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 あれから一時間が経ったけど場所を聞くのを忘れたと言いますか、新郎さんとあの後からずっと会えず確認することもできないのでブラブラと外を歩いている。


 たぶん試合は外のはず。だって召喚した上で戦うとなったら室内でやるのは危ないと知っているはずだから。


「うーん、それにしても見つからないな」


 回りを見渡すけど誰もいない……あれ、誰もいないどころか建物もないぞ。


「いやいや、まさか」


 うん。それはない。大丈夫。今回は迷わずに目的地につけたじゃないか。方向音痴が治った証拠だよ。


 うん。だから迷ったってことはない。


「リラという女性は方向音痴でした。そして彼女がそれに気づいたのはつい最近のこと」


 道を歩きながら、回りを見渡す。


「そして彼女は友人の結婚式が行われる式場まで迷わず来ることができました。なので彼女の方向音痴は治っているのです。つまり、彼女もとい私が迷うはずがないっ!」


 いや、ほんとに迷うはずがない。


「……うおおおおおっ!」


 その場で気合いを入れに入れた声を出す。根性で元いた場所に戻れないか試してみる。


 ……当たり前だけどさ、戻れないよね。魔法を使いたい。使って元いた場所に戻りたい。でも使えない。理由は式場に印を押してくるのを忘れたから。あれがないと戻るに戻れないのに、押してくるのを忘れた私はここです。


 迷ったことを認める。恥ずかしいけど、すごーく恥ずかしいことだけど……さらには多大な迷惑をかけることになるのはわかってる。だけど――。


「誰か助けてええええっ!」


 もうありったけの声量で叫ぶしかない。とことん叫んだら誰かが気づいてくれるかもしれない。


 ああ、声が嗄れないといいけど。


 そんな事を思っていると、私の意思に関係なく突然ぼんっと大きな音をたてて召喚された。


「キュウ!」


 その召喚獣は長く尖った耳、透き通ったブルーの瞳にフワフワの毛を持っていた。


「アロ、どうしたの?」


「キュ、キュウ」


「えっと、着いていけばいいの?」


「キュウ!」


 ということで、大人しくアロに着いていってみる。とりあえず元いた場所に戻りたい。


 それだけを思って。



           ***



「いやったあああああっ!」


 ガッツポーズで喜びを表現する私。私の足元で「キュキュウ」と可愛らしく鳴いて一緒に喜んでくれるアロ。


「戻って来れたよ! アロ、ありがとう!」


 意外と近場で迷っていたみたいで、あっという間に元いた場所まで戻って来れた。


 アロの頭を撫で回す。するとアロは目を細めて私の手にぐいぐいと頭を押してくる。それが可愛くて両手でわしゃわしゃと撫でる。


「リラ!」


 遠くから走って来るのは……あらら、あれはシュルトじゃないか。


「おーい! シュルト。どうしたの?」


「やっと見つけたぞ。どこに行っていたんだ?」


「道」


「迷ったんだな」


「いいや! 私は散歩してただけだよ! 私の方向音痴は治ったんだから迷うはずがない!」


「わかったわかった。とりあえずナナミから話は聞いている。それでお前が新郎とした約束の時間を過ぎているから急いで行くぞ」


「あ、うん!」


 歩き出そうとしたら、シュルトに腕を引かれた。


「おわっ!」


 そして持ち上げられた。


 え、持ち上げられた。


「ちょちょちょシュルト!? なにしてるの?」


「危ないから暴れるな」


「あ、はい」


「よし、いい子だ」


 ばたばたと暴れるのを止めたら、笑顔で褒めてくれる。


「しっかり捕まれ。急ぐから落とすかもしれない」


「あ、うん。わかった」


 持ち上げられた理由を聞くのはやめて、とりあえず大人しくシュルトの首に腕を回す。


「それじゃあ、行くぞ」


「はーい!」


 軽く地を蹴って走り始めるシュルト。


「リラは決めたか?」


「なにを?」


「召喚獣」


「うん。決めたよ」


「そうか。一体誰にしたんだ?」


「うふふ、秘密」


 にんまり笑って答えると、なぜか鼻を器用に噛まれた。しかも走りながら。なんて器用なんだ。しかもちょっと痛いし噛まれた理由もわからない。


「痛い。今のは痛いよ! シュルト!」


「もうすぐ着くぞ」


「え、ちょ、スルーなの!?」


「ほら試合場所が見えてきたぞ」


 うん、スルーなんだね。かった。これ以上はなにも言わない。


「そろそろ下ろしてやるからな」


「ありがとう」


 そして木陰で下ろしてもらって、皆の元に走っていく。とりあえずみんな……。


「遅れてごめんなさい!」


 走りながら精一杯声を出して謝りました。

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