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あれから数時間後、広めの公園でゼノと数人の少年たちが勇者と魔王ごっこを始めた。私は色あせたベンチに座り、それをぼーっと眺めて楽しむ。
ほうほう。いつもこうして遊んでいるのか。それにしても勇者の数が多すぎないか。他の仲間はどうしたんだ。たとえば、魔法使いとか盗賊とか……色んな役職の仲間がいたら楽しそうなのに。
全員勇者か……。
まあ、少年たちが楽しそうだからいいか。
「魔王! 覚悟しろ!」
「俺たちが退治してやる!」
小さな手に握られた少し太めの木の棒。そしてその棒は、段ボールと色紙で作られた王冠を着けているゼノに向けられた。
「さあ、来るがよい! 勇者たちよ!」
……ああ、とっても楽しそうだ。魔王城にいる時よりも、生き生きとしている。
「ふははははっ! 勇者よ! 貴様の攻撃はそんなものか!」
「そんなわけねーだろ! 俺たちを馬鹿にするな!」
「そうだぞ! こっちにはつよーい魔法使いがいるんだからな!」
そう言いながら、私の両脇に来る少年たち。
おいおいおい、少年たちよ……見学者の私を巻き込むのは止めてくれないか。
と心の中で言いつつ――。
「そうだぞ、魔王! この私がまだいる! 観念しろ!」
「なん、だと……貴様っ! この俺様を裏切る気か!」
「裏切るもなにも私は勇者たちの仲間だ! お前を油断させるために仲間になったふりをしたのさ! あははははっ! どうだ! 驚いたか!」
「ぐっ! 許さぬ……許さぬぞっ! 貴様も勇者も!」
のりのりで勇者と魔王ごっこに参加する私。
なんか楽しい……気がする。気のせいかもしれないけど。
両脇で勇者役の少年たちが目を輝かせながら、私たちのやり取りを見ているのがわかる。それに気づいたゼノが、にやりと魔王のような笑みを浮かべた。
うーむ……なんか嫌な予感がするんだけど。
「必殺! 暗黒炎!」
ちょっと待て。本気でなにをしてくれてるんだ。お馬鹿なゼノよ。
公園で炎とか危ない。木とかその他いろいろと燃えてしまうぞ。燃え始めたら一瞬で全てを灰にするどころか、灰すら残らない技を今この場で使うなんて……馬鹿としか言えない。
あ、あと少年たちがいることを忘れるな。
彼らは身を守る術がないんだぞ。
そう思ってても仕方ないから、なにか打ち消せるような魔法を考えなくては。
「あっ! えっと……ただの水!」
とりあえず襲ってきた暗黒炎をただの水で打ち消した私。
だが、問題が一つ。
少年たちとゼノよ……そんな目で私を見なくてもいいじゃないか。だってなにも思いつかなかったんだよ。かっこいい魔法名とか、かっこいい魔法とか……。
そんないきなり暗黒炎とか言われても困るよ、私。
「姉ちゃん! いや、魔法使いの実力を見たか! 魔王っ!」
「ただの水っ! ただの水でお前の必殺技を破ったんだぞ! すごいだろ!」
「ぐっ……なんてことだ。この俺様の暗黒炎が破られるとは……」
「魔法使い! とどめをさすんだっ!」
「お、おう……任せろ」
なんだなんだ。一体なにが起きてこうなってるんだろうか。私、褒められてるのか。あの魔法名で。まあ、とりあえず魔王役のゼノを倒せばいいんだよね。
えっと、威力は回りに影響が出ないように中くらいで。
ゼノが倒れやすいところに向けて、彼女たちを呼ぶ。
「風よ、吹け」
瞬間、木々が騒ぎ水面が揺れる。そして少し遅れて風は、ゼノの体を優しく押した。
「ぐっ! があああああああっ!!」
盛大なリアクションの後に後ろへと倒れるゼノ。それを見た少年たちは、目を輝かせ決めポーズをしていた。私はそれを微笑ましく思いながら、少年たちに言われた通りに決めポーズをした。
……決めポーズが意外に恥ずかしい。




