6
アトラに場所を聞き忘れ、いろんなところを探し回った私。そして中庭の噴水のある場所で、ナナミとシュルトを発見した。
「ナーナーミー!」
右腕を大きく振ってナナミの元へと走っていく。
「あら、リラじゃない。どうしたの?」
「あのね、渡したいものがっ……」
い……いたい。なんか鼻とか顎とか、とにかく痛い。え、もしかして私転んだ。
「リラ! 大丈夫?」
「痛い……」
「転んだんだから、当たり前だろう」
「うう……」
「ほら、立てるか?」
「うん……シュルト、ありがとう」
差し出されたシュルトの手を握る。そして立ち上がる途中、膝が痛いことにも気づいた。で、立ってみると案の定血まみれだ。
「あちゃー」
「あちゃーじゃないわよ」
「いや、うん。このくらいなら大丈夫」
「駄目よ。女性なんだから、傷が残ったら大変」
どこから出したのか、消毒と絆創膏で応急措置をしてくれるナナミ。
おお、女性の鏡。あ、そうだ。ナナミにサプライズプレゼントを渡さないと……って――。
「あああああっ!」
さっき転んだけどブレスレットは無事だろうか。なんでブレスレットの存在を忘れていたんだ、私よ。今は自分の身よりも一番大切なものだぞ。
と、いろいろなことが頭を過った。
転んだせいで粉々になってたら……泣くどころの話じゃない。
慌てて袋から取り出してみる。
うん、箱は大丈夫そう。
「リラ、それはなに?」
「え、これ?」
「そう」
「これはですね」
「……」
「これは」
「これは?」
「これはナナミの結婚祝いにとサプライズで造ったプレゼントであります! でも転んだから中でぐちゃぐちゃになってるかもです!」
なぜか息継ぎなしで勢いよく言葉を口にしたせいで、言い終わると息が上がっていた。体力がないのがバレてしまう。
「……もらってもいいの?」
ナナミの顔を見ると、母親のように優しい顔をしていた。なぜか涙が出てくる。
「もちろん。そのために造ったんだから」
「ありがとう。開けてもいい?」
「どうぞ」
ナナミは箱を開けて、驚いた声を出した。
ああ、やっぱり壊れてたんだ。さっき転んだ私よ。お願いだから転ばないでくれ。
そう数分前の私に願わずにはいられなかった。
「嬉しい……」
「え……?」
ぽつりと聞こえた声に顔を上げると――。
「え、ええっ! う、うわっと、え、わわわっ、どうしましょ! シュルト!」
そこには、ぼろぼろと大粒の涙を零すナナミがいた。
……だ、誰か教えてくれ。この数秒でなにがあったのかを。わ、私か……私が泣かせたのか。え、こういう場合はどうしたらいいの。
ロボットのように上下に腕を動かしながら、わたわたする私。
おおう、どうしたら泣き止んでくれるかな。
「リラ……」
「な、なに?」
まだ目に涙は残っているが、ナナミはふにゃと笑った。目の縁からはぽろりと涙が零れ落ちる。
「ありがとう。とっても嬉しい」
その声色に、笑顔に……私の心はじんわりと温かくなる。
温かくて、くすぐったくて。
顔がふにゃふにゃと綻んでいく。
「私、あなたと出逢えて本当によかった」
「私もだよ」
互いになにも言っていないけど、抱き締めあった。そしてなぜか私も泣いていて。互いが互いの服を濡らしあってしまった。
「ナナミ、おめでとう。幸せになってね」
「ええ」
「ナーナーミーねー!!どこにいますかねー?」
遠くのほうで新郎さんがナナミを呼ぶ声が聞こえた。
私たちは体を離して、小さく笑ってから新郎さんの元へ歩き出す。しばらく歩いてから、シュルトがいることを思い出した。
忘れていたことは……シュルトには秘密。
あ、あとブレスレットは壊れてなかった。よかったよかった。
ナナミ、新郎さん。お幸せに。




