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大坂冬の陣 その4

 大坂城を攻める西国諸将が大坂に到着し、布陣した。北側には細川ガラシア率いる北国勢を中心とした舞台が陣取った。ただし2万を率いる前田家は南に周り、真田信繁が指揮する出丸の正面に陣取った。1万5千を率いる小早川秀秋は岡山に本陣をおいた。ここは史実では徳川秀忠が陣を置いた場所である。その西側に毛利勢を中心とした中国勢が陣取り、総大将格の毛利輝元は史実で徳川家康が陣をおいた茶臼山に本陣をおいたのである。実質的に明石全登が差配する宇喜多勢は大坂の西側に着陣した。ちょうど史実の明石隊が内側から守っていたところを外から攻める形になった。


 ガラシア隊に参加している女性達から自然に歌声が上がり始め、まるで軍勢全体が歌っているかのような勢いで響き渡った。


「あれはなにだ?」


 とキリスト教徒をまとめるべく参加している司祭、カブラルが尋ねる。


「どうも神を称え、神の世の到来を望む歌を歌っているようです。」

「これは士気が上がりますなぁ。」


 とイスパニアの軍勢を率いるルチフェーロがのんきに答えると、カブラルは


「とんでもない。戦の場で歌い、馬車を連ねて女性が鉄砲を担ぐ、これではまるでフス派の再来ではないか。」

「フス派?」

「昔ハンガリーで猛威を奮った異端だ。女性を陣頭に立て、歌を歌って進軍していたのだ。」

「それは見栄えが良さそうですな。」

「所詮異端だ。後で神の正義によって滅ぼし尽くされた。あんな奴らと似たようなことをするとは…」

「しかしここはここ、として戦いが終わったら異端として処断すればよろしいのでは?」

「そのとおりだ。苦々しいが。」

「その暁にはあの女人共も…」

「猿のメスなどわしには興味はない。貴様が好きにせよ。」

「ではお言葉の通りに。」


 と不穏な話し合いをしていた。


 歌声に大坂方が威圧されるか、とガラシアや明石は期待したが、大坂城側は静まり返ったままであった。


「あんなもの威嚇にもならんわ。」


 と大坂城の本丸で太閤秀吉は言った。


「まったくですな。こちらがこれまでいくつの城を落としてきていると思っているのでしょう。」


 と秀吉に近侍していた大谷吉継が答えた。吉継は吉継で、歴史の流れが変わったためか、伊達政宗が片目を失わなかったようにハンセン病にかからず、健康そのものであった。


「さてそろそろ外の連中がちょっかいを出してくると思うが…」


 と秀吉が言ったとおり、包囲していた軍勢は大坂城の攻撃を始めた。しかしガラシアや明石などキリスト教勢はその華々しい見かけに関わらず、しっかりと守りを固めている大坂城に対してはちょっかいを出すのが精一杯、という様相であった。


 毛利勢はどちらかというとその参加目的が火事場泥棒的なものであり、攻撃はしてみせるもののとても本気とは言えない様相でこちらも膠着していた。


「ふん。だから女人に率いられる軟弱な軍勢は役に立たないのよ。」


 と言い放って勇躍真田信繁のこもる出丸に攻撃を始めたのは前田勢だった…が見事に史実通りに馬出しに誘い出されては集中砲火を浴びて慌てて撤退する、と損害だけが増えていくルーチンワークと化していた。


 「ルチフェーロ殿、このままではにらみ合いが続くだけになってしまう。」


 と通詞を通して話しているのは毛利輝元であった。


「城攻めなれば厳重に包囲し、兵糧攻めとするのは常道でありましょう。」


 と涼しい顔で答えるルチフェーロ。さすがイスパニア王を丸め込んだ男だけあって単なる口八丁の男ではなさそうである。


「それはそのとおりだ。しかし大坂城には5年はこもれるだけの兵糧と弾薬が備えられておる。」


 ルチフェーロはそれを聞いて眉を上げた。


「しかし敵方にも決定打はないはず。」

「いやここで手間取ると伊達政宗が東国の諸将をまとめて攻め上ってくる危険がある。」

「マサムネ?その軍勢はそれほどに手強いのですか?」

「鉄砲の数なら我らの数倍はあろう。」

「となりますと早々にこの大坂城を落とす必要がありますな。」

「前田は損害を抱えて手が引け気味だしな。そうだ。明石殿にお願いしよう。」


 と明石全登に使者を送った。


「こちらもなかなか攻めあぐねているのだが…」


 と明石が渋い顔をしていると、長宗我部盛親が明石に声をかけた。


「ここは某に出陣させてくだされ。」

「おお、盛親殿。」

「父元親は某を可愛がり、某を跡継ぎに、と常日頃申していたのに兄信親は『父も耄碌したか』と隠居城を与えて押し込めにし、それから某は長屋暮らしであった…ここで功を挙げ兄を見返したいのじゃ。」

「その心意気やよし、よし、兵5千で力攻めにされよ。虎口の一つでも獲れれば大名にすらなれよう。」


 と明石は長宗我部盛親を憐れみ、兵を任せて城攻めに向かわせたのであった。

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