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ミランダ先生と同じ真っ黒な家に着いた私たち。
私は視線を屋根に向けて、笑顔で手を振る。
「こんにちは、マダム」
マダムというのは、ミランダ先生の家のことだ。
お喋りする、生きた家。ミランダ先生が『おはよう』って言ったお家。
『おやまあ、これはこれはリラのお嬢ちゃんじゃないか。久しぶりだねえ。元気だったかい?』
マダムは、独特のゆったりとした優しい少し低めの声で話す。
私はマダムの話し方と声が好きだ。耳によく馴染んで、心地がいい。
にんまりと笑ってマダムに返事をする。
「元気だったよ。マダムは?」
『私はこの通り元気さね』
マダムに目や口はないけど、雰囲気で今こんな気持ちなんだろうなあというのがわかる。それは見習い時代に一緒に過ごしてきた、私の特権だ。
ふふっ、とさらに頬が緩む。
「リラ。中へおいで」
ミランダ先生は、しかめっ面で私に言う。
「はーい! それじゃあまたね、マダム!」
マダムに笑顔で手を振って中へ入る。
中に入ったらまず最初に手を洗い、次にうがいをする。これをやらないと、ミランダ先生の愛あるチョップを食らうことになるのだ。それが終わったら、ぱたぱたとミランダ先生の元へ一直線。
「お前のことだ。お昼を食べてないんだろう。ほら、これをお食べ」
「っ、わあ! こ、これはっ! ミランダ先生特製のタマゴサンドじゃないですか! え、わあ! ありがとうございます! それでは早速! いただきまーす!」
私は一息に言葉を声に出し、タマゴサンドを手にとる。そして大きな口を開けて、タマゴサンドにかぶりつく。
瞬間、口いっぱいに広がる美味しさ。
「んー! おいっしい! ミランダ先生流石です!」
パンのふわふわと少し甘めの卵の味が口いっぱいにある幸せ。
「ゆっくりお食べ。誰もお前のタマゴサンドをとったりしないから」
私の向かいに座ったミランダ先生は、左肘を机につけ手で顔を支える。
その顔は、しかめっ面。
「ん、ふふ……」
だけど私にはわかる。ミランダ先生が今笑ってて、少し照れているのを。
ときどき優しい感情が表情に出るときもあるけど、だいたいはしかめっ面だからなあ。だからだろう。多くの人に誤解されてしまうのは。
ああ、もったいないな。本当は、笑顔が素敵な優しい魔法使いなのに。
そう思いながら、もふもふとタマゴサンドを食べるのだった。




