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梵天丸、ついに伊達藤次郎政宗となる

 相馬勢を退けた梵天丸の本陣に援軍の将がやってきた。


「片倉小十郎景綱でございます。御館様(輝宗)の仰せで以後梵天丸様に付くように、と。」


 梵天丸は床几から立ち上がると片倉景綱の所に駆け寄り、両の手をしかと握りしめた。


「おお、小十郎、父上が送ってくださったのか。ソナタが来てくれなければこの梵天丸、危うく相馬義胤の刀の錆になるところであった。心から礼を申す。それに我は脇に小十郎がいないとどうにも落ち着かずずっとそわそわしていたのだ。これから末永くお頼みいたす。」

「おお、本当に御館様のことを『父上』と呼ばれるのですな。」

「あ、兄上だったわ。」


 といって二人はカラカラと笑った。


「此度の梵天丸様の鬼謀、この小十郎も感服いたしました。そもそもこの小十郎の到着も読まれていたのでしょう。」

「おう。しかし相馬が強すぎて危うく危ない橋を渡るのに失敗する所であったわ。」

「しかしこれで伊具郡全体が伊達のものとなりましたな。」

「ああ、相馬とダラダラと抗争を続けていては先に進めないのでな。うまく行ってよかった。」

「先に、ですか。しかしご自慢の鉄砲隊がえらく数が少ないようですが……苦戦されたのはそれが原因では?」

「うむ。三千丁もあれば相馬騎馬隊に壊滅的な打撃を与えることも可能であったが、2百ではそこまで行かないだろうと思ってな。」

「さ、三千ですか。」

「おうよ。なので大半を中島宗求に渡して金山城を夜襲させたのだ。」

「それであの金山があっさりと落ちたわけで。」

「父上が亘理殿とお願いしたとおり駒ヶ嶺を攻めてくれたのが肝要であったよ!あれがなければ相馬勢も引かなかったであろう。上手く行ってよかったが……ああ、流石に疲れた!」

「ところで御館様から米沢に戻るように言付けを頂いております。それにあたって伊具の守将は梵天丸様の差配に任せると。」

「おお、ならば金山はそのまま中島宗求にまかせたい。年は若いが剛毅な割に考えも落ち着いていて頼りになる。」

「梵天丸様もお若い上に中島は梵天丸様ほどは若くないのでそこは大丈夫かと。」

「小斎は佐藤為信に。佐藤は以後は我に忠誠を誓い、相馬には決して戻らぬと思う故、相馬が攻めてきても必死で戦ってくれよう。」

「相馬には恨みがあるようですからなぁ。佐藤の病の父も早く良くなると良いですな。」

「丸森は大條宗家・大條宗直親子にお願いしよう。黒木……と思ったがまだ相馬におるのだよなぁ。」


 『まだ』とはどういうことだ?と片倉小十郎は訝しんだ。しかしひとまず疑念を振り払って話を続けた。


「ではお三方を城代ということで。」

「うむ。鳥屋の安倍安定が黒脛巾組をつかってそれぞれ監視網を引いているから相馬も迂闊には手を出せまい。」

「噂の草(忍者)の集団ですか。」

「おうよ。我は『忍軍』と呼んでいるがな。」

「なんだかかっこいいですな。」


 伊具郡の諸将の配置を決め、それぞれ任せると梵天丸と片倉小十郎は米沢城に向かった。

米沢城の御殿では当主、伊達輝宗が梵天丸たちを待っていた。脇には最上から来た輝宗の正室、義姫が控えている。


「おお、梵天丸よ、よく来てくれた。お主のおかげでついに伊具郡すべてが我ら伊達のものとなったぞ。」

「この度は父上が宇多郡へ兵を進めていただいたのが肝要でした。心から感謝いたします。」


 と梵天丸は平伏した。


「おう。で、その『父』の件なのだがな。」


 と言って輝宗は話を始めた。


「此度の戦における梵天丸の武功は天下無双である。少し早いが梵天丸は元服の上で「伊達藤次郎政宗」を名乗るのだ。」


 ……ついに来た。梵天丸は心の中で拳をぐっと握りしめて振り上げた。立場は『父』輝宗の弟だが、相馬との抗争を遥かに前倒しして決着できたのである。いよいよ『政宗』としての経歴が始まるのだ。しかし、と梵天丸は思った。父の弟ならば我は無事に伊達が継げるのだろうか?ひょっとするとまだ生まれていないが弟の小次郎政道がそのまま当主になるのでは?梵天丸は……これはやらかしたかもしれない、と不安に思った。


「なんだその嬉しいんだか悩んでいるんだかわからん顔は。」


 と輝宗から声をかけられて、梵天丸ははっと我に返った。


「はっ。この梵天丸改め伊達藤次郎政宗、父、でなくて兄上のため、伊達家の発展のため尽力したします。」

「藤次郎、これからも伊達家のために尽くすのですよ。」


 と義姫が声をかけてきた。


「はい!母上のために励みます!でなかった姉上のために。」

わらわはそなたの母であるほどは年かさではありませぬ……」

「そこなのだがな。」


 と言って輝宗は話を続けた。


「知っての通り最上から義を迎えたが、未だに嫡男には恵まれぬ。義は二、三年前に『生まれる気がする』と言ったが空手形だったのじゃ。」


 それ俺、俺、と梵天丸は小さく指を立てると密かに自らを指差した。


「……なにをしておる。そうなのじゃ、お前なのじゃ。」

「兄上、何の話で。」

「うむ、我らには嫡男がおらぬ。そこでじゃ、これまでに武勇・智謀に優れ成果を上げてきたお主を我らが養子に迎えることにしたのじゃ。」

「なんと。」

「であるから養子に出さず、伊達家代々の嫡男が継ぐ、『藤次郎』の名を与えた、というわけだ。藤次郎、不満か。」

「過分なお話、誠にありがたき限りでございます!」


 藤次郎は平伏した。


「この伊達政宗、父上のために忠孝をつくさせていただければ。」

「うむ、これで堂々とお主も俺を『父上』と呼べるな。」

「この歳でこんな大きな息子ができてしまいました。藤次郎、よろしく頼みます。」


 と義姫も続けた。


「はっ。母上のためにも藤次郎、がんばります!」

「さっそく母上ですか。」

「はっ!」


 と言って皆は大きく笑った。こうしてついに梵天丸は伊達輝宗の嫡子、伊達藤次郎政宗となったのであった。


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