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 それは、私がミランダ先生のところに来て三日目の朝のこと。その人はやって来た。


「久しぶりだな」


 低い声と紅色の瞳に鋭い目つき、そして高圧的な雰囲気を纏い私を見下ろすその人は……私の兄弟弟子である。


 私は気づかれないよう小さく息を吐き、まっすぐ兄弟弟子である彼の顔を笑顔で見つめる。


「久しぶりだね、ルーディ。また雰囲気の圧がすごいことになってるよ」


「そうか?」


「うん」


 私はルーディの問いかけに大きく頷く。


「う、ぐっ……これでも昔よりはよくなったほうだと思っているんだ」


 どんどん尻すぼみになっていって聞き取りにくかったが、なるほど昔よりよくなっていると思っているのか……。


 言われてみれば確かに昔よりは、いいのかもしれない。だけど圧を感じてしまっているからなあ。ああ、でも今のは言わないほうがよかったかもしれない。


「ごめん。今のは言わないほうがよかったね」


 頭を下げて謝る。すると大きくて冷たい手が私の頭を撫でる。


「いや、それは別に問題ない。むしろお前のようにはっきり言ってもらえると助かる。俺もこの癖は直したいしな」


「そう?」


「ああ」


 さっきよりも幾分雰囲気が柔らかくなったルーディ。


「俺は今日から二週間ここで作業する。その間いろいろと頼むぞ、リラ」


「任せておいて! ルーディ!」


「おや。騒がしいと思ったら、やっと着いたか。ルーディ」


「ただいま戻りました。先生」


 ぺこりと頭を下げるルーディの雰囲気が、また高圧的になっている。


 あー、先生を前に緊張してしまったか。いや、うん。わかってはいた。昔っからそうだし。だけどこうも想像通りにいくと私も驚きで目が飛び出ちゃうよ。


 そんなルーディの頭を撫でて先生は中へ入るよう促した。


「失礼します」


 歩き出したルーディの顔を見て、服を軽く引っ張る。


「ルーディ。顔怖い」


「……これでどうだ?」


 ぱぱっと顔に触れたルーディは、私を見る。


「ん、それなら大丈夫!」


 そこにはレアモンスターよりもレアな柔らかい笑みを浮かべたルーディがいた。私はにししっと笑い、ブイサインをつくりルーディの手を引く。


「たぶんミランダ先生の特製ホットミルクが待ってるよ!」


「それは楽しみだ」


 二人顔を見合わせ、小さく声を出して笑う。


 私は、こうして変わらないやり取りができることが嬉しい。



            ***



 ミランダ先生特製のホットミルクを飲み、ほっと一息吐く。そうしてほのぼのしていると、ミランダ先生が口を開いた。


「ルーディ。あれは持ってきてくれたかい?」


「はい」


「そうかい。それじゃあそれを飲み終えたら、早速作業を頼むよ」


 ルーディを見ると、返事の代わりにこくんと頷いていた。


「ルーディ。あれってなに?」


「百年鹿の角に浮かぶレース、それに溶岩洞窟にできる氷石。他数点ミランダ先生に頼まれたものを持ってきたんだ」


「……ああ、なるほど」


 そうだそうだ。そうだった。ルーディは貴重な材料を集め美しい装飾品にする職人だった。つまり月光華の回りに作る装飾を担当するんだな。


 ふむふむと一人ホットミルクを飲みながら頷く。


「あ、そういえばミランダ先生。お聞きしたいんですけど、月光華はどこかに出展とかするんですか?」


「おや、言ってなかったかい? 今度、クリエスタルで祭りがある。そのメインになるところに飾られるんだよ」


 ミランダ先生の言葉に、目玉と心臓が飛び出そうになった。


「う、えっ!? メイン?! メインですか? うわお、ワタシキンチョウデテガフルエマス」


 かたかたかたと手が震え持っていたマグカップが小刻みに揺れる。


「ふは、大丈夫だよ。そこまで緊張することはないさ。ちゃんと丁寧で綺麗に造ってくれているよ」


 ミランダ先生には頭を撫でられ、ルーディには背中を擦られる。それでどうにか落ち着きを取り戻す私。


「さあ、リラ。お前も飲み終えたら、作業の続きを頼むよ」


「はい!」


「私は先に工房に戻っているから」


 私とルーディは同時に返事をしてミランダ先生を見送る。


 早く飲み終わらなきゃ。そう思ってマグカップを持つ。


 今日は月光華の花びらを造っていく。一番慎重にかつ大胆に削っていかなくてはならない。でもそういう作業こそ、職人としての魂は燃える。緊張はするけどそれはそれで楽しいのだ。


「ルーディ。私、先に工房に行くね」


「ああ、わかった」


 私はマグカップを洗い、工房へと向かう。そして外にある小さな休憩場所で作業用ローブを見に纏い、工具を入れることのできるベルトを腰に巻く。


「よーし! やるぞー!」


 工房に入る前に気合いを入れ、体をぐっと伸ばす。


「あの、あなたはリラ・クリスさんですか?」


 突然後ろから自分のフルネームが聞こえて、声の聞こえた森のほうを見る。そこには、どこかで見たことのあるような翡翠色の髪をした女性が立っていた。

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