中合わせて10人くらいのハルピエたちが戦っている。
「ここら辺で良い。」
ある程度オーバーモースに近づいたところで、ルナがヘイワーズさんに指示。
馬車は麦っぽい作物をドリフトでなぎ倒しながら止まった。
遠心力で片側に寄ってしまった俺たち3人を尻目に、ルナがまっさきに馬車を飛び出していく。
慌てて俺たちも続く。
「ちょ、ルナルナ! 速い!」
ルナの猛進にヤミンが思わず声を上げた。
俺たちが馬車から出た時には、ルナは両手に紫に光る二本の剣を抜くと、下段に構えてオーバーモースに迫ろうとしていた。
ルナが両手に持っている紫の刃が畑の麦を撫でるように刈り取っていく。
あっという間にオーバーモースへとたどり着いたルナは後ろから一気に剣を振り下ろした。
「【大絶斬】!」
高レベルのブッパ技!
カリストレムで大ムカデすらをも分断した攻撃が、無警戒のオーバーモースに後ろから命中する。
が、
「コーン」というけたたましい音とともに弾き返された。
間違いなく効いていない。
オーバーモースが自分のおしりから聞こえて来たけたたましい音に、まわりを飛び回っているハルピエを無視してゆっくりと振り返った。
「ヤミン、【ウィークポイント】だ。」馬車から降りてルナを追いかけていた俺はヤミンに指示。
「はいな! 【ウィークポイント】!」
ヤミンが即座に【ウィークポイント】を放つ。
オーバーモースの脇腹あたりに肋骨の一本をなぞるかのような長細い青い印が現れた。
「ルナ! そいつは、クリティカルじゃ無いとダメージが抜けない!」ルナに駆け寄りながら叫ぶ。「脇腹だ! 脇腹の弱点を狙え!」
ルナは大きく飛び上がり再び両手の剣をオーバーモースの脇腹に叩きつける。
が、駄目!
俺から見ても当たってない。
攻撃が大雑把すぎる。
ちゃんと狙ってるんだよな?
そういや、ムカデの時も無視されたけど、もしかして、ルナって【クリティカル】や【命中】は低いのか?
「ルナ! アタッカーを代わって! 俺の防御を!」
ルナに指示を飛ばす。
ルナのほうが全然強いけれど、このモンスターに関しては関係ない。
こいつにダメージを与えるにはクリティカルさせるしかない。
アルファンの時だって、たまたまクリティカルが連発したプレーヤーやクリティカルビルドのプレーヤーだけがダメージ上位にくるという、レベルも実力も課金も関係のない悪夢のようなレイドランキングだった。
オーバーモース戦を引き金に引退した重課金プレーヤーもいたと聞く。
だが、逆にクリティカルビルドの俺にとっては、低レベルといえども結果を残せるレイドボスだ。
目の前には小さなクリティカルポイントが俺のムチを当ててくれとばかりに青く輝いていた。




