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走って走ってたくさん走った私に待ち構えていたものは、鬼のような関門だった。
「……」
無視して走りすぎたい。できないのはわかってる。わかってるけど走りすぎたい。でもそれができないから辛い。
障害物競走最も避けたいと願っていた障害がここにあったとは。
その名も『アニマル着ぐるみで網くぐり!』である。
うん。これを突破すれば障害物競争は終わる。そう、これを突破すれば。
「はーい。キミ一番ねー」
「……」
「うーん。キミにはこれが一番似合よー」
係りの人に差し出された着ぐるみは黒猫……うん、暑そう。なにより頭が大きいから絶対に走りにくい。
「それじゃあ上から着てねー」
「あ、はい!」
いそいそと黒猫着ぐるみを着て、網へと向かう。
「うわっ、絡まった! え、わっ!」
案の定、大きな頭が網に絡まる。そして耳が……黒猫の耳が網に絡まって外れてくれない。ちょっと待って。これ本当に辛いことになってる。下手すると首を痛めそうなのですが。
「と、とれないっ! とれろー!」
声を出すけどとれるはずもなく、遠くから他のランナーの人たちの声が聞こえてきた。
「早く早くっ! 早くとれろー!」
頭をいろいろな方向に動かしていると、グルグルに絡まっていた黒猫の耳が網からとれた。
「手で網を持ち上げて、頭を下げて進めば……よしよし、さっきよりスムーズに進める」
どうにか網から抜けた私は立ち上がり後ろを見てみる。
「……もうしばらく絡まっててください」
みんな耳が網に絡まっていた。うさぎの人は特に酷い。が、これは勝負なので私は知らないふりをして走り出す。
「この着ぐるみを着たままゴールしないといけないのは、とっても恥ずかしいし暑い」
でもこれで勝てば方向音痴ナオールが私の元に。シュルトたちの頑張りを無駄にするな。頑張るんだ、私。
***
「おー、誰か帰ってきましたー!」
「帰ってきたの誰だ?!」
「リラっぽいぞ」
「あの運動音痴のリラが一番に来るってことは、明日は槍が降ってくるかもな」
「ルーズ、それはリラに失礼だぞ。あいつはやればできる奴なんだ」
「シュルト。お前なんかリラの父親っぽいな」
「うるさい」
あー、なんかシュルトたちが応援席で盛り上がってるように見える。
「リーラー! あと少しだぞ! 頑張れ!」
「リラ! 頑張って!」
「黒猫似合ってるぞー!」
「リラ、油断するな。後ろから来てるぞ」
みんなの応援が聞こえてスピードが上がる。
あと少し頑張るよ。そしてシュルトの言葉で油断は消えた。だから後ろを振り返らず私はゴールに向かって一直線。
だけど……体力の限界がきてる私には辛い距離だ。でも頑張るぞ。方向音痴ナオールの為に。
「はあ……はっ、く、はっ」
「リラちゃん、あと少しよ。頑張って!」
ゴール付近にいるおばちゃんが応援してくれる。
「あと少し……っ!」
足がもつれてきたがゴールまであと少しなんだ。
そう思って私は足を動かし続ける。そしてゴールテープを一番に切ることができた。
「はぁ、はっ……やった!」
係の人に支えてもらいながら私はコートを歩く。心臓がバクバク動いて口から出そう。でも一番になれた。よかった。嬉しい。
少しして心臓が落ち着いた私は応援席へと戻った。するとジャンたちが笑顔で迎えてくれる。
「リラ! 運動音痴な割には頑張ったな!」
「ちょ、ルーズ酷い!」
「はは、冗談だって! よくやったな、リラ!」
「へへ、ぶい」
シュルトたちにブイサインを送ると、みんなもブイサインを返してくれた。
「そういや、お前大丈夫か? この後レオナと二人三脚だけど」
「え……?」
「……まさか忘れてたのか?」
「……へへっ」
空笑いでジャンに返す。
思いっきり忘れていた。このあとの競技のこと。しかもレオナと二人三脚。レオナに迷惑はかけたくない。だけど障害物競争で既に私の体力は無いに等しい。さて、どうする。
「リラ。他のランナーが全員帰ってくる前にこれ飲んで体力回復しろよ」
「あ、ありがとう! ルーズ優しい!」
私は迷わずルーズからビンを受け取り液体を飲んだ。
***
結果を述べますと、二人三脚はレオナのおかげで優勝した。そして現在私たちは疲れた体で町長の長い話を聞いている。
「それでは、ただ今から表彰式を行います」
やった。やっと長い話が終わった。今からは表彰式。表彰式だ。表彰式だぞー。
「えー、では三位から発表します! 三位ナカナカさんのチーム! 二位タツラマさんのチーム! そして一位はリラさんのチーム!!」
呼ばれたチームの代表者二名がそれぞれ前へと行き、賞状と小さなトロフィーを受け取る。私たちはそれにプラスで温泉旅行のチケットを受け取った。
すごく嬉しい。そして大きさから考えると明らかにおかしい重さの賞状は印象的だ。うん。重い。そういえば、確か去年はベトベトしてたな。まあ、これがこの運動会の面白さの一つと考えよう。
「みなさん! 今日は本当にお疲れ様でした! では、これにて解散です! 気をつけて帰って下さいね」
みんなバラバラと帰路についていく。係の人は片付けをするみたいで、本部に集まっていた。
「みんなありがとう! お疲れ様!」
「ふふ、リラもお疲れ様」
「おう、お疲れー」
「へへ、みんなのおかげで方向音痴ナオールが手に入ったよ!」
「それでお前の方向音痴が治ることをワタシは期待する」
「大丈夫だよ! だってナオールだよ! 温泉旅行ではみんなに迷惑かけないようにするからね!」
「そうしろよー」
「ルーズ、眠そうだね」
「当たり前だろ。全競技を六人でこなしたんだから」
「でも久々に体動かせて楽しかっただろ」
「まぁな」
「あ、みんな今日私の家に泊まる?」
「私たちは泊まらせてもらうわ。ね、モンブ?」
「はい」
とりあえずジャン以外は私の家に泊まることになった。帰ったらユンさんが驚いていたけど受け入れてくれてよかった。
この数日後にみんなで温泉旅行へと向かい、ゆっくりまったりして運動会の疲れを癒しました。
温泉旅行最高。お土産もたくさん買って私は満足です。なにより方向音痴が治ってハッピーです。




