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「んー……あ、今何時だろう」
私は固まった体を解しつつ台に置いてある古い時計を見ると、針が六時半を指していた。
ああ、もう朝なんだ。まだ修理終わってないのに。
「あー、駄目かもしれない……」
時間を確認してしまった私は、一睡もしていない事に気づいてしまった。そうなると睡魔が襲い始める。
ジャン……ごめん。少しだけ寝かせて。起きたら全力で造るから。
睡魔に誘われるまま私が台に伏せて寝る準備をしたその瞬間ーー頭の中を昨日の記憶が過った。
『クレアの部屋からとってきた! お前には悪いけど、急ぎで頼む! クレアにちゃんと謝りたいから……』
……寝るわけにはいかないか。まだ大丈夫でしょう。私の集中力よ。
体を起こし座り直す。そして両手で頬を叩き気合いを入れ直す。
「よし! もうひと頑張り!」
壊れた魔法石の欠片を磨き、魔力で整えていく。そして何個かそれを繰り返していると元気な音がお腹から聞こえてくる。
「……」
だ、駄目だ。睡魔の次は、魔力の使いすぎでお腹が空いた。そのせいで腹の虫が必死に叫んでる。うん、とりあえずお腹に何かいれよう。じゃないと集中がすぐに切れてしまう。それに失敗する可能性が大だ。
「よいしょっと……!」
私は椅子から立ち上がり、工房から出て真っ直ぐにキッチンへと向かう。そしてキッチンに近づくにつれいい香りがしてくる。私は小走りにキッチンへ入ると、エプロン姿のユンさんが振り返り笑顔で私を見た。
「あ、ユンさん。おはようございます」
「おはようございます。リラさん」
あ、くまさんのワッペンだ。可愛い。それに可愛いくまさんワッペンのついたエプロン姿のユンさんも素敵だし可愛い。
ほわほわ気分でくまさんのワッペンとユンさんを見つめる。
「もう少しで朝食ができるので待っていてくださいね」
「あ、はい! それじゃあ私は飲み物を用意しますね!」
「ありがとうございます」
「いえ!」
いつものように紅茶を用意していく。私はこの用意していく過程が好きだ。もちろん飲むのも好き。
「リラさん。できましたよ」
「わあ! とっても美味しそう! ユンさん! ありがとうございます! あ、こっちも用意できてますよ!」
「喜んでもらえてよかったです。こちらこそありがとうございます。いい香りですね」
華麗に朝食を運んできてくれたユンさんにお礼を伝えて向かい合って座る。そして一緒に「いただきます」と言って、出来立てのパンケーキを食べる。
「んーっ! 美味しい! ユンさん。とっても美味しいです!」
口に広がるほどよい甘さとふわふわ食感。頬っぺたが落ちてしまうくらい美味しい。
ユンさんは私の言葉を聞いて「喜んでもらえてよかったです」と微笑んでくれた。そのユンさんの表情に癒される。
私はそのあとずっと和やかな気持ちでパンケーキを食べた。
***
「……終わったあ!」
私は工房で叫ぶように伸びをしながら声を出す。そして時計を見るともう夜に近い時間帯。
こんなに修理に時間がかかった理由は……あれだ。ちょっとジャンの希望をとり入れようとして、試行錯誤したからだ。
「……」
修理し終わった魔法石とその回りの装飾をじっくりと見ていく。傷や魔力むらがあったらやり直しだ。
「よし、大丈夫そう」
確認し終えたので箱を手に取る。
「二人が仲直りできますように……」
祈るように直した魔法石を撫でる。そして箱にそっと入れて蓋を閉じた。
ジャンが取りに来るまでまだ時間があるし、何か食べよう。
そう思って工房を出ようとしたその時、ユンさんの呼び声が聞こえた。私は急いで扉を開けて工房から出る。
「あ、リラさん。すみません。今少し大丈夫ですか?」
「はい! 大丈夫です」
「ありがとうございます。お店の鍵は全部閉めてきました。それから掃除も終わってます」
「ありがとうございます! 一日お店を任せっきりにしてしまってすみません。ユンさんのおかげで修理終わりました」
「いえ、僕はリラさんの役に立てて嬉しいですから。リラさんも修理お疲れさまです」
……本当にユンさんがいるだけで癒される。疲れなんて吹っ飛ぶよ。この優しさで。
「今から夕食を作ろうと思うのですが、何かリクエストはありますか?」
「中辛のカレーが食べたいです!」
「はい。それじゃあ中辛のカレーにしますね。楽しみにしてて下さい」
「はい! とっても楽しみにしてます!」
ユンさんの作ってくれるご飯はほっぺたが落ちるくらい美味しいからもう楽しみでしかたない。私も一緒に行ってサラダ作ろう。ユンさんの邪魔にならないようにしながら。それと明日の朝食は私が作るから頑張ろう。うん。
「それでは作りに行ってきます。あ、リラさんは少し休んでください」
「え、あ、でも……」
「昨日寝てないですよね。倒れては大変ですから少し休んでください」
優しさ全力で伝えられた私は頷いて、キッチンへ向かうユンさんを見送った。そして自室ではなく工房へと戻り、椅子に座り雪崩れ込むように台に伏せる。
「体が痛くなるかもしれないけど……少し寝よ」
ここなら爆睡することはないだろう、たぶん。大丈夫大丈夫。
そう思いながら目を閉じた。そしてすぐに誰かが私の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。




