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レオナに眩しくないと言われて、慌ててシュルトとモンブさんを見る。するとシュルトが先に口を開いた。
「ワタシも光は見えない」
「そっか……あ、モンブさんは?」
「悪いが、俺も見えてない」
「そうですか……」
禁忌石に視線を戻すと、やはり眩しいくらいに光っている。
どうして私だけなんだ。
「レオナ。ちょっと禁忌石を借りてもいい?」
「もちろん。いいわよ」
「ありがとう」
レオナから受け取った禁忌石に意識を集中する。
とりあえず禁忌石と会話できたらいいなと思います。
「……」
深く、深く潜るように意識を集中させる。
『……め』
あ、小さな声が聞こえてきた。もう少し深いところへ。そうすればきっと禁忌石と会話できる、かもしれない。
「……」
『はじめまして魔法使いさん』
禁忌石さんの声は鈴が鳴るような可愛らしさがある。はっきりと言葉が聞き取れたので、私も挨拶するべく少し魔力を言葉に込める。
『はじめまして』
『見えているのがアナタだけなんて不思議よね。でも、なんとなく理由はわかるわ』
『え、わかるんですか!? 教えてください!』
『もちろんいいわよ。アナタの魔力が私にとても近いから。だからアナタには私が見えるのね』
『ほお、なるほど』
『ねえ。私が私でなくなって、新しい私になる。それって素敵なことかしら?』
『きっと素敵だと思います。それに今のあなたじゃなくなるってことはないですよ』
『あら、どうして?』
『それは、あなたの成長だと思うからです。あなたじゃなくなるわけじゃない。新しくなるわけでもない。今のあなたが成長して、前に進むってことだと思うので』
『……』
『だから、恐がらないでください』
『恐いわよ。だって変化する理由がわからないから』
『……あのですね、私は昔ある人に聞いたことがあるんです』
『……?』
『禁忌石が禁忌石でなくなるときはあるのかって』
『それで?』
『そうしたら、その人は言ったんです。禁忌石が禁忌石でなくなるのは、禁忌石がそう望んだときだけだって』
確か他のことも言っていた気がするのだが、どうも思い出せない。
『私が望んだってこと?』
不思議そうな声色の中に、少し戸惑いも感じた。
『……確かに望んだかもしれない。でも、諦めたんだわ』
『どうしてですか?』
『だって私は禁忌石だから。だから、禁忌石としてしか生きられないと……私、変わりたい! 成長して前に進みたいの!』
禁忌石がそう強く言ったと同時に、外にいたとき以上に強い光が放たれた。その光は私をも包む。
『まぶしっ……!』
そして私の意識は禁忌石の外に出された。
「わあ……!」
戻ってきて目を開くと、辺りを光が包んでいた。
「え、どうなってるの?」
レオナが驚きの声を上げ、指輪を見ていた。
「レオナ。光が見えるの?」
「いいえ、見えていないわ。ただ……禁忌石の色が変わっていたから」
「あ、本当だ」
色が灰色から淡い桃色へと変化していた。
「淡い桃色の石言葉は優しい心」
私の呟きは禁忌石であった魔法石には届いたらしい。
『私、綺麗かしら?』
『うん、とっても』
『ありがとう。また会いましょうね、リラ』
『はい!』
会話が終わると、禁忌石から出ていた光は徐々に消えていく。そして淡い桃色へすうっと溶けていった。
「リラ、ありがとう」
「え?」
「禁忌石を変えてくれたの、リラでしょう? だから、ありがとう」
言いながら、レオナは愛しそうに禁忌石を撫でていた。
「禁忌石が姿を変えたのは、禁忌石自身が望んだからなの。えっと、だか……」
レオナは笑みを浮かべて私の言葉を遮った。
「それでも、やっぱりリラのおかげだと思うわ」
「そうかな……?」
「そうよ。だから自信を持って。ね?」
「うん。ありがとう、レオナ」
笑って私は立ち上がった。そしてレオナに手を差し出して彼女が私の手をとってくれたので、優しく握って引き寄せるように腕を引く。
「レオナ、また遊びに来てね。あ、モンブさんも」
「ああ、必ず行く」
「私も必ず行くわ。あ、あと私は禁忌石を一度も使っていないから!」
「……」
「だから、その……心配しないでね」
「うん! それ聞いて安心した! それじゃあ、またね!」
手を大きく振って私とシュルトは部屋から出て、魔法商店街への帰路についた。




