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 あれから数時間が経ち、私はまた縄で縛られている。理由は数分前にモンブさんの携帯にレオナがここに帰ってくると連絡があったから。


 あ、モンブさんっていうのは強面のおじ様ことです。初めて聞いたときはモンブランみたいで美味しそうだなって思いました。とってもいい名前だと思います。


「モンブランさん」


「いやいや、モンブだからな。で、どうした?」


 ……やっちまったぜ。本人にモンブランって言っちゃったよ。モンブさんの名前を聞いたときのことを思い出していたら、ついこの口は流れるようにモンブランと言葉にしていた。


「ごめんなさい。間違えました。ちょっと記憶があらぬ方向へ行ってしまって」


「あらぬ方向……まあ、間違うことはあるから気にするな」


「ありがとうございます。それで、レオナはどのくらいで帰ってきますか?」


「早くて三十分くらいだな」


 早くて三十分……。さっき思いついた作戦がうまくいけばレオナから禁忌石を奪うことができる。でも失敗したらレオナがどうなるかわからない。さらに言えば、私とモンブさんも危ない。


「ふー」


「大丈夫か?」


「大丈夫ですよ。ただみんな無事で終われるように頭の中で作戦を繰り返していました」


「そうか。なあ、リラさん」


「なんですか?」


「……お嬢とリラさんは魔法学校の同級生なんだよな?」


「はい」


「お嬢は一年のとき職人科にいたんだ。知ってるか?」


「知ってますよ。私、同じクラスでしたから」


「そうなのか? なら、お嬢の造った魔法石を見たことがあるか?」


「ありますよ! とっても綺麗でした!」


 誰もが羨むくらい素敵な魔法石を造ったレオナ。でも、二年に上がったときレオナの姿はなかった。


 あとから聞いた話で、レオナは魔法学に転科したらしい。どうしてレオナが魔法学に転科したのか、それは今でも理由がわからない。


「……そうか。綺麗だったか」


 モンブさんは嬉しそうに、でも……どこか淋しそうに笑った。


「あの、モンブさ……」


 モンブさんに話しかけようとしたけど最後まで言えなかった。なぜなら扉が開いたから。


 え、早すぎでは。モンブさんの見立てでは早くて三十分くらいだったよ。え、あれ、嘘でしょ。でも予定より早くレオナを助けられるかもと考えればいいことかもしれない。


「待たせてごめんなさいね、リラ」


 頭の中が慌ただしい私とは違い、にこやかに笑って入ってきたレオナ。入ってきた彼女の後ろに先ほどのおじ様集団はいない。


 ……ちょっと安心である、精神的に。


「あら、モンブ……? どうしてここにいるの?」


「……」


 あれあれあれあれ、これはまさかの危ない展開じゃないのか。レオナの雰囲気がなんだか冷たいような気がする……。


 この雰囲気を変えることができるのは、たぶん私だけだと思う。


「レオナ、あの」


「ああ、ごめんなさいね。あなたを無視するなんて私の馬鹿。お詫びに私の所有する店を全て壊してくるわね! だから私を嫌いにならないでね!」


 ん。あれ、なんか変なスイッチが入ったぞ。しかも、なんか部屋を出ていこうとしてるし。出ていこうと……。


「て、あれ、ああっ! どこに行くの!? お店を壊したら駄目だからね!」


「……それじゃあ、許してくれる?」


「許す許す! 許しますとも! だから戻ってきて!」


「わかったわ」


 ぱああと花が咲いたように笑いながら戻ってくるレオナ。それに対して私はなんか疲れた。今のやりとりでかなり体力を消耗した気がする。


「リラ。私ね、あなたのために工房を準備したの」


「……」


「それからあなたの仕事道具である焔も用意できてるのよ。ちゃんとしたやり方で採ってきたから安心してね」


「……レオナ」


「なあに、リラ」


「レオナ。私の話を聞いてくれる?」


「え、あ、ごめんなさいね。少し黙るわ」


「ごめん。私、レオナのところにはいかない」


「え……」


 小さな声を漏らしたレオナは、目を見開き固まってしまった。


「どうして、どうしてなの……っ!」


「レオナ?」


「私はあなたに必要なものを用意したわ! あ、なにか足りないものがあった!? それなら今すぐ用意するわ……!」


「違うよ、レオナ。そうじゃない」


「聞きたくない! あなたが私のところに来てくれないのなら……私はここでこれに願うわ!」


 レオナは禁忌石の指輪を私に向け叫んだ。


 ……禁忌石の大きさはそれほどでもないけど、願いは大きい。


 他者を操るような願いの代償の大きさを、危なさを知っている。だから絶対にレオナに願わせては駄目だ。記憶が多く消えてしまう。

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