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遅い昼食を食べ終えた私は、ミランダ先生と一緒に先生の工房へと来ていた。
「わあ、すごいっ……!」
目の前に広がる光景を見て思わず声が出る。
私の前にあるのは、淡く輝く月の魔法石。こんなにも綺麗な月の魔法石を見るのは、とても久しぶりだ。
「リラ。私はこの石を月光華の形にしたいんだ」
ミランダ先生が月の魔法石に触れる。
もしかして私がここに呼ばれた理由って……。
呼ばれた理由を想像して、さあああっと血の気が引いていく。
「お前に、この月の魔法石を月光華の形にするのを手伝ってもらいたい」
や、やっぱりかああああああ。いや、はい。そうだと思いました。ミランダ先生がそうおっしゃるだろうことは想像つきました。でもですね。あの、月の魔法石って普通の魔法石よりも数千倍貴重な石なんですよ。それに今目の前にある月の魔法石は、昔練習用だって言ってた月の魔法石より何十倍も大きいですよ。失敗したら何十年何百年と月の光が染み込むのを待たなくてはならない。
そんな貴重な石を相手に失敗しない自信はない。絶対に緊張で手が震えたり、何かしらのドジをする。
あああああ考えただけで、胃痛が……。
「リラ」
「はい。先生」
「私の一番弟子のお前なら、やれるだろう?」
私の心の声を読んだかのような問いかけをしてくるミランダ先生。
「それに私は、弟子だろうができない職人を呼ぶようなことはしない」
そう言いながら、鋭い目つきで私を見つめる先生。
ミランダ先生のことを知らなかったら、きっと怒っているのだと誤解していただろう。だけど私にはわかる。自信のあるときによくする目つきだ。
私は、失敗を恐れる私を遠くの山に思いっきり投げて元気よく返事をする。
「ミランダ先生! ぜひお手伝いさせてください! 私、すごく頑張っちゃいますよ!」
「それじゃあ今の言葉通りすごく頑張ってもらおうかね」
月の魔法石を削る特殊な工具が次々と私の元にやって来る。
わお、これ私が昔使っていた工具だ。まだ持っていてくれたんだなあ。
しみじみとそう思いながら、頬が緩むのを感じだ。
***
月の魔法石を削るたびに、ぽうんぽうんと優しく音が鳴る。そして削られたところからは小さな淡い光の粒が出て、宙を舞い静かに消えていく。
そんな優しい空間。
他の魔法石にはない、月の魔法石だけに起こる現象。
触れたことはないけれど、月の光に触れているみたいな気分になる。
「……」
私は頬を緩めながら、楽しく慎重に作業を続ける。
「リラ。少し休憩しようか」
作業を始めてどれくらいの時間が経ったのだろうか。
ミランダ先生の声に顔を上げると、窓から見える外が紺碧と黒を混ぜたような闇夜になっていた。
「ありがとうね、リラ。おかけでだいぶ作業が進んだよ」
ミランダ先生は私の頭を撫でながら、優しい声で話す。
私は修行時代を思い出して、なんだかくすぐったくなってきて口元に笑みを浮かべた。
やっぱり私は、ミランダ先生のこういう何気ない優しさが好きだ。胸のあたりがぽかぽかする。
「ミランダ先生! 休憩が終わったら、もっと気合いを入れて頑張りますね!」
拳をつくり元気よくミランダ先生に伝えると、ミランダ先生は目元を少し下げて笑った。
「頼りにしているよ。ただ、あまり頑張らなくていいんだ」
私の頭を撫でていた手は、私の手を持ち上げ優しく包む。
「リラ。お前は既に私が驚くくらい、頑張ってくれている。それにね、どれだけ素晴らしい月光華が出来上がっても……お前が倒れてしまっては意味がないんだよ。だから、頑張らなくていい」
先生の言葉が耳に入った瞬間「ああ、私は頑張っていたのか」と思う。そしてじんわりと伝わる優しい温かさに、なぜだか突然胸が締め付けられ目頭が熱くなる。
「リラ。私の言葉は伝わったかい?」
私の目線にあわせ、屈む先生。私はじっとその深い青色の瞳を見つめ笑顔をつくる。
「……はい! 先生!」
私の返事を聞いた先生は、満足気に笑い私の頭を撫でた。




