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伊達輝宗、会津黒川にて蘆名盛氏と会す

 米沢に戻った伊達政宗は兄で義父の伊達当主、輝宗に最上での一件を報告した。


「で……成果はその鮭延秀綱ということでよいのか?」

「いえいえ父上、我らが味方したことで最上は我らを疎遠には思わないでしょう。」

「そこまで温い男ではないと思うが。」

「少なくとも悪い方には傾かないかと。」

「そうであるな。ご苦労だった。ところでわしはこれから会津黒川に向かう。此度は留守居を頼む。」

「蘆名盛興殿の病状が優れないのならば我も同行してお見舞いを。」

「いや、その盛興殿から政宗には見苦しいところを見せたくない、との仰せなのじゃ。」

「そこまで悪いのですか……」

「うむ。残念ながら。ここはこの『父』にまかせてくれないか。」

「くれぐれもよろしくお願いします。」


 こうして伊達輝宗は近習と重臣、遠藤基信を連れて会津蘆名氏の本城、黒川城に向かった。


 黒川城で出迎えたのは当主、蘆名盛興ではなく先の当主で盛興の父である蘆名止々斎盛氏だった。


「本来ならば盛興が出迎えなければならないのだが……」

「盛興殿の病状はそこまで。」

「うむ。政宗殿に諭され、酒を絶ってからは体調の悪化も抑えられていたのだが……」


 と思わず涙をこぼす。一代の英傑、蘆名盛氏も人の子なのだ。輝宗は盛興のところに通され、床にある盛興を見た。


 頬は痩け、顔はどす黒くなっていて、痩せた中に目玉だけがぎょろぎょろしてまるで餓鬼のようであった。


「輝宗殿か」


 か細い声で盛興は言った。


「政宗殿に教えていただいた数々の酒、政宗殿とまた飲みたかった……共に京に旗を立て、酒を飲み歩く約束、この盛興果たせずに申し訳ない……父上。」


 と盛興は父、盛氏に語りかけた。


「どうか蘆名をよろしくお願い申す。そして蘆名と伊達の末永き関係を……」

「わかった!わかったから休め!」


 盛氏は思わず手を握りしめていった。


「お前の好きな伊達殿とは仲良くしていくから安心せよ!米沢の龍が付いていれば蘆名家も心強い限りよ!」

「くれぐれも……」


 と言い残して盛興は意識が混濁した。


 そして数日して蘆名盛興はその短い生涯を閉じたのであった。享年24。


 盛興の葬儀は行われ、喪が開けると蘆名の後継をどうするか、が問題になった。蘆名家筆頭の重臣、金上盛備かながみもりはるは蘆名家に人質として入っている二階堂家嫡男、盛隆を盛興の妻である輝宗の妹、彦姫と結婚させて跡取りにすることを推した。

 諸将が集まって紛糾する中、蘆名盛氏が立ち上がって皆を制して言った。


「諸君、伊達輝宗殿から話がある。」


 諸将は立ち上がった輝宗の方を向いた。彦姫の兄として伊達が蘆名を援助する、そして同盟関係を再確認する、という話がされるのでは、と皆は思ったが、輝宗の口から出てきたのは意外な言葉であった。


「蘆名の後継には、この伊達輝宗が就かせていただく。」

「伊達による蘆名の乗っ取りか!」

「蘆名は伊達に吸収されてしまうというのか!そんなことはさせぬ!」


 諸将は騒然として場は声も聞き取れぬほどになった。


「静まれ!話を聞け!」


 と言ったのは蘆名盛氏である。


「金上、二階堂盛隆殿が蘆名の後継にふさわしいと思ったのはなぜじゃ。」

「二階堂殿は蘆名盛高様の玄孫にて血筋を引くものであり、また容姿端麗で智謀・武勇に優れ、蘆名の跡取りとして申し分ないかと。」

「そうじゃな。我が祖父、盛高の玄孫にあたるな。ならば例えば佐竹義重殿やここにおる伊達輝宗殿の弟御、政宗殿でもよいのではないか?政宗殿は玄孫ではなく曾孫でより近いぞ。」

「そ、それは……」

「わしも二階堂盛隆を後継に、と思った。」


 それを聞いて二階堂盛隆は少し表情を崩す。


「しかし盛興は伊達政宗殿を、と望まれたのだ。」


 諸将からは「なんと……」「しかしならばなぜ政宗殿でなく輝宗殿なのだ……」

と疑問の声が漏れた。


「そこは私から説明させていただこう。」


 と輝宗が語りだした。諸将は今度は静かになり、固唾を飲んで見守った。


「確かに政宗もふさわしいとは思いまする。しかし、政宗が蘆名を継いだならば、それはまさに皆様がおっしゃったとおり、我が弟にして私を父と仰ぐ政宗の蘆名は私の伊達よりも格下の立場になる。」


 だから伊達ではいかんのではないか、という声が漏れた。


「しかし、この輝宗が盛氏殿の養子となり、伊達の当主の座を棄てて、蘆名を継いだならば伊達よりも蘆名の格がまさっていることは明白になるではないか!」


 おお、っと感嘆の声を漏らす将も出始めた。


「……確かに輝宗殿が蘆名になるなら、蘆名は伊達に格の上で優越した家だと示されますな……」

「そのとおり。さらに」


 と言って輝宗は続けた。


「私が蘆名を継ぐならば、伊達を継ぐのは政宗になる。すなわち、伊達は蘆名を父として、兄として仰ぐことになるのだ!」

「おお!伊達が蘆名の明白な『弟』に!」


 諸将はすでに夢中になりつつあった。


「ところで曾孫というだけですと少々当家との縁が薄そうにも思われますが……」


 と金上盛備がいう。


「うむ、それについては。」


 と蘆名盛氏が続けた。


「あの役立たずな小峰義親に嫁いだ我が娘を離縁させて輝宗殿に嫁がせる。」

「そんな事が……」「最上が黙ってはおりますまい……」


 再び諸将から疑義が漏れた。


「最上については」


 輝宗が答えた。


「すでに義光殿には承諾を頂いてある。」


 おお、それならば。と諸将は納得した様子であった。

『昨晩義姫には『立場上正室は譲ることになるが実質的な正室はお前だけだから!真に愛しているのはお前だけだから!と言ってしこたま殴られ『嗚呼!顔はやめて!差し支えるから!』と泣きを入れたら腹を集中的に蹴る殴るされたもののなんとか納得しもらったからな……』と痣で真っ黒になった腹を着物の隙間からちらっと見ながら輝宗は会合の流れを見ていた。


 二階堂盛隆は『不愉快だ!』と言い捨てて部屋から出ていき、金上盛備だけが、『お待ちくだされ!』と追いかけていった。


 こうして伊達輝宗は蘆名家を継ぐこととなった。その名も『蘆名盛輝』と改め、蘆名盛氏の娘を正室に迎え蘆名家の当主となったのである。蘆名盛輝は蘆名家代々の家臣にも気を使い、米沢から重臣としては遠藤基信のみを引き連れ、鬼庭左月斎は米沢の政宗の補佐として残したのであった。


 蘆名家の家臣たちは蘆名盛氏の助けもあり、概ね盛輝を受け入れたが、金上盛備は佐竹義重と密かに連絡を取り合うようになった。二階堂盛隆父子も人質から開放されたこともあり、その居城である須賀川城に帰ってしまった。また妻を離縁された小峰義親は明白に蘆名に対して反抗するようになり、二階堂ともども急激に佐竹義重に接近するようになったのであった。


 そして米沢ではついに伊達藤次郎政宗が伊達家当主として家督を継いだのであった。

また週明け月曜午後からよろしくおねがいします。

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[一言] 輝宗と義姫の修羅場をドラマで観たい
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