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今は夜。時間が経つのが早いなあと思いつつ、小さなため息が出てしまう。だってなにもわからないまま夜になってしまった。
「はあ……」
これからどうしよう。あ、このベッドふかふかだ。ジャンプとかしても怒られないかな。怒られないよね。
「よし、ジャ……っ!」
ジャーンプと言おうとしたら、コンコンガチャという返事をする間も与えずの早さで部屋の扉が開いた。
おいおい仮にも女性の部屋に入るのに、返事を待たずして開けたのは誰だ。
そう思いながら扉を見てみれば、シュルト似のシュルさんが立っていた。
ここで立っていたのがシュルトなら文句を言っているところだ。だが相手は初対面に近いシュルさんだ。文句なんか言わない。
「えっと、シュルさん。なにか用ですか?」
「いえ、用と言えば用なのでしょう。ですが……」
どうしたんだろう。歯切れが悪いな。それに目もさっきから泳いでるし。
「……」
ここは黙って待ってみよう。たぶんそれが一番いいはずだ。
「……あなたに会いたいたかっただけなんです」
シュルさんは恥ずかしかったのか赤くなった顔を手で隠した。
……おおい、なぜだ。なぜなんだ。なぜすぐ甘い雰囲気になる。この雰囲気は、ある意味沈黙よりも居心地が悪い。なによりシュルトに似てるのが辛い。知り合いに似ているというだけでこうも気まずいと言うか、もやもやよりもっとこう、あれな感じ。気恥ずかしい、みたいな気持ちになるのよ。
「……」
だからこれがまだ別の、まったく知らない人だったならよかった。なぜよりによってシュルト似なんだ。
ああ、そういえばこの雰囲気で展開も似ているときが昼間にもあったな。ルミアちゃん、来ないかなー。私だけだと気まずいよ。助けて。
***
「……」
「……」
あれからずっと私たちの間に沈黙が居座っている。もうなんと言うか、沈黙と親友なんじゃないかなっていうくらい一緒にいる気がするよ。しかも沈黙と一緒に甘い雰囲気も居座り続けていて、なんだかじわじわと甘酸っぱい恥ずかしさも出てきている。
「すみません。慣れないこと言ったので恥ずかしくなってしまいました」
ぎゃあ、恥ずかしいとか言わないで。今の私には禁句の言葉だから。ああああそれにもうさっきからなにも進んでない。私の心の声だけが続いてる。あばばばば誰か来てください。じゃないとなにも進まない。進まないどころか後退する。
「リラ姫」
ぎゃあああああばばば……まずいまずい。これはまずい。甘い雰囲気に包まれてシュルさんとキスしそうになってるよ。どうしよう。シュルトと同じくらい、いい人だと思われるシュルさんとキス。
「……」
「シュル、なにをしているの。こんな夜ふけに女性の部屋を訪れるなんて失礼よ」
澄んだ綺麗な声が私とシュルさんの右隣で聞こえた。
こ、この声はルミアちゃんだ。やった。ルミアちゃんが来てくれた。
「シュル、今すぐこの部屋から出てって。そして朝出直して来て」
「お、おいルミア……リラ姫。夜分遅くに申し訳ありませんでした。おやすみなさい」
「い、いえ。おやすみなさい」
ルミアちゃんの早業でシュルさんは私の部屋から出された。
「リラ姫様、申し訳ありません。ばい菌は排除いたしましたのでご安心ください」
「……」
ルミアちゃんの口からばい菌って聞こえた。うん、たぶんこれは気のせいじゃない。
「リラ姫様、あの……」
「どうしたの?」
「あ……いえ、すみません」
「そう? ルミアちゃん、なにかあったら遠慮なく言ってね」
「はい。お気遣いありがとうございます」
笑顔でそう言ったルミアちゃんを、私はどこかで見たことあるようなないような気持ちになった。




