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4-12 朱雀


「泣いても笑っても、一回勝負だからね」


「望むところだ!」


「我も依存ありませんよ」


周りの陰陽師(おんみょうじ)と、朱雀(すざく)がポカンとして見ている前で、僕ら3龍は――――――



「「「 じゃーん、けーん……ぽんっ!! 」」」


「グー」


「パーだ」


「同じくパーです」


いきなり負けたし。


「かーっかっかっ! 千尋(ちひろ)(ほとん)ど最初にグーが来るんだ」


「すみません千尋(ちひろ)さん。勝ちは勝ちですので」



くぅ。なんか納得いかねえ!!


セイに読まれているとか言うのが特に……



でもイカサマ無しで、負けたのだから仕方がない。


「むう、じゃあ僕は陰陽師(おんみょうじ)を片付けるから」


そう言いながら神器の(たま)を握りしめると、先ほど降らせた雨を水蒸気にして地面から立ち上らせる。


何が始まるのか分からず、間合いを詰められずに居る、陰陽師(おんみょうじ)達。その警戒心は称賛するが、龍神に喧嘩を売った代償は払って貰う。


更に濃くなる水蒸気に、どよめきが起こるが、気が付いた時にはもう遅い。


その場に居る全員が、1メートル向こうも見え無いぐらい、濃い霧に覆われると、更にその濃霧(のうむ)に視覚野の乱反射を掛ける。


そう霧が全部、薄暗い鏡に成るのだ。


さて同士討ちして貰おうか……



出来るだけ致命傷に成らぬ様、水の針を創って、真後ろに居るセイ達とは逆の方向へと飛ばす。



威力は必要ない、これは同士討ちを誘う、最初の一手であれば良いのだ。


僕の創った水の針が、陰陽師(おんみょうじ)達の何名かに当たったようで、悲鳴が上がる。それと同時に、大丈夫か!? と仲間を気遣(きづか)う声もする。



「くそぉ! そこか!!」


「待て! オレは仲間……ぐあぁ」


「どこ行った!?」


「オレは違っ……」



始まったか……


本当に死なれても困るので、ある程度時間が経ったら、濃霧(のうむ)を解除してやるつもりだ。



千尋(ちひろ)……お前の術は、毎回本当にえげつないな』


セイから念話が着て、そう言われる。


『だって仕方ないだろ、普通の龍神が出来る事を、出来ないんだからさ』


水だって自分で創り出せないので、先ほど降らせた鴨川(かもがわ)の水を使った水蒸気だし。


千尋(ちひろ)さん。誰にでも得手不得手(えてふえて)がありますって』


赤城(あかぎ)さん。僕は龍神として、不得手(ふえて)しかないんですけどね。



『それより二人とも、ジャンケンの勝負は着いたの!?』


『つかん!! なので、先に仕留めた者が勝ちって事に変更した』


『はい。だから今、朱雀(すざく)を追っています』



結局共闘じゃないか!! 最初からそれで行けよな……まったく、素直じゃないんだから。


濃霧(のうむ)で視覚が絶望的であるので、セイ達の()を探ると、大きい火氣(かき)水氣(すいき)が移動していた。



空へと――――――



おいおい、空はマズイ! 誰かに写真を撮られりしたら、ネットで拡散されちゃう。


急いで濃霧(のうむ)の術を解くと、神器の珠に意識を集中させ、東にある大きな水氣(すいき)の水溜りへと意識を飛ばす。


琵琶湖(びわこ)の水を少し頂戴(ちょうだい)しますよっと。


僕はそのまま琵琶湖(びわこ)の水で、京の真上に雲を創り、雨を降らせ始める。


鴨川(かもがわ)の水よりも水量が多い為、京の街全体が土砂降(どしゃぶ)りだ。


ここ城南宮(じょうなんぐう)も、直ぐに濃霧(のうむ)が晴れてくるが、周りにかなりの数の陰陽師(おんみょうじ)が、倒れているのが分かる。


それでも数名は、無傷な者が居る様だけど、手当に回っていて、戦闘どころの騒ぎではない様だ。


淤加美(おかみ)様が言うには、僕の降らせる雨は浄化作用の他に、傷の回復も行えると言う事なので、倒れている陰陽師(おんみょうじ)も回復しているだろう。回復雨が当たる場所に居ればね。



さて、土砂降(どしゃぶ)りで視界は悪くしたが、それでもまだ完全に見えない訳ではないので、降る雨をバックスクリーンにして、視覚野(しかくや)を乱反射させ、空のセイ達を居ない様に見せる。


これで、熱感知スコープでも無ければ、肉眼では視認できない。まったく世話が焼けるよ。



僕は空が飛べないので、空で繰り広げられる戦闘を地上から見守るしかない。


そんな時、倒れていた陰陽師(おんみょうじ)の一人が声を上げる。



「おい……神農原 真(かのはら まこと)の手下かと思っていたら、あの角……瑞樹(みずき)の龍神じゃねーか!?」


またか……


「まさか!? 瑞樹(みずき)の龍神ってあれだろ? 逢う者に大凶を振りまく凶星」



おいっ!!



「でも、瑞樹(みずき)の凶龍と、神農原真(かのはらまこと)は敵対していたはず」



その凶龍って言うのをヤメロって……



「間違いねえ! 武甲山(ぶこうさん)の南側を焼け野原にして、苗場山(なえばさん)(えぐ)り、京の真ん中に隕石まで堕としたらしいぞ」


「俺の聞いた話だと、飛騨(ひだ)の山を廃鉱ごと吹っ飛ばしたんだと……まさに凶龍」



こいつら……言いたい放題いいやがって……しかも、話に尾ひれ付き過ぎじゃねーかよ!!


「違げええわ!! 武甲山(ぶこうさん)の南を焼いたのは、灰色狼のハロちゃんだし、苗場山(なえばさん)(えぐ)ってねえ! ちょっと焦げただけだし、あれだって、実際にやったのは(たける)さんの雷神剣草薙(らいじんけんくさなぎ)だ!!」


「ひぃぃぃ」


僕の怒鳴り声に、縮こまる陰陽師(おんみょうじ)達。


どれもこれも、僕の仕業にされ過ぎてる。これが風評被害(ふうひょうひがい)ってやつか……おのれ~陰陽師(おんみょうじ)


だいたい、京に落としたのだって隕石じゃねえし。隕石なら街ごと無くなってるわ!


飛騨山(ひださん)だって、廃鉱(はいこう)部分が吹っ飛んだだけで、山の方は少し崩れただけだし。


これ以上変な噂立てられる前に、どうにかしないと…………ねぇ。



僕はにっこり笑みを浮かべながら陰陽師(おんみょうじ)達に近付くと――――――


「さっき変な噂を言ったヤツ……どの人かなぁ~」


「ひぃぃ! 御助けを!」


「これ以上変な噂流されても、困るんだよね。記憶を忘れて貰おうかな?」


実際には、そんな事出来ないけど、恐怖を植え付けるだけで、噂が止まるならと演技を続け――――――


如何(いか)にも、これから脳を(いじ)ります。と言った具合に、右手を陰陽師の顳顬(こめかみ)のあたりに伸ばしていく。


「ひぃいい! もう絶対に言いませんから、記憶は(いじ)らないで!!」


「一応駆け出しとはいえ、国津神(くにつかみ)なんですからね。嘘をついたのなら天罰が下りますよ。他の人も良いですね?」


「は、はい! 誓います!!」


陰陽師(おんみょうじ)達の声が裏返ってるし。しかも、股の間から粗相(そそう)をする者まで……これだけ恐怖を感じさせて置けば、変な噂は広めないでしょう。


まったく……名のある陰陽師(おんみょうじ)が、力の使い方を間違えるとは……まことに勿体無(もったいな)い。相手が龍神でなければ、最強の呪術師だろうにね。


淤加美(おかみ)様の話だと、ロールプレイングゲームに出て来る、賢者みたいな職業だと言うし。出来れば、人を護る方へと尽力してほしいモノだ。




「じゃあ。巻き込まれない内に、主の元へ帰りなよ」


僕の言葉に、唖然(あぜん)とする陰陽師(おんみょうじ)達。


何かされると思ってたのに、帰れっ! て言われたものだから、仕方がないのだろう。


「……あのぅ、帰れって言いました?」


「言ったよ。あんた達陰陽師(おんみょうじ)ならば、空のアレが見えるでしょ? 巻き込まれない内に帰れって言ってるの」



僕の言葉を聞いて、陰陽師(おんみょうじ)達が雨の降る空を見上げる。


空では、龍に姿を戻したセイと、赤城(あかぎ)さんの2龍が、大きな炎の鳥と戦っていた。さながら恐竜映画のワンシーンみたいだ。



余裕だと思っていた戦いだが、実際に見てみると、セイ達は思ったより苦戦していた。


属性では、水氣(すいき)が圧倒的に有利だが、それは攻撃が当たればの事。


空の上では、機動力(きどうりょく)に物を言わせ、攻撃を全部避ける朱雀(すざく)


そう……どんなに有効な攻撃でも、当たらなければ意味が無いのだ。


しかも、京の街へ被害が出ぬ様。水のブレスを吹くのに、水平より上向きにしか使えないので、更に苦戦を()いられているようだった。



そんな戦いを食い入るように観て居る陰陽師(おんみょうじ)達に――――――


「僕の雨は回復の効果もあるから、動けるまで回復したら、さっさと戦場離脱(せんじょうりだつ)してね。こちらから手を出す気は無いから」


後を追う気は無いと、はっきりと伝え。早めにここから逃げる様に言って置く。



僕はもう、次の手を考える為に、朱雀(すざく)の動きをよく見て策を練っていると――――――


強めの火炎ブレスを貰った、龍化中のセイが落下してくる。


このままでは、地面に叩きつけられてしまう。間に合うか……


すぐさま雨水で柔らかいクッションを創り、そこへと落ちてくるセイ。



「ちょっと、セイ大丈夫?」


「炎など効かぬと油断したが、結構威力がありやがる」


ブレスを受けた場所が黒く焦げていたが、回復の浄化雨のお陰で直ぐに治っていく。


「やっぱり当たらなきゃ、幾ら有利な水ブレスでも、意味が無いよねぇ」


僕はセイの焦げた鱗を撫でながら、朱雀(すざく)の機動力のある翼を何とかできないモノかと考えるが――――――


朱雀(すざく)の動きを遅くするために、粘度の高い雨にしたら、セイ達の動きまで、阻害(そがい)されてしまう。


こうなったら――――――



「セイ、僕を背中に乗せて飛んで」


「そいつは良いけどさ、近くに寄った処で、本当に攻撃なんて当たらないぜ」


「だからさ、朱雀の更に上にある、雲の中へ行ってくれる?」


「また何かする気だな? ま、そのぐらいなら別に構わないが……乗れよ」


僕は言われるまま、セイの背中に飛び乗ると、そのまま急上昇を始める。


その間も、赤城(あかぎ)の龍神さんが、朱雀(すざく)を引き付けてくれているが、攻撃はさっぱり当たっていない様だ。


そんな赤城(あかぎ)さんを横目に見ながら、セイは更に上昇をし雲の中へと入る。



「おい千尋(ちひろ)、雲の中だから視界はゼロだぞ。どうやって攻撃を当てるんだ?」


セイは雲の中心で上昇を止めて、僕へそう尋ねてくる。


「この雲も雨も、僕が創りだしているんだよ。眼で見えなくも、雨が降り落ちる時に地面以外の障害物に当たれば、そこに朱雀(すざく)の存在が居ると分かるんだよ」


現在、雨を遮る巨大な飛行物体は2つ


一つは胴の長い、大きな龍や蛇の様なモノなの……おそらく其方(そちら)赤城(あかぎ)の龍神さんだろう。


もう一つ……その前方に、巨大な羽をした鳥が居ると分かる。


それが朱雀(すざく)


僕は朱雀(すざく)の存在を感じ取ると、そのまま朱雀(すざく)の気配ヘ向かい、セイの背中から飛び降りた。


後ろでセイが何やら騒いでいたが、落下中の風を切る音で、ぜんぜん聞こえない。



『おい千尋(ちひろ)! 飛び降りてどうするつもりだ!!』


声が聞こえないと思うと、セイが念話に切り替えて、慌てた様子で問いかけてくる。



『もちろん、このまま朱雀(すざく)撃墜(げきつい)する』



本当は地上からでも出来るのだが、地上からだと距離がある分、動作が大きくなり、朱雀(すざく)が避け安いと考え、出来るだけ近付いて攻撃しようと言う算段だ。



落下しながら、雨水を使って薄いガラスの様な刃に変換していく。


限りなく薄くしたのは、朱雀(すざく)視認(しにん)しづらくする為。これだけ視界が悪い大雨の中で、ガラスの様に細い刃なんか、見つける方が至難の業だ。


まさに、(わら)の中の針ならぬ、大雨の中の薄水刃(はくすいじん)


やがて雲を抜けると、大雨の中で戦う、赤城(あかぎ)の龍神さんと朱雀(すざく)の姿が見てとれた。


朱雀(すざく)と僕の距離は、約数百メートル。


僕はその距離に合わせて雨水を追加し、水の刃を伸ばしていく。


チャンスは一度!


狙うは――――――――――朱雀(すざく)の背中に、生え出た翼である。


僕は落下しながら、水の刃を握りしめ翼に狙いを定めると、身体を(ひね)りながら遠心力(えんしんりょく)を使って、水の刃を薙ぎ払う。



だが朱雀(すざく)も、僕の落下を注視していたのだ。


おかしな動きをする僕に危険を感じ、見えても居ない水の刃を、感だけで避け切る。


水の刃は、()しくも翼の(はじ)(かす)めただけに終わったが、僕はそれをも読んでいたのだ。


そう……この水の刃は、青龍(せいりゅう)戦で陰陽師(おんみょうじ)に使った、高濃度のエーテルで創ってあったので、かすり傷でも、麻酔の浸透(しんとう)は避けられない。



だが、これは()けであった!



大陸で四神(ししん)と言われた朱雀(すざく)は、元とは言え神だったのだ。日本で聖獣に成ってはいるけどね。


そんな元神に、麻痺耐性(まひたいせい)があったならば、この策は失敗に終わる。


だからこそ、人間では死に至るほどの、最高濃度(さいこうのうど)麻酔(エーテル)を刃にして放ったのだ。


これで効かぬなら――――――



「くそぅ! 翼が上手く動かん」


朱雀(すざく)の挙動が可笑しい。どうやら高濃度の麻酔(エーテル)が、効いているようだ。



「貰ったぞ! 朱雀(すざく)!!」


回避どころか、飛ぶのさえやっとな朱雀(すざく)に、赤城(あかぎ)さんの水ブレスが直撃する。


朱雀(すざく)はそのまま、声に成らない悲鳴を上げて、自由落下していったのだ。



僕は同じく自由落下しながら、念話で――――――


『やったね! 赤城(あかぎ)さん!』


そう喜びの声を上げると、セイが慌てた声で――――――


『やったね! じゃ、ねーだろが!! 千尋、この後お前はどうする気なんだよ!』


『水を集めてクッションでも創るさ』


幸い、大雨を降らせているので、水には困らないし。



そんな時、僕は何か生き物の上に落下した。



『そんな事しなくも、俺を呼べよな』


『……セイ? うん。ありがとう』


『あ、いや。朱雀(すざく)赤城(あかぎ)の奴に、取られちまったんでよ。俺はやる事なかったし……』


そのままセイの角に掴まり直すと、落下していく朱雀(すざく)を龍眼で追う。


慌てて水のクッションを創ろうかと考えたが、そう思った時には、既に地面へ落下した後だった。


『まさか死んで無いよね?』


『さあな。まあ、あれでも元神だったんだし、墜落ぐらいでは死なんだろう』


痛みで(しば)らくは動けないかも知れぬがな。と付け加えた。



僕は、セイに朱雀(すざく)の落下地点へ急ぐように言うと、先に赤城(あかぎ)の龍神さんが降りて居て、龍化から人の形に成って、朱雀(すざく)(かたわ)らに膝を付き、傷の状態を診ていたのだが――――――


「まさか……」


「いえ、眼を回しているだけですね」


赤城(あかぎ)さんは、やれやれと立ち上がりながら、肩を(すぼ)めている。


それを聞いて、僕は胸を撫で下ろし、直ぐに大雨を(ゆる)めていった。


このまま雨を降らせたままだと、琵琶湖(びわこ)の水が減ってしまうからね。でもまぁ、あれだけ広いと、簡単には干上(ひあ)がらないだろうけど……



そこに人化したセイも合流し――――――


「すばしっこい、ニワトリ野郎だったぜ」


目を回している朱雀(すざく)注連縄(しめなわ)(しば)る。


また瑞樹神社(ウチ)から勝手に持って来たな? まあ、あるレベル以上になると、普通の(なわ)じゃ解かれちゃうからね。


そういう意味でも、注連縄(しめなわ)で縛るのは仕方がない。使い方を間違えてるような気がするが……



さて……いつもなら、敵を倒した頃合いで出て来るんだけど……千平(せんだいら)さんは何処(いずこ)



あのアヤシイ、偽名(ぎめい)陰陽師(おんみょうじ)(さが)すべく、周りを見渡す。



その景色は見覚えがあった。どうやら朱雀(すざく)と、それを追った僕らは、上手い事に城南宮(じょうなんぐう)の中へ落ちたようだ。


まるで狙ったかのように、上手く行った。


「でも、千平(せんだいら)さん居ないねぇ」


千平(せんだいら)? あぁ、あの似非陰陽師(えせおんみょうじ)野郎か」


「そう言えばそうですね。いつもなら、全部片付いたタイミングで出て来るのに」



3龍で周囲を捜していると――――――



似非陰陽師(えせおんみょうじ)とは酷いなぁ」


そう言いながら、セイの背中に指を()わせる千平(せんだいら)さん。


「ぎゃああああ!! てめえ!! ゾワゾワってしたじゃねーか!! 俺は(おす)に興味はねえ!! (めす)に成って出直しやがれ!!」


僕も元男なんですけどね……(めす)()()()出直してるけど……



「しかし、この人間……いつの間に湧いた!?」


赤城(あかぎ)さんの言う通り、本当に何時湧いたのか分からなかった。


3龍で捜索してたのに、気が付かれ無いよう近付いて、セイの背中を取るなんて……マジで只者(ただもの)ではない。


幽霊ですら霊氣(れいき)を感じさせるのに、それを千平(せんだいら)さんは、普通に人間が持ち合わせてる()すらも、感じさせないとか……本当にあり得ないのだ。



「嫌だな皆さん。怖い顔しちゃって……私の事を捜していたんでしょ? だから出て来たのに」


今度は、地面に『の』の字を書きだす千平(せんだいら)さん。


この愚者(ぐしゃ)を演じるのが丸分かりで、馬鹿にされている様でもある。



「演技は良いですから、早い処盟約主変更(めいやくぬしへんこう)しちゃいましょう。僕は明日も学園なんですよ」


「おっと、そうだったのですね。それは失礼しました。ですが、既に0時を回ったので、明日ではなく今日ですよ、マドモアゼル」


フランス語が混ざってるし、いったいどこの国の人?


演技するキャラのイメージが、まだ固まってなくて、何でも有って感じだし。


話しているだけで疲れるので――――――



「もう良いですから、早く変更を……」


そう(うなが)すと、千平(せんだいら)さんは地面に、陰陽五芒(おんみょうごぼう)(じん)を書き始めた。


今回は手書きかよ!!



そんな無駄話をしている僕らに、陰陽五芒(おんみょうごぼう)(じん)の真ん中へ座らされた朱雀(すざく)が――――――


「どーでも良いけどさ、早い所変更を終わらせて、縄を解いてくれよ。きつ過ぎて……」


目を覚ました途端(とたん)に、文句を言ってくるのだが。千平(せんだいら)さんは、慌てる素振りもなく、マイペースで陣を書き続けている。


全く動じない人だ。



そんな千平(せんだいら)さんが――――――



「そう言えば、みなさん。白虎(びゃっこ)はどうするんですか?」


地面の土を、木の枝で掘るように陣を書きながら、僕に聞いてくる。


「さすがに徹夜はマズイので、これで一度帰ります。お風呂も入りたいし」


龍の巫女である、小川 伊織(おがわ いおり)さんも送らなきゃならないしね。



「そうですか……では白虎(びゃっこ)戦は、明日の夕方……と言う事で、良いんですね? ちゃんと聞いて置かないと、待ち惚(まちぼう)けするのも何ですしね」


待ち惚(まちぼう)けかぁ、その方が面白かったかも」


僕のその言葉に、セイと赤城さんが、同意とばかりに頷く。



「ええっ!? やめてくださいよ。良い大人が一人で、一日待ってるなんて……あやし過ぎて、通報されてしまいます」


本当にその方が面白いかも……



まあ、盟約主変更が出来る、千平(せんだいら)さんが警察に捕まっても、助けるのが厄介だし。


やってみたいけど、そこは我慢(がまん)して置く。


取り合えず、明日は夕ご飯も済ませてからかな? 今度こそ、子狐ちゃんズを連れてこないと、本気で怒られそうだし。


昼間だと人目があるので、日が落ちて暗くなった頃に、白虎(びゃっこ)戦を決行と言うことにして


出来上がった、朱雀(すざく)用の盟約変更の五芒の陣へと血を垂らす。



何か簡単すぎて、本当にこんなので良いのか、心配に成るが――――――


「龍神である上位種が、変更の手続きをしてますからね。簡単に見えるんですよ」


だそうだ。


本来なら、この結界を創った、安倍晴明(あべのせいめい)と霊的な勝負みたいなのがあって、それに打ち勝てれば書き換えられるらしいのだが……


そもそもが、人間の霊気では、神族の神氣に勝てる訳もなく。人間の霊力が、マッチの火だとすると、龍神の神氣は、消防車で放水するぐらい差があり、やる前から勝負が見えているらしい。


だから、簡単に儀式が終わっているとの事。


マッチの火に、消防車の放水とかオーバーキルも良い所だ。昔風に言えば牛刀割鶏(ぎゅうとうかっけい)だな。つまり試練は必要なしと。



盟約主が変更されると、(たちま)ちの内に傷が()えて行く。


玄武(げんぶ)青龍(せいりゅう)もそうだったが、盟約主変更後は、傷の治りが本当に早くなる。


千平(せんだいら)さんの話だと、盟約主に似たステータスになるらしい。なので龍神の再生力が四聖獣にも備わるのだろうと言っていた。


だとしたら玄武(げんぶ)青龍(せいりゅう)は、水神の加護が入るから良いが、火氣(かき)朱雀(すざく)は弱体化しちゃうかもね。


とりあえず、4体が同時に結界を弱めなければならないので、白虎(びゃっこ)の盟約主を書き換えるまでは、朱雀(すざく)にも待機を命じ。


僕らは一度、北関東の瑞樹神社(みずきじんじゃ)へと、帰る事にするのだが……



「本当に一緒に来ないんですか?」


僕は千平さんにも、部屋を用意すると言ったのだが。どうやら、ここ京より東に行けない理由があるらしく、明日の夕方まで京に泊まるとの事。


まあ、話せない事情なら仕方がない。胡散臭(うさんくさ)いけど、盟約主変更(めいやくぬしへんこう)とかで、力を貸してくれてるのは事実だしね。


また白虎(びゃっこ)戦の時に、逢いましょう。


僕らはそう言って、北関東の瑞樹神社(みずきじんじゃ)へ帰るべく、龍脈へ飛び込むのだった。




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