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 ゆらゆらと優しさに満たされる心。そして懐かしさを感じる心で、私は記憶にあるはずのユンさんの姿を探した。


「……」


 あれ。ユンさんの姿がどこにもない。おかしいな。心ではこんなにも懐かしいと言っているのに。もしかして私の気のせいだったのだろうか。うーん、でもなあ……。


「リラさんリラさん」


「あ、はい!」


「僕に笑った顔を見せてくれませんか?」


 爽やかに笑うユンさん。その笑みを見てどくどくと脈打つ心臓。


 ああ……そっか。久しぶりに触れた優しさに、私は勘違いをしてしまったんだ。もちろん友人たちは優しい。でも本当に初対面でここまで優しくされたのは久しぶりだ。そうかそうかと妙に納得する自分がいる。すっきりとした気分に頬が綻んだ。


「やっぱり素敵な笑顔ですね」


 愛おしそうに私を見つめる翡翠色の瞳は、優しく細められている。


「リラさん。笑顔をありがとうございます」


 言われたから笑顔にしたわけではなく、自然になっていた笑顔にお礼を言われ思わず照れてしまう。


「うえ、あ、えっと、あああああの……」


 う……うわわわ、どうしよう。何て言えばいいのか。照れて言葉が出てこない。それにむしろお礼を言いたいのは私のほうだ。


「あ、あの! 私もありがとうございます! パートナーになってくれて……本当に嬉しくて感謝してもしきれません」


 よし、言いきったぞ。滅多に言わないようなことだから、ちょっと声が上擦ったけど最後まで言えた。


「ユンさん! これから二人で楽しく頑張りましょう!」


 にへーと締まりなく笑ってユンさんに手を出すと、ユンさんも手を出してくれて。その手を両手で握る。するとユンさんも優しく握り返してくれた。


 ああ、この人に出逢えてよかった。


 私は温かくなる心でそう思う。もう、心がぽっかぽかだ。


「あ! そうだ! あの、ユンさん。私のパートナーの人は住み込みになるんですが、大丈夫ですか?」


「はい。大丈夫です。サクラさんから聞いてますので」


「そうですか! よかった」


 いまだ手を握りあったままの私たちは、なぜかくるくると回っている。ユンさんはわからないが、私の目はまだ回っていない。ふふ、なんか楽しいな。


 いやいや、楽しんでる場合じゃなかった。今からユンさんの荷物を取りに行かなくちゃ。私も行けば夜に着くかな。あ、でもユンさんの住んでいるところを聞いていないや。遠かったら明日かな。


「ユンさん。すみません。荷物なんですが、今日取りに行ける距離ですか?」


「あ……あの、リラさん」


「はい。なんですか?」


「その事なんですが、実は荷物をお店の外に置いてあるんです。リラさんが大丈夫なら中に運んでもいいですか?」


「あ、はい! もちろん大丈夫ですよ! 部屋は掃除してありますし。ぴかぴかですから!」


「ふふ、ありがとうございます」


「荷物はたくさんありますか? 運ぶの手伝います!」


「ありがとうございます」


 くるくる回るのを止めて、少し寂しいが手も放した。そしてお店の外へ出ると、本当に荷物が置いてあった。邪魔にならないよう端のほうに置いてある荷物。その荷物全てに魔法札が貼ってあって防犯対策もバッチリだった。とりあえずその荷物が盗まれていなさそうでよかった。


「では、これをお願いしても大丈夫ですか?」


「はい! 任せてください!」


 手渡された箱を持って、ユンさんを二階の部屋へと案内する。


「ここがユンさんのお部屋です! 好きなように使ってくださいね!」


「はい。ありがとうございます」


「あ、この箱はどこに置けばいいですか?」


「その角にお願いします」


「はい! 私次の荷物をとってきますね」


「ありがとうございます。でもリラさん。もう全部持ってきました」


 にこにこ笑うユンさんを見れば、軽々と多くの荷物を持っている。


 あれ、私役に立ててない気がするぞ。


「リラさん、ありがとうございました」


「あ、いえ」


 ああ、もう……まだ短い間だけど、ユンさんといると自然と笑顔になってしまう自分がいる。だってユンさんが私に話しかけてくれる時は必ずと言っていいほど笑顔だから。つられて私も笑顔になる。たぶんユンさんは私の小さな変化にもすぐに気付いてくれてるんだろうな。


 ……優しい人だ。そして温かい。


「ユンさん! 私は夕飯を作ってきます! 楽しみに待ってて下さいね」


「はい」


 返事を聞いて私はキッチンへと歩き出した。その足取りはとても軽くて。ユンさんと一緒に食べるご飯の事で頭がいっぱいだった。

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