葬儀
入り口のホールに戻ってくると、ドワーフたちが白い服をを身にまとって並んでいた。
その後ろにエルフたちが様子を見るかのように集まっている。
ドワーフの列の最前列にはリコとヤミン。
二人の前には小さな人形のようなドワーフ像が花に囲まれて置かれていた。
「ケーゴ! どこにいってたの!?」
俺に気づいたリコが駆け寄ってきた。
目が真っ赤だ。
「これは何をしているの?」
「ルナちゃんの・・・ルナちゃんを空に送るの・・・。」
リコは答えを返しながら、再び泣き出した。
「うん。」
そっと、肩を抱きしめる。
リコからこらえきれない嗚咽が漏れてくる。その肩はずっと上下している。
「ケーゴ・・・。」
ヤミンも寄ってきて俺にしがみついて泣き出した。
「私がもっと強ければ・・・。私がもっと頑張れば・・・」
「ヤミンも頑張ったよ。」
俺はそっとヤミンの右手を取って手のひらを見た。
何重にも撒かれた右手の包帯は、その下から滲み出した血で赤く染まっていた。
弓の引きすぎだ。
手が切れるまで引いて、きっと包帯を巻いてからも引き続けて。
「後で治療して貰おう。」
ヤミンは俺の胸に泣き顔を隠したまま、こっくりと頷いた。
幾人ものドワーフたちが自分の娘でも死んだかのように泣いてくれている。
短い間だけど、ルナは彼らにとってもこの苦難を超えるため一緒に頑張ってきた仲間だ。
「みんな・・・何してるの?」
誰かが俺たちに声をかけてきた。
「リコリコ、ヤミン姉、どうしたの? 誰かがいじめたの?」
聞き覚えのある声に俺たちは、ゆっくりと顔を上げる。
「「「ルナ!?」」」
そこには、ボロボロの出で立ちで心配そうに俺たちを見ているルナが立っていた。
「ルナちゃん!」
「ルナルナ!!」
リコとヤミンがルナに飛びつく。
「生きてた!」
「ど、どうして? 」
「なんか、飛ばされた?」ルナは自分でもよく分かってない様子で首をかしげた。
「飛ばされた?」俺は意味が分からずルナに訊ねる。
「うーん? 分かんないの。」ルナ自身もよく分かっていないらしく不思議そうに首をかしげている。
「ああ、ベクターには緊急時用に【テレポート】を積んどるんじゃ。だから、中の人間に危険はないぞ?」
エルダーチョイスさんが俺たちに寄ってきてルナの代わりに説明した。
え?
知ってたの?
「あれ? じゃあ、この葬儀は?」
「壊されたベクターの葬儀じゃ。」
エルダーチョイスさんが涙を拭うように目頭をこすった。
「壊れてしまったのは本当に残念じゃ。」
「本当にベクターは最後にワシらのために大きな仕事をしてくれたもんじゃ。」
ドワーフたちが俺たちのもとに集まってきた。
「よ、鎧の葬儀だったの?」ヤミンがドワーフに訊ねた。
「そうじゃぞ? 最初っからそう言っとろうに。」ドワーフが答えた。
「大砲の爆発でよく耳が聞こえとらんかったようじゃな。」別のドワーフがヤミンの背中を叩いた。
色々と力が抜けて、俺はその場にへたり込む。
生きてた。
良かった。
また、俺のせいで死なせてしまうところだった。
くそ。
ださい。
みんなの前では泣かないように我慢してたのに、安心したら涙が止まらない。
今度はリコとヤミンがそっと俺のことを抱きしめる。
「ケーゴ? 大丈夫なの? どこか痛いの?」
ルナがしゃがみこんで心配そうに俺に訊ねた。
「うん・・・大丈夫。これ以上ないくらいに大丈夫。」
「再会を喜んでいるところ、すまんが、ルナよ。あんたも、ベクターのために祈ってやってくれないだろうか。」エルダーチョイスがルナに頭を下げた。「鎧になる前はワシの親友だったんじゃ。」
「鎧になる前?」
ルナは首をかしげた。
「そうじゃぞ? ベクターは生きる鎧を作成するために自らの体を鎧へと変化させたのじゃ。」近くにいたドワーフがエルダーチョイスに代わって答えた。「最後にべっぴんさんに着てもらえてベクターも本望じゃったろうて。ありがとうな。」
「ひぃい。」
ルナが青い顔で悲鳴を上げた。
ルナを喪主として、ロックジャイアントに引きちぎられたジェット鎧の葬儀は進められた。
自分が今まで身にまとっていたものが元はドワーフだったと知って、ルナはちょっと嫌そうな顔をしている。
リコとヤミンも勘違いして参加させてくださいと言ってしまった手前、参加せざるを得ず、ルナのすぐ後ろでしめやかに葬儀を進めている。
俺はエルフたちと一緒に後ろからしばらく葬儀を眺めていたが、思いのほか長くなりそうなのでこっそりと列を離れた。
そして、再び、ラミトス神殿に戻ってきて、祈りを捧げた。
今度は一発でアサルの元へと迎え入れられた。
「やあ、また来たねえ。」
アサルはニヤニヤと笑いながら俺に声をかけてきた。
「ごめんなさい。エルナは生きてました。」
俺は素直に頭を下げて謝った。
「ちょっと言い過ぎました。」
「それが、頭を冷やしてきた結論?」
アサルは冷たい声で尋ねた。
そんな冷たい声をアサルの口から聞いたのは初めてだった。
俺は思わず顔を上げる。
「謝らないでくれ、ケーゴ君。むしろ謝られたほうが気に障る。君の線引は自分本位すぎて腹が立つ。それはただの君の境界線だ。世界に正義として提示して良いものではない。」
さっき散々罵ったときにすら感じられなかった苛立ちのようなものがアサルの口調に感じられた。
「中の人にこんな事言っちゃホントは駄目なんだけどさ。ちょっとだけ言わせて貰うよ。」
アサルの口調に今までの飄々とした感じは無い。
彼は至極真面目な声で俺に告げた。
「さっき君が言っていた通り、僕たちは君たちを大勢殺したい。」
えっ?
「魔術都市が落ちなかったのも、カリストレムが落ちなかったのも僕らにとっては失敗なんだ。」
アサルは何を言っている?
彼は――神は俺たちの敵だというのか?
「この落とし前はきっちりつけさせてもらうよ。」
「おい! それはどういう・・・」
俺の問いかけに答えはなく、またも俺はクリムマギカの小さな祠の前にはじき出された。




