闇色の魔法使い
その人は、明るいところに出てこない。
私は、暗いところが好きだよ。
その人は、暗い暗い森の中に住んでる。
私は、木々が好きだよ。
その人は、いつもしかめっ面。
私は、面白くもないのに笑わないだけだよ。
その人は、怖くて優しくない。
私は……。
闇色の魔法使いは、口を閉じ眉間にしわを寄せた。
カーカーとカラスが鳴いている。
その声を聞きながら、私は頭を抱え生い茂る木々の間でしゃがみこんでいた。
「……」
あれ、おかしいな。こんなはずじゃなかったんだけど。どうしてこうなった。なぜこうなった。いったい私になにが起きたというんだ。
私はぐるぐると朝から今この状況になった経緯を必死に思い出す。
「……ううっ」
涙が出てきた。そうだこれが通常運転中の私、リラ・クリスだった。
「辛い」
つまりなにが言いたいかというと、迷いました。
そう、思いっきり景気よく迷いました。いつぞや方向音痴ナオールを飲んだから大丈夫になったはずなのにね……でも実は方向音痴ナオールは二週間くらいで効力を失いますって注意事項で書かれていた。めちゃくちゃ小さな字で。あれを見つけたときの私の絶望は半端なかった。だけど大丈夫かもっていう淡い期待を胸に、目的地目指して来たら迷ったよね。目的地には数えきれないくらい通ったというか、住んでいたのに迷った……。
もう最初のほうで私が迷っていたことに気づいていたという人は、手をあげてください。
「……うわあああああん! 画面越しにいるみんなじゃないかあああああうわああああんっ!」
ばんばんと地面を叩き、崩れ倒れる私の頬は地面とこんにちは。
もうわけがわからないことを問いかけるくらいには心が砕けている。画面越しってなんだ、私よ。
「なにやってんだい、リラ」
呆れたような、驚いているような声が頭上から聞こえてくる。私は顔だけを上げて声の主を見る。
「ぐすっ、ミランダ先生」
私は涙でぐしゃぐしゃの顔で、今日会いに来た全身真っ黒な服を着ている女性の名前を呼ぶ。
「なんだいその情けない顔は。まあた迷ったのかい?」
「ずみまぜん。迷いすぎて心が粉々に砕け散りました」
「ほら、お立ち」
ミランダ先生の手を借りて私は立ち上がると、ぱんぱんと服についた土を先生がはたいてくれて私は頬についた土をとる。
「予定の時間を過ぎても着く様子がなかったから探しにきて正解だったみたいだね」
眉間にしわを寄せて呆れ顔だが、その声は優しい。
「うう、すみません。ありがとうございます。暗くなってきてどうしようかと……」
言い終わってから、鞄から出したハンカチで涙を拭く。
「変わらないねえ、リラは」
頭をぐりぐりと不器用に撫でられる。そのおかげで落ち着きを取り戻してきた。
さすがに今回の迷子事件は私の心を元気よく砕いてきた。見知った場所で迷うなんて、と。でもミランダ先生が私のことを見つけてくれて本当に嬉しい。
「ほら、行くよ。早くしないと獰猛種たちが起きる」
私の左手を握り、歩き始めるミランダ先生。その手は少し冷たくて、でも温かい。
私は小さな声で笑って、引かれるまま歩き始めた。




