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エルナ

 俺たちは、レイドボス戦以前に、まずはここから出る方法を考えないといけない。


 というわけで、フーディニアスに相談にやってきた。


 ルナはOLルナに着替えてきてる。

 個人的には普段着ルナのほうが好き。

 魔術本部長室に行き、フーディニアスと面会する。


「うむ、お前たちには世話になったからな。協力しよう。」フーディニアスは言った。「仕様をくれ。」


 相変わらずだな。


「誰かテレポートを使える魔術師を知りませんか?」

「転移系の研究者は居ない。」

「えっ、そうなんですか?」


 意外。

 めっちゃ有用な魔法なのに。


「その手の研究は王都に集約されて王城のどこかで行われるようになった。彼らには申し訳ないが私の管轄外だ。」


 なるほど。

 ここじゃみんな好き勝手に研究して、まともな成果出てこなそうだしな。


「【フライト】でも構いません。できれば、山脈の向う側まで持続するとありがたいのですが。」

「【フライト】の魔法についても、研究している魔術師たちは王都に連れていかれてしまった。ここには使える魔術師はいても、他人にかけることのできる魔術師はいないはずだ。」


 まじかよ。


「もしかして、移動関係の魔法を使える魔術師って王都に持ってかれちゃってるんですか?」

「そのとおりだ。攻撃魔法の専門家もだ。」


 そ、そうだったのか。

 魔術都市と言う割に、魔法攻撃がしょっぱいとは思ってたんだ。


「有能な魔術師たちばかりだったので、ここで働かせてやりたかったのだが。私としてもとても残念なのだ。」


 左遷を止めてあげられなかったみたいな口調で言ってますが、俺的には栄転に聞こえてます。

 むしろ、こっちが左遷先のような。


「そうだ! 【フォーリング】を使って、クリムマギカから入り口の下に降ろして貰うことはできますか?」

 【フォーリング】は落下速度を調整できる魔法だ。

 ふっとばした大地から、山脈の反対側にあるケルダモまで大回りすることになってしまうが背に腹は代えられん。

「割れ物でなければ降ろすことは可能だ。あと馬も降ろせないがかまわないか?」

「ええっ? そうなんですか? 馬くらいの大きさなら降ろせませんでしたっけ?」

 アルファンではどうだったっけ? あんま気にした記憶がない。

「降ろす分には問題ない。だが、馬のほうが暴れてしまって無事に着地できないのだ。」

「騎士団でも課題になっています。」OLルナが横から入ってきた。「馬が体重をきちんと支えられるような状態で魔法を解かないと簡単に骨折してしまうのです。」

「冒険者でもよく捻挫したって聞くよね。」ヤミンも補足で冒険者あるあるを入れてきた。


 そんな危険な魔法だったのか。

 そういや、アルファンでも稀に謎ダメージが入る仕様だったけどアレってそういうことだったの?


「馬は必要だよ。ケルダモまで徒歩は結構厳しいよ?」と、リコ。

「他に何かうまく下に降りるような方法ないですかね?」

「協力はしたいが、仕様が漠然としすぎている。技術サイドに仕様を貰ってくれ。」フーディニアスは困ったように答えた。


 というわけで、今度は技術サイド筆頭ディグドのもとへ。


 どうせ、採掘しているだろうから、フェロー室はショートカットして地下の鉱脈へと直接向かう。

 案の定つるはしを振るっていたディグドを捕まえると、いち早く村を出たい旨を相談する。


「それなら一肌でも二肌でも脱ぐぞ!」ディグドは乗り気だ。「ワシにできることもあるしな。」

「おお!」

 頼もしい!

「3週間もあれば下までトンネルが掘ってやれる。わしらも外界と隔離されるのは困るしな。」


 物理。


「もっと、早くならないですか?」

「馬車も通れるようにして欲しいの。でないとケルダモまで歩きになっちゃうの。」ルナもディグドにすがるようにお願いする。

「そりゃ、また無茶を言う。なんかあったのか?」

「実は・・・


 と、レイドボスがケルダモに出現した件を説明する。


「他にも穴掘りのできるドワーフたちは居ないんですか?」

「そりゃわしらドワーフだし、山程居るが、明日までなんて言われたらさすがに魔法使いの領分じゃぞ? エルフに魔法でトンネル掘ってもらえ。」

「おおっ!!」


 そういえば、街に来て早々、土を柔らかくする魔法みたいの見たぞ!

 フーディニアス! 思いついてくれよ!!


 というわけで、例によって魔術サイドと技術サイドを何度も往復して、ケルダモ側へのむけてのトンネルを作成していく段取りを調整。

 魔法で柔らかくした土をドワーフたちが掘り出して、ケルダモ側までトンネルを通してくれるということになった。

 地理系の技術者も協力してくれて、掘りやすい地盤のルートを選択。ついでに最も早くケルダモにつけるようトンネルの出口も調整してもらった。


 フーディニアスがアイデア出しれくれなかったので、最初こそつまづき加減だったが、今回はドワーフにしろエルフにしろみんなが協力的だったのでその後はトントン拍子だ。

 思っていたより良いものが早くできそう。


「任せろ! 最速でお前たちをケルダモに向かわせてやるからな!」

 ディグドがドンと胸を叩いた。

 頼もしい限りだ。


「皆で明日までには道を繋げてみせよう。」

 フーディニアスはいつもの平然とした口調だが、意気込みを自分から発信すること事態が珍しいので、たぶんめっちゃ張り切ってくれてるんだと思う。

 嬉しい限りだ。

 だったら、自主的にアイデアも出して欲しいものだが。


「馬もまかせろ!きっちり改造しといてやる。」

 通りがかかりのドワーフまでもが俺たちに声を駆けてくれる。

 本当にみんな協力してくれて、ありがた・・・えっ?

 ちょっと待って、今の誰っ!? 今なんて言った!?

 何!?

 馬に何かする気なの? やめて!


 すぐに、建築系のドワーフと穴掘り系のドワーフが中心となってトンネル作成が始まった。

 ドワーフ達の建築を見守りながら、俺に馬を改造すると宣言して去っていったドワーフが馬に何かをしにこないよう、入り口ホールで馬小屋を見張ることにする。

 魔力集中棒を使って魔法の訓練をしながら、時折みんなの作業を眺めて時間をつぶす。


 そのうち、ルナがやってきて俺の横にちょこんと座った。

 OLスーツから着替えて、部屋着のルナだ。どうやら、トンネル堀りの調整の仕事は終わったらしい。

「ディグドさんたち、大丈夫そう?」ルナに訊ねる。

「うん。みんな頑張ってくれてるの。いい人たちだねぇ〜。」ルナがぽわ〜とした口調で言った。

「リコとヤミンは?」

「リコリコとヤミン姉は部屋で荷物まとめてる。」

 あいつら毎回荷物多いねん。


「ねえねえ、ケーゴって車に轢かれそうになってた人なの?」


「え゛っ!」

 強烈な質問をルナがぬるっと放ってきたものだから、不意を打たれて思わず変な声が出る。

「そ、そうです・・・。」


 気まずい。

 俺のせいで、一人この世界に来る羽目になったんだよな、ルナは。


「ケーゴ、生きててよかったね!」


 いや、死にましたが。


「助けられてよかったぁ。」

 ルナは本気で嬉しそうに微笑んだ。


 ルナって、すごくいい子だ。

 きっと前世でも素敵な人生を送っていたんだろうに。

 俺のせいで君は死んだんだよな。


「巻き込んでしまって、ごめんなさい。」

 俺はルナに土下座する。

「いいよぉ〜。私も無事だったし。」


 死んでますが。


「でも、こんな世界に転生する事になって、ご家族とも離れることにしてしまって、本当になんて言って詫たら良いか・・・。」

「私、もともと両親とも早くに死んで居ないの。」

「あ、はい。重ね重ねごめんなさい。」

 俺、ホントどうしたら良いの?

「友達と会えなくなっちゃったのは寂しいけど・・・」

「ほんと、ごめんなさい。」

 再び土下座。

「だから、大丈夫だって。」ルナはぷくっと頬を膨らませた。

 そんな事言われたって、心の引け目はちっとも埋まらない。

「今、すごく楽しいの。リコリコもヤミン姉も優しいし、ルスリーちゃんとの王女ごっこも楽しいし。」


 ごっこじゃないです。

 あの人いちおガチ王女です。


「それに、人前でコスプレができるのがすごく嬉しいんだ。」ルナがもじもじしながら言った。

「コスプレ?」

「そうそう、神様に下さいって言ったら【コスプレ】できるようになったの。このスキル凄いんだよ! 本当に上手にコスプレできるんだよ?」


 え?

 服装違うとキャラが変わるのってそのせいなの?

 あれって、コスプレなの?

 世間一般のコスプレの概念に比べてあまりにも中身が伴い過ぎてない?


「だから、大丈夫だよ。ケーゴは気にしないで欲しいんだ。」

 ルナは立ち上がって、正座したままの俺のまえにかがみ込むと俺の頭を撫でた。

「これからも、よろしくね!」


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