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伊達藤次郎政宗、山形に最上義光を訪ねる

日間歴史ランキングで4位に入りました!皆様本当にありがとうございます!

 伊達藤次郎政宗は上洛を終え帰国し、米沢城の伊達輝宗の所に報告に行った。


「おお、この度はご苦労であった。公方様(足利義昭)もお喜びか。」

「はい。しかしいま天下を差配しているのは公方様ではなく織田信長かと。」

「うーむ。信長。公方様を支えているが朝倉・浅井とも戦になっており、敵に囲まれて難しい状況なのではないか?」

「いや、朝倉宗滴が生きていた頃ならともかく、今の朝倉・浅井なら信長殿には勝てますまい。」


 と政宗は予測したふりをしてすっとぼけて言った。


「となると信長殿にも贈り物をしておいて正解だったな。」

「御意。」

「ところで政宗、久しぶりに母と会えてどうだった。」

「なんというか猛烈な感じになっていました。」


 と汗をかく政宗。


「お、おぅ。そうか。」

「杉目の父上の所に行きたいとか。」

「そんなことをされたら母上との間で怪獣大戦争が勃発してしまう!」

「お止めしましたので大丈夫かと。」


 と言われてホッと息を吐く伊達輝宗。


「ところで今後は織田家とのやり取り当家は羽柴秀吉殿が担当なさるとのことでした。」

「羽柴殿か。出は低いがまたたく間に重きをなす様になってきたとか。」

「そこしれぬ鋭さを持った方です。」

「藤次郎がそこまで言うなら肝に銘じておこう。」


 藤次郎政宗が米沢に戻ってから暫くの間は相馬が侵攻してくることもなく、落ち着いた日々が続いた。


年月は進み、改元されて天正元年(1573年)となった。畿内では室町第十五代将軍、足利義昭が織田信長に反旗を翻すも破れて京から追放され、信長が『天下人』と見做されるようになったのであった。伊達藤次郎政宗は数えで17歳となっていた。この頃になると後藤信康が元服して片倉景綱とともに政宗に付き従うようになった。ある日、政宗が輝宗に呼ばれると、渋い顔をした輝宗が鬼庭左月斎と遠藤基信に挟まれて座っている。


義父上ちちうえ、いかがなさいました?」

「うむ、お主に父と呼ばれて良い立場にはなったが、やっと馴れてきたわ。ところで。」


 と言って輝宗は切り出した。


「我妻、義姫の実家が最上なのはよく知っておろう。」

義母上ははうえは最上義光様の妹御にございますからな。」

「あれはお願いだから「母と言われると歳を取った気になるから『姉上』と呼ばせなさい!」と言っているから姉上、と言ってくれ。それはともかく、その最上義光殿とその父、最上義守殿の間で揉め事が起きたのだ。」

「またですか。」

「うむ。先日お主が上洛した頃、最上の棟梁、最上義守殿が嫡男最上義光殿にはあとを継がせぬ、と言い出して調停に乗り出したのは覚えているか。」

「はい。あの時は結局義光殿が跡目を継がれましたな。」

「それが今になって本家の影響力を強めよう、という義光殿に反発した国人衆が義守殿を担いで対抗しようとしているのだ。」

「どこかの天文の乱の親子が逆のような話ですな。」

「まったくだ。」


 政宗は考えた。これは天正最上の乱。想定よりは1-2年早いが。


「しかして父上はどちらに味方しようかとお考えで。」

「それは義守殿だろう。義光殿はこの伊達の影響力から脱して独立することを目論んでおる。義守殿は中野義時なる義光殿の弟を担ぎ出して跡目を取らせる、と言っている。」

「中野義時?聞いたことがありませんな。」

「うーむ。義守殿が隠居してからどこぞのものにでも産ませた赤子でもおるのか。あ、政宗、お前のように出自がちゃんとしていれば別だぞ。」


 と気を使う輝宗。


「しかし父上。」


 と言って政宗は続けた。


「ここは義光殿にたとえ押し売りでも味方いたしましょう。」

「なんと。なぜじゃ?義守殿の方が我らの希望には沿うておるぞ。まあ義姫は父の義守より兄義光に組みしてほしいそうだが。『父は小粒でいかぬ。』だと。」

「たしかに義光殿は独立志向が強く、我ら伊達から離れようとしております。しかし、こう言ってはなんですが義守殿は凡庸。対する義光殿は一世の驍将であります。」

「うーむ。政宗が褒めるものは敵であろうと味方であろうと一角の人物だからな。そこまで差があるか。」

「はい。たとえ我らが義守殿に味方しようがしまいが、いずれにせよ義光殿が勝ちましょう。ならば義光殿に恩を売りつけるのもありかと。」

「なるほど、それは面白いな。ただ味方するだけでは義光殿は納得するまい。なにか良い土産もあるのだろ?」


 と言って輝宗はニヤリと笑った。


「あります。」

「流石だな。我ら伊達が損をするものでは。」

「もちろんありません。」

「よし、政宗。最上に送る軍勢はお前に任せた。義光殿に恩を売ってみよ。」


 こうして伊達政宗は軍勢を率いて出羽山形城に出立したのであった。山形では父、最上義守との戦の準備に追われる最上義光の姿があった。


「なに?伊達の軍勢だと。この山形をいきなり落としに来たのか。返り討ちにしてやるわ。」

「いえ、お味方に来たと言っております。」

「なんと?どこのどいつだ?そんな事言われても信用ならんわ。」

「『嫡男』の伊達政宗殿です。」

「梵天丸か……義からもよく聞かされているが腹に一物どころか十ぐらい隠し持っていそうな奴だな。」


 と人のことをいえない謀将最上義光は言った。


「まあひとまず会ってみよう。謀の可能性も高いから隣の部屋には兵を潜ませよ。鉄砲隊も置き、火縄を絶やすな。」


 最大限の警戒をしつつ、最上義光は伊達政宗に会うことにしたのであった。

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