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あれから幾日が過ぎ、私は与えられた専用の工房兼自室から一歩も出ずに日々を過ごしていた。いや、訂正する。一歩も出してもらえない、が正解だ。
窓はあるけど私が通れるだけの大きさはない。唯一の逃げ道の扉にはたぶん魔力封じの札が貼ってあるし、鍵も何個……何十個かかけられていると思う。
なぜそう思うのか。まず魔力封じの札に気づいた理由。それはこの部屋に案内されて一人になってからしばらく通路側の人の気配もなくなったから扉を確認したら、体内の魔力が深い眠りに入ってしまって扱えなかったから。これは魔力封じの札が作用しているときに起こるもので捕まったときにも味わっている現象だ。そして鍵については誰かがこの部屋に入ってこようとすると、毎回長い時間がちゃがちゃ鍵を開けている音がするから。
毎回ね、大変そうなんだ。扉の向こうでがちゃがちゃ鍵を開ける人が。ご飯の時間のときとか特に。でも冷えないように何人かでがちゃがちゃしてる……なんて能天気に思っている場合ではない。
あの男は言った通り生活費を出してくれているし、五色星魔法石も返してくれた。そして男から依頼はまだなく、私の身も今のところ安全。それは救いだ。
「……」
ただ私には心配事がある。それはソロとコソのことだ。彼らは無事だろうか。男がなにも言っていなかったから、恐らく見つかってはいないと思うけど……男が全てを私に言うとも限らないし。
彼らの無事を確認しなければ、この不安は取り除けない。どうにか二人の安否を確認できないだろうか。
「……うーむ」
召喚したあの子は私が男に捕まったときに、魔力封じの札のせいで強制で元の時空に戻らされてしまってから召喚できずにいる。それに今現在クダラたちとも会話ができないということは、扉以外にもこの部屋全体に魔力封じがされていることになる。それも私がそういうことをしようとしなければ気づかない程度に、だ。でもこの状態じゃ魔法石を造ることができない。依頼をしてきたときにどうするつもりなんだろう。
「ああ、違う……! そんなことは今はどうでもいい。別の方向に考えが行っちゃってる」
今私がしたいことは逃げ出すこととソロとコソの安否も確認がしたいこと。だけどできなさそうだからどうするかってことだ。あれ。でも今の私にはなすすべがない。つまりこれが絶体絶命というやつか。
……いやいやいや。どうにかするんだよ、私。なすすべがないとか絶体絶命とか言っている場合ではない。
「魔法が駄目なら、物理的にどうにかするしかない。うん」
改めて部屋の中を見回し、使えそうな物を探す。
駄目だ。使えそうな物がない。工房のほうにも道具がないしね。それじゃあ……。
私は自分の両手を見つめる。
「もう、拳しか残されていないのか」
ドアを破壊するだけの威力はないし、男たちと戦うだけの力もない。だけど。
「クダラとかシュルトは言うだろうな」
職人として手は特に大切にすべきものだろう、と。そしてそのあと愛あるチョップがやって来る。ユンさんは美味しいご飯を作ってくれて、ルカくんはそばにいてくれる。
「うん」
早く帰ろう。その前に出たらソロとコソを探す。
私は拳を思いっきり振り上げ、扉を叩いた。




