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「リラ! おい! 起きてくれ!」
何度も私を呼ぶ声が聞こえて、どうにか重い瞼を上げると……近すぎるところにジャンの顔があった。それに驚いた私は体を跳ねさせ勢いよく起き上がる。
「いっ……!」
ぴりっと刺すような痛みが背中を襲う。意味があるかわからないけど届く範囲の背中を手で擦る。
ああ、これは変な体勢で寝ようとした代償だ。でも爆睡は避けたかったし。この痛みはしかたない。
「すまん。大丈夫か?」
「大丈夫。寝る体勢が悪かっただけだから」
「俺が急がせたからだよな……本当にすまん」
しゅんとするジャンに、修理し終わっている魔法石が入っている箱を渡す。
「はい。これが修理し終わってる魔法石ね」
「っ……ありがとう」
「どういたしまして。確認してみてくれる?」
「おう」
恐る恐る箱を開けるジャンは目をぎゅっと閉じていた。そして開けてから暫く閉じたままのジャンに声をかける。
「っ……!」
「どうかな? 気になるところがあったら直すから教えて」
「そんなとこ一つもない! 流石リラだな! これクレアの好きそうな装飾だ! 本当にありがとうな!」
きらきらと眩しく興奮するジャンを見ていると、ネックレスの装飾を少し足して変えたことはよかったと思える。だけどクレア本人が気に入るかどうか。そこだけが心配だ。
「ねえ、ジャン。クレアの様子はどう?」
「残念ながら……まだ怒ってる」
「ありゃー、口は聞いてくれるの?」
「それが、口も聞いてくれないんだ」
そんな寂しそうな顔をしないでくれ。私が悪いわけじゃないのに、なぜか心が痛む。あー、何かなかったかな。こういう時に使える魔法アイテム。口も聞いてもらえないんじゃ話にならないしな。何かない、か――。
「あ、ジャン。これあげる」
私は視界に入ったブレスレットを手に取りジャンに渡すと、ぱちぱちと瞬きをしながらブレスレットを見つめていた。そして私の顔を見て首を傾げた。
「そのブレスレットの中心に嵌めてある魔法石が、今のジャンに力を貸してくれるはず。だからプレゼント」
「……いいのか?」
「もちろん。だから早くクレアのところへ行っておいでよ」
半ば追い出すような感じで工房からジャンを出す。早く仲直りしていつもの仲良しな二人が見たいからと、背中をとんとんと叩いて押す。そしてお店まで二人で行くと……いるはずのない人物が膨れっ面で立っていた。
「っ、クレア! なんでここに!?」
「なんか、リラちゃんのところに来ないといけない気がして……」
あ、よかった。さっきジャンに渡した魔法石の効果が出たみたいだ。なかなかに早い発動だ。
「クレア……ごめん。俺が悪かった」
ジャンは謝りながらクレアにさっき私が直した魔法石を見せた。
「ねえ、お兄ちゃん。私がこれじゃなきゃ嫌って言った意味わかってる?」
「俺が……俺が初めてお前にプレゼントしたものだからだろ」
「そうだよ。だから私はそのネックレスが大切なの。それを……それをお兄ちゃんは新しいのを買えばいいって言ったのよ。怒らないはずないでしょ」
「悪かった……」
「本当に悪かったって思ってる?」
「思ってる」
さっきまで怒っていたクレアは、にっこりと可愛い笑みを浮かべた。そして「じゃあ許してあげる。リラちゃん、直してくれてありがとう!」とクレアは私の手をぎゅっと握って満面の笑みをくれる。
「どういたしまして」
うん、とてもいい笑顔。それに気に入ってもらえたようで安心した。
「リラ。俺も本当にありがとう。なんとか仲直り出来た」
「よかったね」
「ああ」
「それじゃあ私たちはこれで失礼します! お騒がせしました!」
「はーい。またねー」
クレアは迷わずジャンの手を握って、お店から出ていった。ずんずんと歩いていくクレアに引き摺られるような感じで歩いていくジャン。
……ああ、なんとなくまた喧嘩になりそうな気がする。お願いだから私を巻き込むのは止めてよ。
そう、心の中で呟いた。
そしてその勘はある意味当たっていて、ある意味当たっていなかった。理由は、喧嘩した二人が私を巻き込んだのが夢の世界だったということ。そして夢の中でも二人に仲直りしてもらいたくて動いたのだった。




