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神軍、小西行長の前方に現る

 肥前名護屋からついに唐入りの船団が出陣した。第一陣は小西行長率いる8000、第二陣は加藤清正が率いる1万2千である。それぞれ史実よりざっくり1万ずつ少ない。そもそも肥前名護屋に集まった兵力自体豊臣秀吉の本隊を含めて8万前後であり史実の半分以下しかいなかった。


 伊達政宗は肥前名護屋にいたりいなかったりフラフラしていたが、これみよがしに浮かべていたガレオン船を白石宗直に任せると第二陣とともに出撃させた。豊臣秀吉はその兵力がガレオン船1隻と小舟数艘、という少なさに文句をブツブツ言っていたが恫喝できるほどの立場ではなく、また徳川家康が全く渡海させなかったのに比べると遥かにマシ、との観点から形ばかりは謝意の使者を送ってきた。


 伊達政宗はガレオン船の出港を見送ると、秀吉に挨拶してすぐさま密かに平戸に向かった。急ぎ馬を走らせながら随伴する鮭延秀綱から声をかけられた。


「上様、どうにかガレオン船で出陣、の形はできましたな。」

「バレる前に名護屋を去れてよかったわ!間に合った。」


 片倉景綱が声をかける。


「まったくもってですなぁ。あのガレオン船、当家が建造したことになっておりますがそんな技術も時間もありませんからな。大金を積んでイスパニア人から借りただけとは諸侯も見破られますまい。」

「うむ。出港したら程々に進路を変えて鹿児島の島津殿の所に向かってそこでイスパニア人に返す手はずだからな!」


 と満足そうにうなずきながら伊達政宗はいう。


「しかし返済に遅れると費用も上がりますゆえ、出港が遅くならないかヒヤヒヤものでしたぞ。お、平戸に着きましたな。」


 と一行は平戸に着くと密かに松浦党に頼んで組織していた船団に乗り込む。


「うむ。では皆の者、手はずは伝えた通りだ。いざ朝鮮へ!」


 政宗の号令とともに船団は朝鮮に向かって出港した。


 それからしばらくして唐入り第一陣、第二陣の諸隊が朝鮮に上陸した。全く予期していなかった朝鮮の軍はすぐに追い払われ、またたく間に渡海した軍勢は朝鮮の南側の沿岸地域を制圧した。そして手はず通りそこに拠点を作るべく防衛に勤めながら築城などを開始したのである。


 それに対して朝鮮は侵入した日本軍を追い払うべく全軍をあげて日本勢が占拠した地域に軍勢を送りつつ、明に支援を依頼した。日本軍が侵入したのは南岸に集中していたため、かわりに首都漢城中心は手薄になった。


 そんな時、伊達政宗率いる伊達勢はソウル南西の入り江に突如として上陸したのである。

手薄な守備隊は慌てて逃げ帰り、朝鮮王は周辺の兵力をかき集めて首都の都城に籠もった。


 しかし伊達政宗はそんな朝鮮軍を無視すると、一目散にソウルの南側の利川イチョンに向かったのである。利川は朝鮮最大の歴史と規模を誇る白磁の産地である。


 利川に到着すると、伊達政宗は住民を集め、通詞を通して住民に呼びかけた。


「倭国東北鎮守府大将軍伊達政宗。ただの人間には興味ありません。この中に白磁の専門家、陶芸師で扱いや支払い、生活に困っているもの、現在の生活を脱して一旗揚げたい者が居たら私の所に来なさい 以上!」


 利川の住人は顔を見合わせた。


「倭国に来れば広い屋敷と下人を付けるよ!白磁を作ってくれたら恩給も十分出して生活左団扇よ!作品は高値買取保証!朝鮮の相場の3倍以上!最初立ち上げたら倭人を使って自分は経営者になってもいいのよ!」


 住人たちは伊達勢の立派な身なりと熱心な勧誘に、少しずつ条件などを聞いてくるものも現れた。朝鮮に残る家族などがあれば砂金の袋も渡す、という政宗の条件についに乗ってくるものも現れたのである。


 政宗は黒脛巾組などを使い、それらのものが本当に白磁の職人であることを確かめた。そうでないものは金品を与えて帰らせるか、日本に行きたい、という熱意があるものは職人よりは条件を下げたものの連れて行くことにした。

 そして十分な数の職人と職人が希望した工具などを準備させた後、首都で立てこもる朝鮮軍を唖然とさせながらそのまま前を素通りしてさっさと入り江から出港して帰国してしまったのである。


 一方南岸から侵攻した日本勢は朝鮮軍の脆さに先の取り決めを破り、やはり首都の方向に進軍を開始していた。その先頭は小西行長である。小西隊は首都をまたたく間に包囲すると、王族の助命を条件に降伏させ、入城した。その際、小西行長はよく意味がわからないことを聞いたのである。


「なに、我らの前に首都の前に現れた日本勢がいたと?」

「はい。しかし彼らは首都を攻撃することなく数日南方で駐屯したかと思えばすぐに消えてしまったのです。」

「うーむ。我らの前には軍はいないはずだが。」

「その数と装備に我らは恐れを感じておりました。ですから小西様が攻めてきた時に抵抗を断念したのです。」

「一体どの軍勢であったのだろうか……もしくは我らの先遣として神軍が現れたのか。」


 小西隊にも朝鮮の首脳部にもさっぱりわからないまま伊達勢はさっさと朝鮮を脱出していた。


 帰国した政宗は先の取り決めの通り松浦党や近傍の鍋島家に希望する職人を託した後、奥州への帯同を希望してくれた職人を連れて、片倉景綱に託して仙台へ送った。そして陶土の問題で職人は蘆名盛輝の治める会津に定着し、佐賀に残った職人ともども日本に白磁を広めたのであった。

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