あれから
さて、イベントが終わったクリムマギカに話を戻そう。
葬儀が終わり、一夜明けたクリムマギカ。
前方、そして上下左右が放射状に吹き飛んだクリムマギカの入り口から、昨日まではなかった眩しい陽光が差し込んでくる。入り口の向かい側を遮っていた山脈が綺麗に無くなったからだ。
雪を降らしていた雲はどこかになくなり、一面の青空が見渡す限りに広がっていた。
吹き飛んだ入り口の断崖絶壁のギリギリの所に、砲身のめくれ上がったカノン砲がえぐれた大地を見守るかのように佇んでいた。
俺は入り口から外の景色を見渡す。
テキコロースを先端にえぐれた大地がはるか遠くにまで続いている。
すごい景色だ。
研究にしか余念のないはずのドワーフやエルフたちも、この圧倒的な光景を見るためチラホラとやって来ていた。
そんな物見の中にメルローも居て、俺を見つけると声をかけてきた。
「おはよう! ケーゴ! どうだい、すごい威力だろう!」
メルローがとても嬉しそうに一直線に削れた大地を指し示した。
「すごい威力どころじゃないですよ・・・この範囲に人なんて住んでないですよね?」
「大丈夫。大丈夫。少なくとも誰かが住んでるような村や街はこの方向にはないよ。」メルローはやけに自信満々に答えた。
「ホントですか?」
「うん。君の連れてる女の子たちに問い詰められて、ルナちゃんに調べてもらったから間違いない。」
撃った段階では知らなかったんじゃんか。
まさに結果論。
「そんなことより見てよ! 山ごとないんだよ! 完璧な破壊力じゃない?」メルローは興奮冷めやらぬ様子でピョンピョン飛び跳ねる。「エルダーチョイスのじいさんも歯噛みして悔しがってることだろうさ!」
「たしかにすごい威力ですけど、砲身ぶっ壊れてるじゃないですか。ホントに計算通りだったんですよね?」
「まあ、ギリ耐えたんだし良くね?」
やっぱ、結果論か・・・。
「そこはほら、砲身が壊れたのは僕のせいじゃないよ?」
俺の生暖かい視線に気がついたのかメルローは言い訳を始めた。
「あのガラス玉のブースト効果が強すぎたんだよ。正直ここまでの威力は僕も想定外だもの。もしかしたらあのガラス玉、100個は入れ過ぎだったのかも。」
「え? ガラス玉のブースト効果なんてたかがしれてましたよ?」
俺にしか見えてないけど、どれもこれも1.2倍とかだったはずだ。
「さあ、たくさんあるとブーストされるんじゃないの?」
掛け算で効いたとかだろうか?
1.2x1.2x1.2x1.2・・・みたいに?
確かに、乗数ってすげえ増えるしな。
掛け算で効いてたとすると1.2の100乗だろ?
今頑張って【暗算】してみたら、10個目で早くも6倍超えた。
もしかしたら、100乗になって1万倍くらいになってたのかもしれない。
・・・急いでたからって、計算手抜くととんでもないことになるんだな。
これからは、めんどくさくてもちゃんと計算することを心がけよう。
えぐれた大地の先をメルローと眺めていると後ろから誰かが声をかけてきた。
「ケーゴ・・・」
ちょっと躊躇するような感じで呼びかけてきたのはルナだった。
今日はスーツでも礼服でもなく部屋着のようなワンピースを着ている。以前、朝早くに遭遇したキャワワなルナちゃんだ。
なんだかルナは目の前で指先を合わせながらおじおじと俺を見ている。
上目遣いにキュンとくる。
なんで服装でこんなにキャラが激変するのだろうか。
そういや、ルナってエルナだったんだよな。
前世も昨日も命がけで助けてもらったんだよな。
今の見た目と全くギャップがありすぎてピンとこない。
「えーとね。そのね・・・」
ルナはもじもじとしている。
可愛いなぁ。もう!
てか、本来なら前世の件で俺から本気で頭下げなきゃ行けないはずなんだけどなぁ。
謝りやすいのでエデルガルナさんになってくれないだろうか。
「どうしたの?」
「助けてほしいの・・・。」
「何かあったの?」
ルナには恩返ししたい。
何だってするぞ?
「えーと、その、一緒にレイドボスと戦って欲しいの。」
「はい?」
レイドボス?
はるか南で騎士団や冒険者達が戦うと聞いてる。そろそろ戦いが始まっててもおかしくない。
本来だったら俺の代わりにここに来るはずだったエイイチもそっちに召集されてるんだったよな。
「レイドボスがケルダモの街に向かってるから、私が行かないといけないの。」
「えっ?」
もしかして、エイイチたち負けたのか!?
「まさか、みんなレイド戦に負けたの!?」
「違うの。」
ルナは首を振った。
そして信じられないことを口にした。
「もう一体レイドボスが現れたの。」




