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上杉景勝、春日山城を占拠する

 天正6年(1578年)3月9日、越後の龍、上杉謙信は春日山城の厠で倒れ、人事不省となった。伊達・蘆名連合軍に破れ南陸奥の傘下の大名のほとんどを失い、北から蘆名・相馬、南から北条の圧迫を受けた佐竹義重の救援要請に応じ、関東に出陣する準備をしていた最中であった。謙信は看病のかいなく、3月13日未明に死去した。


 上杉謙信には実子がなく、二人の養子が後継者に擬せられていた。一人は上田長尾家の長尾政景と謙信の姉、仙洞院の子、景勝。そしてもう一人は北条氏康の七男で、氏康と謙信が同盟した際に人質として越後に送られた上杉景虎である。人質として越後に来たものの、謙信に気に入られ、謙信の元の諱である景虎を与えられ、養子となったのだ。


 一見、元は敵でその後同盟も破棄された北条家出身の景虎が不利なように見えるが、景勝の出身の上田長尾家は一門でありながら父政景は度々謀反も起こし、府内、古志、上田の3つの長尾家の中でも最も格下と見下されていた。


 謙信が死んだ直後、景勝の側近、樋口兼続は景勝にこう言った。


「上杉景虎が不識庵(謙信)様の葬儀の準備と遠征の取り消しのため、と春日山城を離れました。今が好機です!春日山城を制圧し、我らが本拠とするのです。金蔵には不識庵様が青苧あおそと直江湊の交易で得た銀が山のように積まれており、遠征のため武具も充実しております。春日山城は難攻不落にてここを押さえれば景虎も攻め落とすことはできますまい。」


 樋口兼続の意見を良しとした上杉景勝は素早く動かせる者を確保し、春日山城の本丸を占拠した。しかし、その景勝に飛び込んできたのは耳を疑う報告であった。


「金蔵も武具庫も空っぽです。」

「それはどうしたことだ。」

「数日前『謙信様の命』と称して『此度の戦は関東に決着を付ける大戦にて可能な限りの金銀と武具を一旦新発田城に集積し、そこから出陣する。』と下知が出たと。」

「そんな馬鹿な。不識庵様に確認はしたのか。」

「それがいつもどおりしこたま酒を飲まれて前後不覚の状態で、確かめようと思った矢先に倒れられた、と。」


 景勝は不審を抱いたが、そうは言っても始まらない。


「新発田長敦とその弟の五十公野治長(後の新発田重家)は我らと親しく、味方であろう。急ぎ使者を送るのだ。」

「そういえば上杉景虎は?」

「我らの動きを見て先の関東管領、上杉憲政様がいる御館辺りに入ったのではないか?こちらも探りを入れよ、手薄なようなら攻め落としてケリをつけるのもよい。」


 樋口兼続は手勢を率いて急ぎ御館に向かった。しかし御館には人っ子一人おらず、静まり返っている。残されたとみえる犬の遠吠えが悲しく響くばかりである。


「これはどうしたことだ。もぬけの殻ではないか。」


 不吉な予感が樋口兼続に過ぎった。


「諸将の動向はどうか?」

「その新発田殿は『出陣の準備』と称して新発田城に戻られております。斎藤朝信殿と竹俣慶綱殿は我らに与するとの書状をいただきました。千坂景親、甘粕景持殿も出陣準備で所領に。」


 元来春日山にいるはずの重臣がどうも数が少ない、と樋口兼続は思った。斎藤朝信らが味方についてくれただけでも助かるのだが、急ぎ諸将を取りまとめるには春日山城の銀が必要であった。


「新発田殿の所に助力をお願いし、春日山の銀を取り戻す!急ぎ手勢の出立の準備を。」


 樋口兼続は素早く指示を出し、金と武具がどうしてかわからないが集積されている新発田城に向けて出発をしようとした。伝わってくる諸将の動きがどうにも鈍く、旗幟を明らかにするものが少ない。日和見をしているそれらを引き込むには銀が必要なのである。


「新発田殿に送った書状はまだ返事がないのか?」

「まだです!」


 新発田城に向かいながら樋口兼続は盛んに諸将に景勝とともに景勝が謙信の正統後継者であり、味方するようにと書状を諸将に送った。


「今の所明白に我らに逆らう意思を示したのは北条景広ぐらいか。」


 上杉景勝は新発田城に向かう途上、一休みをするために入った寺の本堂で兼続に言った。


「景広は猛将ではありますが、父高広の代から上野の担当であり不識庵様がいなければ北条と揉めるならば矢面立たされますから致し方ありませんな。」


 兼続は答えた。


「それに景広・高広父子は度々謀反を起こし、信用なりませんからな。今回も我らが有利となればそうそうに頭を下げに来ましょう。」

「うむ。北条ごとき、後からなんとでもなろう。斎藤朝信殿と安田顕元殿に春日山の留守居を頼んだが、あまり開けとくわけにも行かぬ。急ぎ新発田へ向かい新発田長敦殿の助力と銀だ。」

「佐竹からの書状では北条は佐竹攻めを開始し、当主氏政自ら率いる主力が下野で佐竹義重殿とにらみ合いをしているとのこと。景虎が北条の大軍を引き込みますと危険ですが、今はその余裕はありますまい。北条が身動き取れるようになる前に決着を付けましょう!」


 景勝主従の判断は極めて穏当であった。しかし新発田城に近づきつつあった時、また耳を疑う報告が入ってきた。


「伊達政宗、大軍を率いて新発田城に入城、その数2万5千乃至3万。」

「なんだと?伊達がなぜこのような数、早さで新発田にいるのだ。それに入城とは?中途の揚北衆の本庄繁長らはなにをしていたのだ?」

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