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羽柴秀吉、関白太政大臣となり豊臣秀吉となる

 羽柴秀吉からの使者が持参した書状を読んだ徳川家康は微妙な顔をした。


「殿、どうさなったので。」


 参謀の本多正信が家康に尋ねた。


「うーむ。和議を秀吉の方から申し込んできたのだ。」

「それは良きことで。とはいえ伊勢があのざまでは全面的に我らの勝ちとはいきますまい。」

「うむ。そうなのだ。しかしこれで信雄殿が納得するか……」


 ともう一方の当事者、織田信雄にも書状を読んでもらう。


「麿はこの条件でさしつかえないでおじゃる。」


 といきなり麿言葉で喋りだす信雄。


「なんと、随分乗り気ですな。」

「元々麿は自他ともに認める戦下手にて、ならば伊達殿の推挙で内大臣につけるのならば、公卿として京で優雅に暮らすでおじゃる。」

「……でよろしいのですか?」

「仙台で屋敷をもらって典雅な暮らしをするのにはなれておってのう。」


 とすっかり公卿気分である。


「……で織田信雄殿は降伏して所領を手放し、京で公卿になる、と。内大臣だと秀吉殿の左近衛少将よりも上になってしまうが、いいのかこれ?」


 家康は他人事ながら心配した。秀吉は畿内を支配して順調に官位を上げているが、今の状況だと内大臣の織田信雄と鎮守府大将軍の伊達政宗のほうが官位が上なのだ。


「でもって旧織田領と伊勢は秀吉配下の諸将で分割し、尾張をこの徳川家康に任せる、と。」

「そりゃ随分気前がいい話ですな。」


 と本多正信。


「いやここからがいやらしいのだ。尾張50万石を得る代わりに武蔵を手放せ、とある。」

「なんと。」

「その代わりに武蔵に秀吉の配下の将を置く、と。」

「三好秀次なら親族で格も合いそうですな。あれなら御しやすいので助かりますが。」

「いやそれが蒲生氏郷を送ってくるというのだ。」


 そのころ、美濃岐阜城の本陣で、羽柴秀吉は黒田孝高と話をしていた。


「徳川様に尾張を与える代わりに武蔵をよこせ、というのは伊達の案ですか?」

「さすがにそのままは書いておらんよ。しかし与えるものを与えれば塩梅というものが、という雰囲気で示唆していたな。」

「伊達はやはりのっぴきなりませんなぁ。蒲生を置くというのもかの者の考えで?」

「いや、そこはわしの考えじゃ。伊達がどうも蒲生を置かれるのを心底嫌がっている雰囲気を感じたのじゃ!」

「伊達に良いようにさせないとはさすがは秀吉様。」

「ふふふ。わしの勘では伊達政宗は蒲生氏郷がとても苦手なのじゃ。仲介は感謝するが総取りにはさせぬ。」


こうして徳川と羽柴の和議がなされ、三好秀次は無事に帰還した。三好秀次は羽柴秀吉に叱責されるとその名の通り四国方面の総監とされ、土佐西半分と伊予の南半分に約20万石の所領を与えられ、中村御所に入った。この時点で秀吉は秀次を後継者に擬することは考えなくなっていたのである。


 徳川家康は自らが拡張をはじめていた江戸に未練を残しつつ、新たに得た尾張清須を居城として移った。小田原に井伊直政を、小諸に榊原康政を置き、北条家や蒲生氏郷への備えとしたのである。


 伊達政宗は体よく徳川家康を江戸から去らせる事に成功したのを聞いて小躍りしたが、江戸に入ったのが蒲生氏郷と聞いて仙台城の大広間の柱につかまってガタガタ震えだした。


「よりによって蒲生氏郷だと!関八州は名人久太郎でいいだろうよ!」


 と前世で陰謀をことごとく覆された蒲生氏郷がまた自らの勢力圏のそばに置かれたのを聞いて嫌な思い出が蘇ったようである。


 こうして小牧の陣は終わりを告げた。織田信雄が戦国武将としての表舞台から一旦去る形となり、旧織田家の領土の殆どは羽柴秀吉の支配下となった。羽柴家は畿内と中国東半、四国の全土、越後を除く北陸から美濃に渡る広大な領域を治め、明らかに突出した勢力となったのである。しかし中国の毛利も同盟とはいえ完全に従属したわけではなく、また九州の大半を治める島津も秀吉と友誼を通じているものの屈服させたわけではなかった。東国は東海のほぼすべてを治める徳川家康と奥州諸侯をまとめる伊達政宗が勢力として突出し、全国を大きく見ると、羽柴、伊達、徳川、毛利、島津の諸侯がそれぞれの地域ごとに覇を唱える形となった。現在の所はそれぞれの勢力の敵対は収まったものの、『天下』の中心である畿内を治める羽柴秀吉にとってはどう天下をまとめていこうか思案にふける日々となった。


 そんな中、毛利は秀吉に対して従属的な態度を取るようになり、秀吉の勢力はますます強化された。ここで相対する巨大勢力を討ち果たしてしまえば簡単な話であったが、そうするには織田信長の仙台攻めでの惨めな敗死が頭によぎり、秀吉に力押し一辺倒で支配することをためらわせた。


「天下はおおよそ定まってきたようにも思えるが……何分大大名が多すぎる。」


 秀吉はぼやいた。それらの大大名をどうにか秩序に収め、可能な限り力を削がなければ羽柴家の栄華は続かない。思案の挙げ句、羽柴秀吉は関白の座に付き、豊臣秀吉と名乗るようになったのである。


「関白ともなれば奥州の准二位大将軍も無視できまいて。」


 と秀吉は石田三成に言った。


「しかし伊達や徳川、島津などをどうにか力を削ぎませんと。」


 と三成。


「ここで一旦武威でも示せればまだ相手も言うことを聞きやすいが……よし、まずは関白就任の祝に諸侯を大阪に招こう。」


 と秀吉は諸侯を大阪に招き、今後の方策について話し合う決意をしたのであった。


次話。

怪獣大集合。

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