魔王って大変なんです
魔王だとか。
勇者だとか。
天使だとか。
悪魔だとか。
そんな下らない名称に縛られず自由に生きたいと思うのは、そんなに恥ずかしいことなのだろうか。
とある魔法使いにそう問いかければ、魔法使いは輝く笑顔を俺に向けた。
私にどうしろと言うんだ……あの馬鹿たれめ。
そう内心ため息を吐きながら、無駄に豪華な天井を見つめる。
ああ、さてこの状況をどうしたものか。
考えるだけでまたため息が出る。
「どこを見ているんだ魔王! こっちを見ないか!」
私は魔王じゃない。正しくは魔法使いで魔法石職人だ。決して魔族の王様である魔王ではない。そう何度も目の前にいる勇者に説明するのだが、全くと言っていいほど理解してもらえない。
「おい魔王! 今日こそお前を倒してやるからなっ! 覚悟しろ!」
「だから私は魔王じゃないですよ! ただの魔法使いなんですってば!」
「ぶ、あははははっ! お前の姑息な手に引っかかる俺ではない!」
ああ……これでこのやり取りは何十回目だろうか。いい加減面倒になってきた。
「はあ」
「なぜため息を吐く! 俺をなめているのかっ!」
なめてないです。なめてないですよ、本当に。ただ暑苦しいなとは思ってますけど。
勇者ってみんなこうなのかな。もしそうだったら家出したくもなると思うよ。でも本当に家出するのはやめてくれ。毎回君の代理をさせられる私の身にもなってくれないかな。
なんて思っても、ここにいないから伝わらないよね。
とりあえず勇者には帰ってもらおう。
私は勇者が怪我をしないよう転送魔法を発動させる。勇者はまだ何かを叫んでいたけど知らない。私は何も知らないし聞こえなかった。
勇者を安全な場所へ転送したのを確認してから、私は暑苦しさから解放されたことに喜ぶ。
「よし勇者は帰った! さあ、あの馬鹿たれを探しに行くとするか!」
私は勢いよく立ち上がった……つもりが豪華な床に顔面からこんにちはしてしまった。
「……」
こんな風に転んだのもあいつのせいだ。そして私も学習しないな。これで何回目だろうか。こんな風に転んだのは。
「この豪華な魔王服ってすごく重いんだよね」
まったく可憐な女性である私が着るものじゃない。箸を持つのさえやっとなんだぞ。
「ぶはっ! あっはははは! 箸を持つのがやっと……ぶはははははははっ!」
……この豪快な笑い方をするのはただ一人。馬鹿たれ魔王だ。
本人か確認しようと顔を上げて見てみれば、お腹を抱えて笑う魔王の姿があった。
「ゼノ! あんたどこに行ってたのよ! それと人の心の声を勝手に聞いて笑うんじゃない! 馬鹿っ!」
そう叫んだ私を見たゼノは目を見開いてきょとんとしていたのだが、なぜかまた豪快に吹き笑い始めた。
「だはははははっ! あー駄目だ。お前駄目だ。声出てたの気づかないで心の声とか言ってるお前はもう手遅れだ! あはははは! 腹が、腹があはははっ!」
さっきよりも豪快に笑われ、怒りよりも恥ずかしさがやってきた。そのせいで私の顔は真っ赤だろう。顔がとても熱いのだから。
恥ずかしさから顔を下げてしまった私に近づいてくるのは馬鹿の代表ゼノだ。
「よっと」
ゼノの手が私の両脇を掴んだと思ったら、突然の浮遊感。
おいおいおい、ちょっと待ってちょうだいな。なぜ持ち上げた。確かにゼノは大きい。職業が魔王なだけあって体格もいいしでとにかくでかいけどなぜ持ち上げた。何度だって言うよ。なぜ、持ち上げた。まあ、どうせ気分なんだろうけど。
悔しくなるくらい軽々と持ち上げられた私は、ゼノと同じ目線になったことで少し態度が大きくなっていた。
「ゼノ。私は反抗期と言う名の職業プラスしてくる」
「おー、してこいよ」
「いいのかな。プラスする職業は勇者! しかも勇者と魔法使いの掛け持ちにしますが! 本当にいいのかな!」
「……いいのかなって駄目に決まってんだろ! そこは勇者じゃなくて魔王を選択しろよ! 魔王じゃなきゃ許さねえぞ!」
「許すも許さないも私はあんたの所有物じゃない! つまり私が勇者になるのを止めることはできない!」
「ぐっ……! なんて卑怯なやつだ!」
「ふははははは!」
「あの、そろそろよろしいでしょうか?」
「げっ」
ゼノは自分の側近であるアラタさんの顔を嫌そうに見つめ、私を抱えたまま走り始めた。叫ぼうと思ったが、危うく舌を噛みそうになったので全力で口は閉じておく。
「お待ちください」
平然とゼノのスピードに追いつくアラタさんがすごい。拍手したくなるくらいすごい。だけど、とりあえず一ついいですか。
目が回って吐き気がしてきたので、魔王城をぐるぐる走るの止めてください。切実にお願いします。




