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梵天丸、雉子尾川で相馬盛胤と対決する

 相馬盛胤率いる備は雉子尾川を渡河してきた。それに対して梵天丸率いる伊達勢は古墳群の丘陵をやや下がったところで相馬勢から見ると坂の上に陣取る形となった。


「ふん!小僧め、小賢しいが丸森の老人のお守りに付いていた兵がこの相馬の精鋭に勝てるものか!」


 一通り双方の弓隊の撃ち合いが終わったが、双方とも特に目立った損害は受けなかった。相馬盛胤は井戸川将監に命じて長柄(長槍)隊を前進させ、伊達の長柄隊と接触する……はずが届かない。


「これはどうした!伊達は見るからにその辺の寄せ集めの兵、と言ったみすぼらしさではないか!」

「殿!伊達の槍はこちらより二周りは長く、こちらの穂先が届く前に奴らに叩き落されています!」

「ぬう。見栄えで誤魔化しているのかと思えば長さをうまく使っているとは。騎馬隊、出るぞ!ここは相馬の野掛けで押しつぶす!」

「おう!」


 相馬の長柄隊は下げられ、相馬が誇る騎乗騎馬隊が出撃した。集団で騎馬武者が長柄隊に突入して乗り崩し、隊列を崩壊させるのである。相馬は鎌倉以来の騎乗での弓射にも優れており、距離をとっても、近くともその技倆には絶対の自信があった。


「行け!奴らは素人だ!乗り崩せ!」


 ここで伊達の長柄隊に指示が飛んだ。


「槍の石突を地面に刺して槍を低く掲げ、騎馬隊を受け留めよ!」


 一斉に槍が低く、しかしその後ろ側を地面に刺すような形で構えられた。相馬の騎馬隊の前衛はそれを意に介せず突入したが、地面に支えられた槍は存外強固で突き崩せなかった。とはいえ相馬の精鋭部隊、槍を切り払ったり弓で攻撃するなどして伊達の長柄隊の人数を少しずつではあるが、削り取っていた。


「伊達は寡勢だ!このまま削っていればそのうち支えられなくなる!かかれ!」


 と井戸川が鼓舞する。


 その時、耳を揺るがす轟音が鳴り響き、辺りが煙幕で覆われた。


「何事だ!」


 総大将として後方の本陣から見ていた相馬盛胤が叫ぶ。


「伊達の、伊達の鉄砲隊がこちらの全面に展開した騎馬隊の側方から射撃してきたのです!」

「鉄砲隊だと。そんなものどこに!」

「どこからか分かりませぬ!」


 梵天丸は、あらかじめその持てる鉄砲隊の大部分、三十丁を阿武隈川から迂回させて相馬の側面に進めていたのだ。


「三十でも十分役に立つ!せめて三百あれば決定的に打ち破れただろうがな!」


 と伊達の本陣で鉄砲隊の攻撃が始まったのを確認した梵天丸はほくそ笑んだ。


「鉄砲で驚きこちらの騎馬は言うことを聞きません!」

「騎馬から振り落とされた者が長槍に討ち取られております!」

「殿!ご下知を!」


 相馬盛胤のところには悪い知らせが次々と舞い込んできた。


「ぬぅぅ。この小童め!鉄砲狂いめ!正々堂々と騎馬で勝負せんか!」


 とぼやきつつもそこは名将相馬盛胤である。過度の損害を避けるために素早く騎馬隊を撤収するように命を出し、両軍は再び長柄隊を前面としてにらみ合う状況に戻った。


 そこに使者が飛び込んできたのは双方ほとんど同時のことであった。その使者は


 小斎城が相馬の佐藤好信、為信親子の手によって陥落


と知らせてきた。


 相馬盛胤は頷くと


「伊達の小倅を討ち果たすなり捕らえるなりできなかったのは残念ではあるが、出征の目的は達した。者ども、我々の勝利である!勝鬨かちどきを上げて金山城に帰るぞ!」


 と号令し、相馬軍は「曳叡王えいえいおう!」と勝鬨をあげて金山城に退却していったのである。


「梵天丸様、我らは勝利したのでしょうか?」


 伊達の陣では梵天丸に配下の者が尋ねた。


「小斎城を守りきれず申し訳ありませぬ。」


 と小斎から逃れてきた小斎平太兵衛が平伏する。


「いや、それは後で我に秘策がある……小斎殿はどうか気に病まぬよう。それに我々は相馬盛胤の本軍を退却に追いやったではないか!これは我々伊達の勝利である!」


 梵天丸は高らかに宣言した。


「梵天丸様、万歳!伊達、万歳!」


 どこからともなく声があがり、その声は広がって全軍が「梵天丸様、万歳!」と唱える様になった。


 この様にして伊達と相馬の雉子尾川の戦いは双方が勝利を宣言して終わった。小斎城は城を落とした相馬家臣、佐藤好信にそのまま与えられ、相馬は金山城と小斎城から伊達の丸森城を伺う情勢になったのである。


 

 梵天丸が相馬と渡り合い、相馬盛胤を退けた一報は米沢にも届いた。


「梵天丸様が初陣で寡兵で相馬盛胤を打ち破っただと……。」

「とはいえ小斎は取られているではないか。大したことではない。」

「いやいや、齢十歳、しかも初陣で相馬と渡り合うなど、これを認めずして何を認めるというのだ。」


 諸将は梵天丸の戦に感嘆しつつも、その評価は割れることとなった。


「うーむ、梵天丸が丸森を守りきった、とな。」


 伊達家当主伊達晴宗は唸った。


「あそこは父稙宗が相馬とべったりして治めていたからな。あそこをくれてやれば相馬が気分良くいられてそれ以上手を出してこないなら取られるのも仕方ないかと思っておった。」

「とはいえ、伊具郡は我々の本領にて無碍に相馬にくれてやるのも。梵天丸はそれを守ってくれたわけで。」


 と嫡男、伊達輝宗は庇った。


「小斎は取られたがな!……しかし初陣で相馬盛胤本人と直接渡り合って退けたその軍略は認めざるを得ないな。率直に言って梵天丸、やりおった。そのまま丸森を守護させよ。」


 と晴宗も一定の戦果は認めた様子であった。そして丸森を治める正式な城主が決まるまで、ということで梵天丸は引き続き丸森城代を勤めることになったのであった。

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