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時宗丸、新発田城で元服する

 新発田長敦ら新発田一族としばし歓談した後、伊達政宗ら一行は上杉憲政、景虎と面談した。


「上杉憲政様、こちらが上杉定実様のあとを継ぐはずだった叔父の伊達実元でございます。」

「伊達実元でございます。定実様と越後上杉家のために尽力できることを楽しみとしておりましたが、越後入りがならなかったことを長年悔やんでおりました。」

「おお、実元殿、それはなんというご苦労であったことか。」


 上杉憲政は同情の意を表した。そこに政宗は


「憲政様、叔父の長年の夢を叶えるため、叔父実元を正式に上杉定実様の養子と認めてはいただけませんか。」

「うむ。越後上杉の家は途絶え、長尾家に簒奪されておる。謙信殿には世話になったが、越後は元来上杉家のものである、というのも真実。我が祖父顕定も定実殿と争ったとはいえ、その心は越後は上杉家のものである、ということであった。」

「では私はどうなるので?」


 流れに不安を感じたらしい上杉景虎が口を挟んできた。


「この話はあくまでも越後上杉家の跡目が上杉実元殿である、という話だ。景虎殿はこの私、関東管領上杉憲政の後嗣であり、関東管領を継がれよ。もちろん越後上杉家よりも我が山内上杉は本家筋であり格上である。」


 政宗ら一行もうなずいた。それに安心したのか、景虎も実元が正式に越後上杉家の養子であることに納得したのであった。


「ここにお連れいたしましたは我が嫡男、時宗丸であります。」


 と実元は同行していた嫡男、時宗丸を紹介した。


「おお、では時宗丸殿も良い機会であるからこの上杉憲政を烏帽子親として元服し、上杉成実と名乗るがよい。」


 こうして戦時下であったため簡素にはなったが、伊達実元は上杉実元となり、越後上杉家の後継者となった。越後上杉家は一門として関東管領上杉景虎をたすける事になったのである。そして時宗丸は元服して上杉成実となったのであった。


 上杉成実の元服に清々しい気分となった上杉景虎と伊達政宗が率いる諸将は出陣して、近傍まで進軍してきていた上杉景勝・樋口兼続が率いる軍勢と対峙した。


「伊達が数万の軍勢を率いて出てきたというのは本当であったか。」


 樋口兼続は唇を噛みつつ、彼我の情勢を分析した。すると景虎方から一人の若武者が騎乗して進み出てきた。


さきの関東管領上杉憲政様に弓引く謀反者共よ、今なら寛大な憲政様はそなたらを赦し、蟄居減封でよいと申されておる。上田城下五か村ぐらいでいかがだろうか?」


 と音声おんじょうを挙げた。五か村、というところで伊達勢からどっと笑いが漏れた。


「なにをいうかこの小童め!」


 と樋口兼続は言い返した。


「そのようなことを言われる覚えはないわ!弓矢は武家の嗜みであるがそれを盗み取った貴様らこそが謀反者であろう。だいたい俺はお前など知らぬ。しらないからには伊達のものであろう!伊達のものが上杉家の事情に首を突っ込むなこの餓鬼が!」

「俺は伊達の者ではない!我が名は越後守護上杉家嫡男、上杉成実うえすぎしげざね!」


 上杉成実にとっては初陣である。その華々しい武者振りに伊達と景虎方からはおお、とどよめきの声が聞こえた。


「上杉成実だと!そんな者は認めぬ!撃て、撃て!」


 兼続の号令とともに火縄銃が火を吹く。しかし成実には当たらない。


「さすが上田長尾は上杉を名乗っていても所詮長尾の中でも最弱、であるな!」

「言わせておけば!あのものを討ち取れ!」


 ついに激昂した景勝の命で一手成実に兵が襲いかかる。しかし成実はひらひらと交わすと逆に手槍で何人も討ち、平然と上杉景虎の陣に戻ってしまったのである。


「ここまで愚弄されては武門の名折れ。一戦して面目を施すべき。」


 と上杉景勝は逸ったが、それを樋口兼続は引き止めた。


「敵方は数も多く、伊達は鉄砲狂いで知られております。ここは速やかに引いて春日山城の斎藤朝信殿や直江信綱殿と合流いたしましょう。」

「うぬぬ。いたしかたないか。しかし春日山に戻っても勝算はあるのか?」


 景勝は兼続に聞いた。


「武田勝頼が北条氏政の依頼を受けてこちらに進軍しております。その数1万とほぼ武田の主力全軍です。」

「しかし武田が北条の依頼を、となると敵ではないか。」

「この兼続、密かに勝頼殿と典厩武田信豊殿と渡りをつけ、信濃、上野の上杉領の割譲で話をつけてあるのです。」

「さすがは兼続。しかし上野は景虎方の北条景広の所領だから構わぬが、北信濃の山浦国清は納得するのか?」

「そこは景虎方の武将の所領から元より増やして替地をしめしてあります。」

「樋口兼続の鬼謀、まことに恐ろしいものよ。」


 こうして景勝・兼続主従は眼前の伊達・景虎勢から無事に逃れて春日山城に入った。春日山城を囲まん、とした伊達勢であったが、そこに黒脛巾組から一報が入った。


「武田勝頼がこの春日山城に向かっております。どうやら景勝に与するようです。」

「武田勝頼め。目先に釣られて景勝に裏切ったか!」


 と憤るのは鬼庭左月斎である。それを政宗はとどめて言った。


「まあ、爺、落ち着け。春日山城は難攻不落だが、落とすつもりがなければ景虎殿の軍勢だけで囲めよう。我らが武田を迎撃するのだ。」

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