魔法使い、パートナーに出会う
パートナーがお店から去って早くも十日が過ぎた。寂しくないと言えば嘘になる。だけど寂しいと落ち込み続けていても前には進めない。だからここ十日はその事を考えないように過ごした。
「うう、でも寂しいものは寂しい……」
パートナー希望の人じゃなくてもいいから、誰か話し相手になってくれないかな。
そう思っていたら、お店の扉が鈴を鳴らして開いた。私は慌てて顔を上げて声を出す。
「いらっしゃいませ」
「やほ、リラ君」
重そうな荷物を抱えて爽やかな笑顔でお店に入ってきたのは、学生時代からの友人サクラだった。
「あ、サクラ! 久しぶりだね」
ぱあああと心が明るくなるのを感じる。話し相手になってくれるかな。うん、きっとなってくれる。
「うん。久しぶりだね」
サクラはふっと柔らかく笑い、持っていた重そうな荷物をサクラに近づいた私の前に置いた。
「これさ、リラ君に贈ろうと思って討伐したんだよ」
おおう……眩しいぜ。そんな事を言われたら、君の性別を知らない女性たちは勘違いするぞ。なんて声には出さないが思う。
「いやいや、声に出てるよ」
「え、嘘だよね?」
「ホント」
「あっらまー! できれば今のは聞かなかったことにしてほしいな」
「いいよ。でも高いよ?」
「い、いくら?」
「リラ君の唇」
なんともないことのように爽やかに笑いながらサクラはそう言った。そのせいで私の頭は一瞬働くのをやめる。
「……あ、あああああああっ! そんな事を平然と言うから勘違いする人が増えるんだよ!」
恥ずかしい恥ずかしい。ああもう恥ずかしい。冗談だとわかっているけど、顔のいい人のそういう言葉は冗談でも照れてしまう。罪だ。美形は罪だ。うん。
赤くなっているであろう顔を両手で必死に扇ぐ。
「うーん。結構本気だったんだけどな」
「うわあああああ! もう止めてええええっ!」
なんだこの雰囲気は。慣れてないんだよ、こういう雰囲気。照れる。すごく照れる。恥ずかしい。
「ふふ、この照れ屋さんめ」
なんだかとても楽しそうですね。今度こそ心の中で呟き、さっきよりも赤くなった顔をどうするか考える。
「リラ君。君はよく心の声が表に出てるから気をつけなよ」
「うん。全力で気をつける。ありがとう」
「うん。いい子」
私の頭を優しく撫でるサクラの表情が甘いと言うかなんと言うか、とにかく優しくて。引いてきた顔の赤さが戻ってきたのは言うまでもない。それを誤魔化すように私は口を開く。
「サクラ! まだ一緒にいられる?」
「うん。大丈夫」
「それじゃあ私、お茶を淹れてくる! サクラはカウンターのところに椅子があるから座って待っててね」
「うん。ありがとう」
私はカウンター後ろにある扉から自宅に戻ってお茶を淹れて、お茶菓子も戸棚から出して持つ。そしてお店に戻ってサクラに出した。
「お待たせ! はい、どうぞ」
「ありがとう」
自分もサクラの隣に椅子を持ってきて座って、熱いお茶を冷ましながら一口。
ふう……お茶を飲むと落ち着くなあ。うん。やっぱりお茶が一番だ。美味しい。
「あ……」
「どうしたの?」
「リラ君さ、パートナー募集してるって本当? ブルーオアシスまで話が来てたけど」
「ブルーオアシス……!?」
あんな遠い町まで話が行ってしまうなんて……恥ずかしさで失神しそうだ。しばらくブルーオアシスに行くのは止めよう。知り合いも多いし。
「リラ君」
「なに?」
「ブルーオアシスでその話を聞いたからさ、いい人いないか探したんだ」
「うん」
「そうしたらいい人が一人いてさ、お店の場所を教えておいたから。たぶんもうすぐ来ると思うよ」
「え!? ありがとう! すごく嬉しい!」
感動のあまりサクラに抱きつきたくなる。サクラに抱きついてもいいだろうか。きっと許してくれる。私はそう信じている。あ、でもやっぱり迷惑な気がする。やめておこう……。
「ほら、おいで」
両手を広げて私を見るサクラに、また声に出して言っていたのかと後悔したが気にせず抱きついた。
「わああああっ! 本当にありがとう! すごく嬉しい!」
「ふふ。どういたしまして」
「あ、でも……」
突然頭の中を過ったパートナーだった人たち。そこで一抹の不安が生まれた。
「……呆れられてしまわないかな?」
私の不安をとるかのように額と額をくっつけるサクラ。
「心配しないで。リラ君を不安にさせるような人は選ばないから。だからそんな悲しそうな顔をしないで」
「……」
「ね?」
「うん! ありがとう!」
にへーと顔を綻ばせる私の顔を見て、サクラも安心したように笑った。