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 シュルトのおかけで無事に森を出た私たちは、町中を歩いていた。


 井戸端会議をする奥様方や楽しそうに遊ぶ子供たち。


「賑やかだね」


「ああ」


 こちらを見ないで返事をするシュルト。今のシュルトの頭の中はサラさんでいっぱいなんだろう。


「ねえ、これからサラさんのところに行くの?」


「ああ」


「サラさんってどんな人?」


「日だまり」


 単語しか言ってくれなかったけど、私にはシュルトの言いたいことが伝わった。


「そっか。あったかそうな人だね」


「ああ」


 サラさんを思い出してるのか、穏やかな顔のシュルト。シュルトにこんな顔をさせられるサラさんに早く会ってみたい。


 そう思ったら、体が勝手に小走りになっていた。そして町を抜けた私が隣を見ると……シュルトの姿がない。


「シュルト! 早く行こう!」


 シュルトを置いてきてしまったことに気づいて、慌てて振り向き手を振りながら叫ぶ。そんな私の姿を見たシュルトはいつものように笑った。



           ***



「あそこだ」


 シュルトが指差した先を見ると、綺麗な花畑の中に赤い屋根の家が一軒だけ建っていた。


 早速、走って行こうとしたけど……。


「あ、駄目だ。隠れなきゃ」


「は?」


「だって、ほら、あれだよ」


「意味がわからない」


「今見えているこの光景は、この土地の記憶なんだよ」


「ん……?」


「つまり私たちはあまり干渉したら駄目ってこと」


「なるほど」


「わかったら隠れる」


 私はぐいぐいとシュルトの手を引っ張って、相手から見えないように地面に伏せる。そして見つからないことを祈る。


「……」


 さて……あれから数十分が経ったが、いまだサラさんの姿を見ることは叶わず私たちは地面に伏せて耐えていた。だって立ち上がった瞬間サラさん登場、なんてことになったらこの数十分が無駄になってしまう。


「リラ」


「なに?」


「いつまでこの体勢でいるんだ?」


「さあ?」


「お前……」


 シュルトが何か言おうとしたその瞬間、誰かが家から出てきた。なので慌ててシュルトの口を手で塞いで、じっと家を見つめる。


 出てきたのは……女性。ということは、あれがサラさんかな。


 肩くらいの淡い栗色の髪が風で靡いている。


 なんと言うか、性格が私と正反対の人っぽい。綺麗で儚げ。触れたら消えてしまいそうな、そんな感じの人……。


 ぼーっとサラさんに見惚れていると、シュルトに頭を叩かれた。


「いっ!!」


 たあああああ……。


「……」


 危ない。大声で叫ぶところだった。


「シュルト、痛い」


「ワタシは苦しかった」


「……ごめんなさい」


 そうですね。苦しかったですよね。だって私がサラさんに見惚れている間、シュルトの口は塞がれてたんだもんね。そりゃあ苦しかっただろう。だがしかし、突然私の頭を叩くのはどうかと思うよ。


「で、これからどうするんだ?」


「とりあえず様子見かな」


 頭を優しく擦りながら答える。


 つまり、まだこの伏せた状態ということだ。



            ***



 心の中で言った通り、あれからずっと地面に伏せたままの状態でいる私たち。もう空は真っ暗で、私たちを照らすのは月明かりだけ。そしてちょっと眠くなってきた頃、向かいから見知った力を感じた。


 あ、あれって……。


「シュルト!?」


 黒いローブを身に纏った、見るからにシュルトがサラさんの家の前に現れたのだ。


「……シュルト若いなあ」


 ボソリと呟いたら、現在のシュルトに頭を叩かれた。


「……っ!!」


 痛すぎて声にならない。


 さっきのとは比べものにならないぞ。なんて威力だ。


 ぬおおと効果音が出てしまいそうな痛みに頭を押さえたまま、しばらく見悶えた。


 くそう、シュルト。あとから覚えてろよ。


「リラ、そろそろ復活しろ」


「復活しろって言われても……痛いよ」


 痛みのせいで出てきた涙が目から零れた。


「悪かった、から……」


 シュルトが言葉を区切るから、どうしたのかと疑問に思って顔を上げた、その瞬間――。


 バチリとあう、目線。


 誰と。

 過去のシュルトと。


「……」


 この状況は非常にまずいのではないか。


「とりあえず撤退っ……!」


 迷わずシュルトの腕を掴んで、低い体勢で全速疾走。


 タイミングが悪すぎる。でも……これってシュルトの見たい場面かもしれない。


「……」


 戻るか。ああでも、このままだと過去と現在のシュルトが鉢合わせしてしまう。それは現在に影響が出る可能性があるので、却下。


「……あ、変装とかいいかも」


 そう思いついた私は急停止した。すると背中に衝撃が走り、シュルトの声が聞こえた。


「ぐっ……!!」


 ふっ、当然と言えば当然か。急に立ち止まった私が悪かったんだ。だけどさ、シュルト。私の背中に突っ込んでくるのは止めてほしかったな。シュルトの運動神経なら止まれると信じてたのに残念だ。


 そう思いながら、視線を後ろにいるシュルトに向ける。


「急に止まるな」


「ごめん」


「いや、ワタシも悪かった」


「ねえ、シュルト。突然なんだけど今すぐそのローブを脱いで」


「……?」


「それで、このコートを着てほしい」


 私はシュルトに似合いそうな黒のコートを想像する。そして手元に集中すると、ぽんっと手元から音がして想像していた黒のコートが出てくる。それを手渡すと、私の顔を見て納得したような顔でコートを着てくれた。


「はい。それじゃあ戻ろう」


 ……何かが起こるような気がするから、気を引き締めていかなきゃ。

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