伊達藤次郎政宗、仙台城で諸侯の使者と会う
仙台城で伊達藤次郎政宗は本能寺の報告を待ちわびていた。
すると、黒脛巾組や出羽三山の修験者、そして各国からの使者が列をなしてやってきた。
「な、なんだ。順番に受けよう。」
その数にたじろぎながら政宗は順に話を聞くことにした。
「本能寺、爆発炎上しました。」
「やったか。これで織田弾正忠も。」
「無事です。」
「は？」
「明智光秀の報告を聞きに外に出ていて無事でした。」
「は？明智光秀にも『いつも信長に殴られて辛いだろう。いっそのこと一思いに。』と唆していたのは？」
「『いくら殴られても牢人の自分をここまで引き上げてくれたのは信長公。家康を討って恩を返す！』と宣言されたそうで。」
「は？その家康様は？」
「こちらは殿の差配通り無事に逃げおおせたそうです。『三郎四郎は堂々としていて殿様の風格を出すには良かったから失うにはもったいない影武者だったけどなぁ。』だそうです。」
「して、織田に対して立ち上がったのか？」
「いえ、ひとまず防戦体制を整えて織田の侵攻に備えているのみでして。」
「織田家が混乱しているであろう今が好機でしょう！」
「いえ、全く混乱しておりませんが。織田は全軍を挙げて出陣しました。」
「おお、ついに毛利にトドメを刺しに。」
「いえ、向かっているのはこちらです。」
「へ？」
「ですから本能寺を爆破し、家康殿を取り逃がしたのは御屋形様の差し金に違いない、と織田信長、織田の動員できる限りの兵力をかき集めてこの仙台へ向けて出陣しました。その数約7万。」
「な、7万？」
「柴田勝家率いる北陸方面軍1万5千は越後に向かっておりますから直接こちらに向かっているのは5万5千、織田信長は江戸城に入り、北条からの援軍3万と合流。諸侯に伊達を討つように檄を飛ばしました。」
「……それ俺の知ってる本能寺と違う。」
「政宗様、使者の方々がお待ちです。」
「おお、通せ。」
「最上義光の使者、氏家守棟であります。『伊達大将軍様にはかねてからお世話になっておりますが、今回の一件、巻き込まれては当家の存亡に関わります。申し訳ありませぬが当家は織田に援軍を送ります。』とのこと。どうかお許しくだされ。」
「相馬義胤であります。大変申し訳ござらんが以下同文。」
「南部信直家老、北信愛であります。以下同文。」
「佐竹義重嫡男、義宣ですが、父から『気の毒とは思うがまぁあちこち手を出してきたからなぁ。頑張って。当家滅ぼすわけにはいかんから織田に援軍送るわ。悪く思うな。生き延びたらまた会うこともあろう。』と。」
「……」
政宗は頭を抱えた。
「そうだ！上杉は？」
「上杉家の使者、五十公野治長改め新発田重家でござる。当家は義のため伊達家とともに戦います！」
「おお。」
「しかし柴田勝家率いる北陸方面軍とその援軍、2万を相手にしなければならず、当家は越後で迎え撃つ所存！」
「こちらに来てくれとはとても言えませぬ。どうかご武運を。」
上杉は味方はしてくれたがとてもこちらには来られない状況である。伊達政宗は『はっ』と思い、聞いてみた。
「蘆名、蘆名は？」
「蘆名盛輝の使者、遠藤基信であります。」
「おお、遠藤殿、お久しゅう。」
「盛輝様はご子息のために身を擲って助けに行くべきと……」
「おお、さすが父上。心強……」
「いえ、政宗様、助けに行くべき、と言ったのは某でござる。」
「へ？」
「盛輝様は『伊達が攻められるのは心苦しいが今のわしは蘆名を預かる身。蘆名を滅ぼすわけには行かぬ。織田に援軍を出すからあがいてみせよ。骨は拾ってやる。』との仰せでした。」
「…………」
伊達政宗はおそらく後世の人間が見たらゴルゴダの丘に因んだ狙撃者のような顔をしている、と思ったかもしれない。もはや政宗の心は無の境地であった。
奥州諸侯は直接攻撃に晒される上杉を除くとほぼ、織田に援軍を出し、伊達の味方をしない事となった。政宗は『これも世の習いなれば』と諸侯の使者に丁寧に礼をし、それぞれ書状を渡した。
「その書状、諸侯に読んでいただいた後は焼き捨ててもらって構いませぬ。どう判断されるかは諸侯にお任せ致す。この政宗のせめてもの意地でござる。」
と使者に語った。元々諸侯は伊達家には好意的だったこともあり、使者が持ち帰った書状は諸侯は目を通し、政宗の話通り焼き捨てたのであった。
諸侯が帰った後、政宗は家臣を集めた。
「皆のものも知っておろうが、織田が来る。」
「して諸侯の援軍は？奥州諸侯が結集すれば織田といえども五分以上の戦いに持ち込めましょう。」
と留守政景。
「兄上、それが諸侯は来ないのです。むしろ織田の援軍として来ます。」
「なんと。」
「それでは彼我の戦力は？」
「おそらく織田は援軍込みで12万から15万ぐらいは集結するであろう。当家は1万5千程度か。」
「……じゅ、十倍ですか。」
白石宗直がたじろぐ。
「そこで諸君の内、もう当家に見込みがない、と思うものがあれば今のうちに織田なり奥州諸侯のもとに走って良いぞ。この政宗、そのようなものがあっても引き止めたり害したりしないことを天地神明に誓う。」
「わしはそんな犬死はしないぞ！」
と突然立ち上がって叫んだのは兄、国分盛重であった。
「わしは逃げる！皆も無駄に死にたくなかったら逃げたほうが良いぞ！」
と言い残すといち早く逐電してしまった。そして後で佐竹義重の所に転がり込んだのである。
しかし他の諸将は動かなかった。
「皆の者、良いのか。」
「ここまで政宗のやりたい放題をやらせて鎮守府大将軍まで来たのだ。こうなったら織田相手に天下の一戦をやってみるのも面白そうだ。」
と留守政景。
「御屋形様は勝ち目がなければすでに逃げているでしょう？」
と小梁川盛宗が言い出し、皆がどっと笑った。
「勝ち目、と言っては甘いだろうが、この政宗、かねてからの策がある。皆の者、聞いてくれるか。」
と政宗は諸将に計画を語り始めた。そして諸将は政宗の指示に従って急ぎ動き出したのである。
今日から土日は各一話ずつの投稿です。宜しくお願いします。
事態を一歩一歩進めているので一気に行かず申し訳ありません。
