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あの後すぐサクラは次の仕事があるからと目的地に向かった。そして夕方のあまりお客さんが来ない時間を一人で過ごす。
「あ、これも足りない」
さっきから足りないものが多すぎる。今ある材料で魔法石は造れても、魔法石を入れる箱やアクセサリーが作れない。それは魔法石職人としては全力で回避したいところ。なのでなるべく早めに買いたさなくては。
そう心の中で意気込み作業を再開したところで、誰かがお店の鈴を鳴らして入ってきた。
「いらっしゃいませ!」
「あの、ここってリラ・クリスさんのお店ですか?」
「はい。そうですが……」
うわあ、綺麗な人。神様とか天使を想像させるような……神秘的な綺麗さだ。
あまりの美しさに、どきどきと胸が高まる。彼の美しさにあてられたようだ。特に綺麗だと思うのは、澄んだ翡翠色の瞳。あと白銀の髪が夕日に照らされて茜色に染まっているところも綺麗だと思う。とにかく美しすぎて緊張してきました。
「はじめまして。僕はユン・ファーノといいます。リラさんのパートナーになりたくて来ました」
「……うあ、あ、はい!」
おおう、緊張と驚きで一瞬固まってしまった。えっとサクラが言ってたのってこの人の事だよね、たぶん。
じっとユンさんを見つめ、やっぱり綺麗な人だなと再認識。
「あ、すみません。これサクラさんからです」
少し慌てたように手渡されたのは手紙だった。それの中身を確認すると、サクラがさっき言っていた内容が書かれていた。やっぱりこの人で間違いないらしい。
……わあ、どうしよう。嬉しくてにやけてきちゃった。
「あの、ユンさん。私を選んでくださってありがとうございます! とても、とても嬉しいです!」
今の気持ちをそのままに声を出したら、思った以上に大きくなってしまった。だけどユンさんはそれを気にせず微笑んでくれた。
「僕もあなたに会えて嬉しいです」
言いながら照れたように笑うユンさんは、幼い子を想像させる。なんか可愛いなあ。綺麗と可愛いを兼ね備えているなんて、最強としか言いようがない。
そう、ぼんやりとユンさんを見つめながら思う。
「あの、リラさん」
「はい。なんでしょう?」
さっきまでのほのぼのとした雰囲気はなく、真面目な雰囲気が漂う。一体なにを言われるんだろう。少し不安に思いながらユンさんの言葉を待つ。
「僕は魔力がないので……リラさんの役には立たないかもしれません。でもリラさんのパートナーを誰かに譲る気もありません。だから、これからよろしくお願いします!」
「……」
あ……どうしよう。今とても泣きそう。悲しいわけじゃない。痛くも辛くもない。ただ真っ直ぐに伝えられた言葉が……どうしようもないくらい嬉しくて。今にも涙が溢れそうだ。
とてもとても嬉しくて、今までぽっかりと空いていたところが満たされていく。
ああ、今まで私という魔法使いを必要としてくれたパートナーはいてくれただろうか。たぶん……いなかったなあ。
私は知っている。あの優しかった彼でさえ、私を見る目が冷たいものになっていったことを。
『空を飛べないばかりか、こんなにもどんくさいなんてがっかりだ』
そう陰で言われているところに何度か出くわしたことがある。そのたびに胸はずきりと痛み悲しくなった。
「リラさん、すみません。僕がなにか気に障ることを言ってしまいましたか?」
不安そうな顔で私を見つめ、問いかけてくれるユンさん。
「いいえ。ユンさんは……」
否定しようと声を出したところで、ぼろっと大粒の涙が一粒零れた。
ユンさんが驚いているのを気配で察した私は、心の中でユンさんに謝る。
「ユンさんは悪くないんです。ただ私が一番ほしかった言葉を当たり前のようにくれたのが嬉しくて……」
ああ、私のこの気持ちを伝えたいのに上手く纏まらない。気持ちが高ぶってるせいか余計に言葉が出てこなくて焦ってしまう。それでも伝えたくて言葉を探していると、ユンさんが声をかけてくれた。
「リラさん。僕はあなたに憧れて、あなたの造った魔法石に一目惚れしたんです。だからどうか泣かないで下さい。リラさんには笑顔がとても似合うんです」
そう言って優しく笑う彼に、また満たされる私の心。そして……昔どこかで会っているような、この懐かしい気持ちはなんだろう。