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 時間が経つのは本当に早いなあ。


「……もう閉店の時間か」


 一日ってあっという間に終わるよね。本当に早いなあ。


 ちょっと遠いところを見ながら、そんなことを思っている私。


「リラ! 話聞いてるか!」


「……聞いてるよー」


「リラちゃん」


「なーに?」


「お前……俺に対する反応とクレアに対する反応が違わねえか!?」


「え?」


「私は間違ってないみたいな顔すんなよ! 泣くぞ!」


「どうぞ?」


「お前って俺には冷たいよな!」


「ジャンがもっと私に優しくしてくれたら、私も変わるよ」


「優しいだろうが!」


 私はジャンの言葉を聞き流すことにする。そしてこれ以上話が脱線するのは嫌なので、クレアに話しかける。


「それでなにがあったの?」


「朝も言ったけど、お兄ちゃんが私の大切にしてた魔法石を壊したの!」


「それは朝謝っただろ!」


「そういう問題じゃないの!」


「なにがそういう問題じゃないだ! 魔法石の一つや二つ壊れたくらいでがたがた言うなよ!」


 その言葉にクレアが泣きそうな顔をしたので、ジャンの言葉を遮るように声を発した。


「ジャン。少し落ち着いて」


「お前は黙ってろ!」


 私も口を挟んで悪かったと思うけど、今の言い方はない。それにジャンが一方的に怒っていて話を聞くところではないし。


「はあ……そんな事を言うなら今すぐここから出ていって。聞くとは言ったけど、この状態なら私がいる意味ないでしょ?」


「う……」


「なに?」


「……ごめん、俺が悪かった」


「次に理不尽な理由で怒ったら、ここから追い出す。覚悟して」


 そう伝えるとジャンが大人しくなった。私は視線をクレアに戻して口を開く。


「クレア、続きを話してくれる?」


「……うん。あのね壊れた魔法石を見て、お兄ちゃんが新しいのを買えばいいじゃないかって言ったの」


「あらー」


「それで……その魔法石を私の前でゴミ箱に捨てたの」


「うわあ、それは酷い」


 捨てたという言葉を聞いてジャンを見ると、気まずそうに目を逸らされた。


 悪いとは思ってるんだろうなあ。だってクレアが大切にしていた魔法石は私が真心込めて造ったものだ。それを壊れたからってゴミ箱に捨てるのはさすがに悲しいぞ。せめて私のところに持ってきてくれたらよかったのに……とはあえて口にはしなかったけど、造った本人としては心が痛む。


「でも捨てられたあと、すぐに拾ったんだけどね」


 クレアのその言葉に心の痛みが和らぐ。


 ゴミ箱から拾ったなら、もしかして捨てられないように今も持ってたりするかな。


「クレア。その魔法石って今持ってる?」


「今は持ってないけど、部屋にはあるよ」


「そっか……うーん、どうしようかな」


 悩んでいると、今まで静かにしていたジャンが口を開いた。


「リラ、頼む。新しいのを造ってくれ」


「は……?」


「前のは今のクレアには子供っぽいし、もうちょっと大人っぽい装飾にして造ってほしいんだ」


 彼は……いったいなにを言ってるんだろう。


「お兄ちゃん!」


「クレア。壊れた魔法石は気味が悪いから新しいの造ってもらおう。な?」


「いやっ! 嫌よ! 私はあの魔法石がいいの! それに壊したのはお兄ちゃんじゃない!」


「だから言ってるんだ。俺が責任をとって新しいのをリラに造ってもらう。それに俺はお前のために言ってるんだ」


 クレアは悲しそうに顔を歪め、体を震わせる。握られた手が痛々しくて、間に入ろうとした瞬間ーー響くクレアの声。


「もういい……お兄ちゃんなんか大嫌いっ!」


 泣くのを我慢したような震えた声でそう言ったクレアは、扉を勢いよく開け走り去った。私は立ち上がったけど追いかけはせずに、ジャンに声をかける。


「追いかけなくていいの?」


「……ああ。それより新しい魔法石のことなんだが」


「造らないよ」


「なんでだよ!?」


「馬鹿」


「馬鹿ってなんだよ! 馬鹿って!」


「馬鹿だから馬鹿って言ったの。クレアの気持ちを少しは考えて」


「考えてる! だからお前に新しいのを造ってもらいたいんだよ!」


「それはクレアの気持ちじゃなくて、ジャンの考えだよ。クレアは新しいものが欲しいわけじゃない」


「壊れたってことは魔法石の寿命だろ。替えどきなんだよ」


「ふー、本当に忘れてるんだね……」


「なにをだよ」


 まったく世話の焼ける幼なじみだ。


「壊れた魔法石は、ジャンが初めてクレアにプレゼントしたものでしょ」


「あ……」


「だから大切にしてたんじゃない」


「でもそれとこれとでは違うだろ。今のあいつには、もう少し大人っぽい方が似合うと思って。それに壊れた魔法石は縁起が悪い」


「違わないよ……あの魔法石の魔石はジャンがクレアのために採りに行ったものなんだから」


 あの時、ジャンはぼろぼろの姿で採ってきた魔石を私のところに持ってきた。そして『頼む! これで魔法石を造ってくれ!』と必死に頼むものだから、私も徹夜で魔法石を造ったのを覚えてる。


「だから喧嘩してでも守りたいと思ってる。それに今のクレアがいるのはジャンのおかげなんだよ……クレアもそう思ってる」


「っ……! だってあいつ身体が弱かっただろ。それに外で走り回ってる奴等を見て羨ましそうにしてたから」


「うん。その気持ちだよ。その気持ちが魔石に宿って……ジャンの願いが叶った。それからね、意外に知られてないけど魔法石に寿命はないんだよ。別の姿になるだけ。だからそういう魔法石は私たち魔法石職人のところへ持ってきてくれたら、新しい姿にするお手伝いができるの」


 ジャンはばつの悪そうな顔で私を見ると、ゆっくりと口を開いた。


「……あのさ、さっきの聞かなかったことにしてくれないか」


「うん」


「それで、壊れた魔法石に新しい姿をプレゼントしてほしい」


 私はその言葉に、にっこりと笑って頷いた。

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