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 書庫がぐしゃぐしゃになるのも気にせず、一心不乱に魔法書を探す私。でも、どこを見てもそれらしい本の姿がない。


「どうしよう! 見つからない!」


 だんだんと焦りが出てきた。


 んー、どこに置いたんだろ。


 がさがさと色んな箱や棚を漁り続けるけど、本当に思い出せないし見つからない。


「困った……」


 あれがないと今回の依頼は成功できないのに。


「ああ、どうしよう……」


 もうお爺さんも書き終わってるよね。


 うろうろしながら焦っていると、置いてあった木箱に躓いて転んだ。


「っ……痛い! とっても痛い!」


 足を押さえて悶え苦しむ私。あ、足の指がじんじんする。


「焦ったのが駄目だったのかな……」


 すぐに持って行けると思っていたのに……こうなるなら、見つけてから依頼を受ければよかったのかもしれない。でも……お爺さん悲しそうだったし。諦めるな、自分。この中に絶対にあるから。


「ふう……」


よし、足の痛みで少し落ち着きをとり戻してきたぞ。リラ、落ち着いて考えるんだ。お前なら思い出せるし、見つけることが出来る。自分を信じろ。


「あれ……そう言えば棚の下とか探してないような」


 それに気づいた私は、床に膝をつけ棚の下を覗いてみる。


「んー、よく見えないなあ……」


 目は役に立たないので、棚の下に腕を伸ばして本を探していく。


「……!」


 何か固いものに触れた。それを掴んで取り出してみれば、埃まみれの本が出てきた。


「うわ、汚い」


 埃を払い、置いてあった布で本を拭く。

 綺麗になった本は、紅くていかにも魔法使いが使いますよ的な本だった。


「あった……! これだよ! これ! これが必要なんだよ!」


 わーっと本を持ちながらくるくると回る……いやいやいや、回ってる場合じゃないでしょ。今はお爺さんのいるお店へ急がなきゃ。


 それでなくともずぼらな自分のせいで待たせてしまってるんだから。私よ、今度からはちゃんとしよう。



           ***



「あ、リラさん」


 ……そんな心配そうに見ないでください。大丈夫です。転びませんよ。


「お待たせしました! 紙は書き終わりましたか?」


「はい。確認しましたが、空欄もありませんでした」


「ありがとうございます! では、今からこの紙に書かれていることを読みあげます」


 私の言葉を聞いたお爺さんは驚いた顔をした。まあ、それが普通の反応だと思う。


「嫌かもしれませんが、必要なことなので読みあげますね。そして合っていたら、返事をお願いします」


「……はい」


「あなたがここへ来たのは、手紙の封を開くため」


「はい」


「あなたとその人物は、夫婦である」


「はい」


「その人物と過ごした日々は、楽しく幸せなものだった」


「はい」


「その人物に隠していることは、ありません」


「……はい」


 私はそこで読みあげるのを止めた。お爺さんの瞳が戸惑いに揺れたのを見逃さなかったからだ。


「私がこの紙を書く前に言ったことを覚えていますか?」


「はい」


「なら、なぜ嘘が書かれているんですか?」


「私は真実しか書いていません」


「いい……っ!」


 言葉を返そうと声を出したのだが、手元から音が聞こえ途中で口を閉じる。そして視線を手紙に持っていく。


「……」


 悲しい音……ああ、そうか。手紙が泣いてるんだ。静かに、けれど真っ直ぐに向けられる切ない音。それは心を締めつけ、私を包む。


「……手紙が開かない理由がわかりました」


 するとお爺さんは目を見開き、口を開こうとして止めた。そして私の言葉を待つように、じっと向けられるお爺さんの瞳。


「あなたの嘘……いえ、隠していることが原因です」


「何を言っているんですか? わたしは正直に答えました」


「手紙が泣くんです。お爺さんが嘘を言うたび悲しそうに……」


「……」


「だから、隠さないでほしいんです」


「私は……正直に話しています」


 今にも声をあげて泣いてしまいそうな……そんな辛そうな顔をして言葉を発するお爺さん。


「……」


 私は何も言わず、さっき持ってきた魔法書を開いて机の上に乗せた。そしてぱらぱらとページを捲り、目的のページを開く。そしてそのページに手紙を置き、詠唱を始める。


 本当は違う魔法を使う予定だったけど、恐らく今回はこの魔法がいいと思う。


 詠唱を終えると、手紙から綺麗なお婆さんが姿を現した。


 このお婆さんは、手紙に込められた想いが具現化したもの。そしてそのお婆さんは、ゆっくりと言葉を紡いでいく。


『きっとエドワードは泣いてしまうわね。あの人はわたしを愛してくれているから』


「……婆さん」


『泣いて泣いて、きっと涙が涸れても……ずっと、泣いている気がするの』


 お婆さんは誰かに話しているような、そんな雰囲気で何かを見つめている。


『それはね、私が一番望んではいないこと。あの人には笑顔でいてほしいの』


 優しく微笑むその姿は儚くて、でも強さを感じる。


 胸が、熱い……。じわじわとその熱が広がる。


『エドワード。どうしたらあなたは笑ってくれるかしら?』


「婆さんが、そばにいてくれたら……」


 お爺さんの瞳から、ぼろぼろと大粒の涙が溢れて止まらない。


「それだけで……わたしは幸せなんだよ、ステラ」


 優しくお婆さんの名前が呟かれる。


『わたしにはわからないの。どうしたらエドワードが笑ってくれるのか。だから手紙を書くことにするわ』


「……」


『手紙なら時を越えて……わたしの想いの全てを伝えてくれると思うから』


「……」


『だからどうか……わたしがいなくなってもあなたが笑ってくれますように』


 ……ああ、駄目だ。私の目からも涙が溢れて止まらない。ぐいぐいと服の裾で拭うけど、またすぐに溢れてくる。どうして……こんなにも涙が溢れて止まらないんだろう。

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