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職場改革

 マディソン商店の店頭は今日も忙しい。


「ハイ、〆て24581魔導力分の魔石になります。とって参りますので少々お待ちください。」

 戸口の向こうカウンターから愛想良い声が聞こえ高と思うと、窓口のマリアナさんが今までの営業ボイスはどこへ、超絶悪態をつきながらバックヤードに入って来た。

「ちっ、今日は携帯食すら食べれないわよ! あの役立たずのケーゴがきちんと働けてれば・・・。」

 とそこまで口に出したところで、マリアナさんは俺がバックヤードに居ることに気づいた。

「ちょっと、あんた邪魔よ。」


 午前中に商隊との大口の取引があったのと、今週分の魔石の納入が営業時間帯にずれ込んだせいでマリアナさんたち受付は現在超絶忙しい。

 人員コストを繁忙時に合わせないのは異世界も日本も同じだ。

 すでに店の外に客が5人並んでいる。

 お客さんの列の整理は計算の遅い(と思われている)俺の役目だ。


「客の誘導はどうしたのよ。こんなところでサボってるんじゃないわよ。」俺が退く気配を見せなかったのでマリアナさんは続けて文句を言った。

「列の誘導ならもう終わりました。」

 今まではダラダラやって店に戻ってこないようにしていただけだったので、真面目にやれば列の誘導なんて実はあっという間だったりする。


 本当はこういう時、俺は店に居ないほうが良い。

 忙しい時に暇な人が居るのは忙しい人に迷惑なのだ。


「だからって戻ってこないで! アンタがここに居ると迷惑なのよ!」

 ほらな。

「邪魔! どいて! 魔導力計を使いたいの。」


 魔導力計は魔石の魔導力を計るための計測器だ。

 これで、客の必要な分の魔石を測り取る。


 体重計のような魔導力計の上には、すでに俺が置いた魔石のバケツが置かれていた。


「どけて!」

 朝から仕事がはかどらなくてイライラマックスのマリアナさんがきっと俺を睨んだ。


「魔石ならすでに取り分けておきました!」

「は?」

 俺は得意気に魔導力計を指し示す。

 魔導力計は『24581』を表示していた。

 ちなみに、どういう仕組みか解らんが、計器のデジタル表示部分をはみ出して、『.97652666』の小数点以下が俺には見えている。

 筆記した数字は普通に整数で見えるのだが、魔法絡みの『表示』に類するもについては、小数点以下まで見えてしまうらしい。


「どうぞ、このバケツをお持ちください。」

 俺は戸惑っているマリアナさんにバケツを差し出す。

「え? 何で!?」

「先ほどのお客様相手のやり取りを聞いて入れておきました。」

 ホントは客を並べた時に記録板を見せてもらって全部メモって計算してある。

「あ・・・ありがとう。」

「もし、忙しければ、カウンターから声をかけてください。魔石を準備しておきます。」

「え、ええ・・・。」

 マリアナさんは訝し気に俺を見ていたが、客を待たせるわけにはいかないのでバケツを持ってカウンターに戻っていった。


 次の客の準備をしておいた方がよさそうだ。

 次に来そうなのはマルテン・ジョージさんの分かな?

 魔石の入ったたるからシャベルでバケツに魔石を放り込んで、『64380』に合わせる。


「ケーゴ、邪魔よ! 今、仕事中なんだから、計りの前ウロチョロしないで!」

 カウンターから魔石を計りにクロエさんがやって来た。

「あ、クロエさん。64380です。」

「あっそ・・・えっ?」

「どうぞ。」

「持ってって良いの?」

「ええ。次も計りますから、カウンターから声で知らせてください。」


 さて、次。『44626』

 バケツから石を入れて魔導力計で魔導力量を計る。


 ちょっとして、ヌサさんが入って来た。

「何してんの? 邪魔なんですけど。」

 みんなして・・・

「44626取っときました。」

「だから何だって言うの・・・え? アレ? 私のと同じなんですけど??」

「持ってって下さい。」

「え!? 良いの? ラッキー!」

 気分屋のヌサさんは良いことあったとばかりに俺の用意したバケツを手に持って、嬉しそうにカウンターへと戻って行った。

 慌てて後ろから声をかける。

「カウンターから必要な魔石を言ってくれれば準備しますので!」


 そして、あれよこれよのうちに昼休み前。

 並んでいた客は全部はけた。


「いやあ、まさか、ランチ前にあれがさばけるなんてねぇ!」

 客の並んでいないカウンターでニッコニコのマリアナさんはそう言って大きく伸びをした。


 誰も働いてない状況がこの店の店頭に生まれるのは珍しい。

 いつものこの時間は、捌ききれなかった客が待っていたり、記帳した書類のまとめなんかが残っていて暇なんてない。


「絶対お昼抜きだと思った。」

「もうファイルのまとめも終わってるんだけど。」

 マリアナさんが嬉しそうに言いヌサさんが同意する。

「ケーゴのおかげよね~。」

「なによ、ケーゴ、やるじゃん。」

 今度はクロエさんが俺を肘でつつく。

「いぇへへ、それほどでも。」

 でっへっへ。

 素直に照れる。褒められなれてないのでめっちゃ顔に出てるのが自分でも分かる。


 3人で回してたのが4人がかりになったのに加えて、俺が魔石を入れる事に専念したので、さらに効率が上がっている。

 午前中が終わってみればいつもとは違う昼下がりに先輩たちのご機嫌は上々だ。


「カムカにヘルプ頼むと後で色々うるさいもんね。」

「これなら久しぶりにランチ行けるんじゃない?」

「確かに、交互で回しましょ。」

 お姉さま方が談笑している。普段は見られない光景だ。


 マディソン商店に昼休みなんてものは無いが、合間で飯を食べることは許されている。

 基本的には午前中の仕事が押すので、彼女たちの食事はいつも店においてある干し肉と黒いパンだ。冒険者が洞窟とかで食べそうなやつ。ちなみにタダじゃない。


「俺、今日、昼休みカウンターに入っていいですか?」


 実のところ昼の12時から40分くらいまでは客が入ってくることはほとんどない。客にとっても昼食時間だし、午前中の客が待っている事も多いので、昼飯時を狙って来る客はめったにいない。

 この時間であれば足でまといと思われている俺がカウンターに入ったとしても、そうそう問題は起きないし、フォローも簡単だ。

 カウンターに入れてもらえる可能性がある。


 お姉さま方は互いに顔を見合わせた。

「まあ、13時前までは客が少ないし、また、魔石を取る係りをやってもらえば良いんじゃない?」

「そうね。」


 OK! 


 俺がカウンターに入ることになったので、前半後半で二人ずつ休憩を取ることになり、クロエさんとヌサさんが先にランチへ出て行った。

 俺とマリアナさんとで受付業務だ。


「アンタ、急にいい事思いついたもんね。」マリアナさんがご機嫌な様子で俺に話しかけてきた。

「ありがとうございます。さすがに、今日みたいな忙しい時は腕がパンパンになっちゃいますが。」そう言ってから、俺はマリアナさんのご機嫌を覗う。「この方法を続けていっても良いですかね?」

「良いんじゃない? こっちとしては願ったりよ。まあ、カムカがなんて言うか解らないけど。」

「カムカさんも喜ぶんじゃないですか?」

「あの人、色々変わるの嫌いだから。自分の思い通りにならないことは全部禁止にするわよ。」


 カムカ、そういうタイプか・・・。

 だとすると、最初につけ込むならスージーかな?

 スージーは金儲けになると分れば絶対にこっちの提案に乗る。


 と、この時間には珍しく客が一人入って来た。

「すみません。これをお願いします。」

「はい。」

 俺は即座に客を受付に案内しながら、記録板の束を受け取った。


 この一瞬がチャンス。


 マリアナさんが計算しやすいように記録板をカウンターに並べる。

「計算はいいわよ、私がやっとくから。ケーゴは魔石をとって頂戴。」

「はい、『23205』ですね。検算お願いします。」

「えっ!? ああ、・・・はいはい。」

 どうせ、間違ってるんだろうとマリアナさんが計算を始めたので、俺はバックヤードで魔石を取り分けにかかっった。

 やもあって、マリアナさんから驚きの声が上がる。

「232・・・0・・・5!? えっ!? あってる?」

 計算を終えたマリアナさんが驚いてこっちを振り返った時には、俺は『23205』分の魔石が入ったバケツを準備して後ろに立っているのだった。


 一応、俺だってここで働いてる間、この店に役に立とうと頑張ってたんだ。


 【暗算】 1.00000005レベル。


 これはさっきようやく形になった少年ケーゴの意地だ。


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