4-11 城南宮
処変わって、K都府、華千院本家。
そこで結界強化を続けている華千院 重道は、四聖獣の玄武に続き、青龍の反応が消えたことに気が付いた。
其処へ、慌てる様に分家の若者が飛び込んで来る。
「申し上げます!!」
「待たれいっ!! 重道様は、只今祈祷中であらせられるぞ!!」
「しかし……」
分家の重鎮に止められる若者だが――――――
「たった今、青龍の反応が消えた処だ。その方の報告を聞こう……」
重道は、止められている若者に、報告を促す。
「はっ! 当方が向かわせた、陰陽師実行部隊は全滅いたしました」
その報告に、騒めき立つ分家の重鎮たち。
「馬鹿な!? 白虎側と二手に分けたとはいえ。腕の立つ者が、8名は居たはずじゃ」
「誰も生き残りは居らぬのか?」
その言葉に、若者は――――――
「生き残りは居ります。8名全員です」
「では何故全滅などと?」
まるで要領を得ないので、苛立つ重鎮たちだが
若者も、どう話して良いか、分からないと言ったところの様である。
「それが……その……全員が府警に留置されています」
「「「「 はぁ? 」」」」
重鎮たちは、更に意味が分からんと言った表情で、ポカンとしているのだ。
「意味が分からん! もっと詳しく話せ!」
「えっと……接見にいった弁護士の話だと、全員が将軍塚青龍殿への不法侵入。及び飲酒で服を脱いで寝ていたと言う猥褻……何とか罪と言う奴らしいです」
「もっと分からなくなった。なんで実行部隊が飲酒なんて……」
その話を黙って聞いていた重道が――――――
「ふっ、こんな巫戯けたやり口は、晴明……いや、神農原 真の仕業に違いない。大方、眠り粉か何かで寝かせた後に、酒の空き瓶を持たせ。更に、乱痴気騒ぎがあった様、見せ掛ける為。服も脱ぎ散らかして警察へ通報したのであろう」
「なるほど……それでは早く保釈するよう弁護士を……」
重道の推測を聞いた重鎮たちが、慌てて動き出すが、報告を持って来た若者が――――――
「それがその……爆発物や武器をそのまま所持していたらしく。銃刀法違反以外に、爆薬がテロ等準備罪にも問われそうで、保釈の申請には準備が掛かるかと」
やられたな……
酒を呑んで騒いだだけなら、即釈放も出来たかもしれないが、武器をそのままにして置いたとは……確信犯か!?
神農原真め!
しかし、これで結界を右周りしていると分かったのだ。
「残りの実行部隊全員と、白虎の処へ向かわせた者達も、朱雀の居る城南宮へ向かわせろ!」
重道の言葉に、分家の重鎮たちが――――――
「しかし、それでは本家の守りが手薄に……」
「重鎮の方々よ、神農原真を今討てねば、永遠に安倍晴明の名は取られたままですぞ。それに、今やらねば何のために隠れていた彼奴を、我々の元へ引き摺り出したのか、わかりませぬ!」
重道のその言葉に、反論できるものは居なかった。
実行部隊を留置所送りにするとか、舐めた真似をしおって……見ていろよ。神農原真!!
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その頃、瑞樹千尋は――――――
京の南側にある。城南宮の中へ直接龍脈を開けていた。
ここ城南宮は夕方4時に、閉苑してしまうので仕方がない。
「はぁー広いんだな」
そう感嘆の声を上げるセイ。
「まあ。七社の摂社や末社が入っているからねぇ」
「七社もですか!? それでは、広いのも頷けます」
赤城の龍神さんも僕の言葉に驚く。
良かった、来る前にネットで予習して置いて……
他にも、城南宮のある鳥羽は、昔話に出て来る一寸法師が、お椀に乗って都に着いた場所としても有名であり。
お仕えする姫と、一緒に船で出る場所としても書かれている。
まぁ、この雄の2龍には、昔話に興味は無いだろうし、そんな蘊蓄は披露しないで置く。
「しかし、これだけ広いと、朱雀の探し甲斐があるってもんだな」
「セイ、先に言って置くけど、何処も壊すなよ」
「俺は壊し屋じゃねえ! だいたい何時もぶっ壊すのは、千尋か建御雷コンビだろうが」
「ぼ、僕だって壊さないよ! 尊さんと建御雷様達が8割で、僕は2割行くかどうかだよ!」
旧碓氷の道路をちょっと削ったり、京の晴明さんのアジトを揺炎で吹っ飛ばしたぐらい。
松島の東を吹っ飛ばしたのは、現世じゃ無かったからノーカウントだ。
「確か廃鉱も吹っ飛ばしたよな?」
「ぐっ……あれは……地中深かったし。加減もしたから……」
実際、あんなに威力があるとは思わなかった。対消滅は危険すぎる。
「ぐうの音しか、出ない様だな千尋」
「うるさいよ! 良いから朱雀の捜索しろよ!!」
へいへい、といい加減な返事を返して、笑いを堪えながら、捜索へ戻るセイ。
「でも、良かったですね千尋さん。結界が他の場所みたいに、南へ張り出して無くて」
そう言いながら手水舎の周りを捜索している赤城の龍神さん。
あんな下ばかり捜して……猫でも捜してるのかな?
でも、赤城さんの言う通り、結界がもっと南にあると思いきや。城南宮の北側にある、名神高速道路の北側に護りの四方結界が存在していた。
淤加美様の言う事には、だいぶ人間の造った構造物で、結界の位置がずれているとの事。
ここの結界が北へ移動してると言う事は、そのまま北側の玄武の結界が北へ押し上げられ。そのせいで貴船神社まで巻き添えに成って居るんだと思う。
まあ、北側はもう終わったから良いけどね。
あとは朱雀と白虎の盟約主を書き換えれば、少しずつ結界を弱めていくように命じ、最終的に元の結界へと戻る筈である。
まったく、とんでもない騒ぎを、起こしてくれたものだ。
無事に今回の件が終わったら、少し陰陽師達へ文句を言ってやらねば……と思いながら、捜索を続行する。
「居ないねえ。朱雀って鳥の姿なんでしょ?」
僕の問いにセイが――――――
「ゲームに出て来る、ハーピーとかセイレーンみたいなモノかな?」
「待て待て、ハーピーは分かるが、セイレーンは人魚じゃないの?」
「俺もそう思ったんだが、ゲームに出てきたんで、興味を持って調べてみたら、紀元前に見つかったセイレーンの像は、鳥の姿だったんだと。でも後に、魚の下半身とされたとの事だ」
また変な雑学が増えてしまった。
だいたい神道系の僕らに、そのギリシャ神話の知識を、役立てる時が来るのかは謎である。
その後も、3龍で城南宮を捜索して回ると、見事な枝垂れ梅が植わっているのが見てとれ、時期が春先ならば、綺麗な花を咲かせているであろう。
「しかし龍眼は便利だね。暗視できるから、懐中電灯も要らないし。灯を付けないから警備にも見付かり難いものね」
「確かに、相手側から視認されづらいと言うのは、かなり便利ですね」
「まあ、満月とまでは行かなくも、月が結構明るいがな……相手にも見えてるんじゃね?」
セイの言う通り、闇に紛れてと言うには少し明るい。まだ10月の最初の月曜なので、満月までは後1週間あるのだが、それでもだいぶ明るいのだ。
戦闘になるなら、監視カメラとか気を付けないとね。
その後も、かなりの時間をかけて捜索するが、朱雀は氣を殺して気配を断っているらしく、なかなか見つからない。
参ったな……このまま見付からなければ、一度帰らなくては、ならなくなる。
そんな時、チョーカ―に化けた巳緒が念話で――――――
『千尋……拝殿の方が怪しい』
『拝殿? そっちへ行けばいいの?』
どうやら、オロチに戻りかけた時以来、色々と忘れていた感覚が戻ってきているらしい。
巳緒のその感覚を信じて、拝殿へ向かうのだが――――――
「おい……あれじゃねーか?」
「あんなに目立つモノを見逃していたなんて……」
2龍が拝殿の屋根の上を見て、啞然としている。
それもその筈、屋根の上に朱金色のニワトリが乗って居るのだ。
「二人共、ちょっと待って。あれニワトリだよ!? 飛べないだろ!」
「…………いいや朱雀だ」
「おまっ!! 今自分でも可笑しいと思っただろう?」
「千尋さん。そもそも、ニワトリが屋根の上に居る事の方が可笑しいですって。だからあれは朱雀なんですよ」
「いやいやいやいや、朱雀って言ったら、もっとこう……格好の良い火の鳥じゃないの?」
それに、今まで逢った玄武も青龍も、人の姿だったし。朱雀だけが、ニワトリとか可笑しいってば!
「なんだよ千尋。ニワトリを馬鹿にするのか? あの天照大御神の神使だぞ」
「知ってるよ! 知ってるけどさ……」
ニワトリは飛べねーし。
そもそも、飛べない筈のニワトリが、どうやって屋根の上に登った?
色も朱金色なのが変だし、身体が光ってるし……
「千尋さん。心配なら我が倒して見せましょうか?」
「待て待て、ずるいぞ赤城! 先に見つけたのは俺だろうが!」
こんな処で喧嘩始めるなよ……
しかし何というか、ニワトリの太々しい顔が気に入らない。
僕は手水舎の水を刃に変え、屋根の上に居るニワトリに狙いを定めると――――――
「わーーー待った待った! オレはただのニワトリで、朱雀じゃ無いんだからよ」
「……ニワトリが喋ったし」
「ちょっ! ニワトリが喋ったら駄目なんか!? あんたら龍だって喋ってるじゃないですか!」
そう言って屋根の上から飛び降りるニワトリだが――――――
一生懸命羽搏いてみた処、やはり所詮はニワトリである。自分を浮かせる程の浮力を作れず、そのまま地面に墜落した。
「すまん千尋。俺はアレが朱雀に見えなくなってきた……」
いや、最初から無理があるってば。
僕とセイが呆れて立ち尽くしていると――――――
赤城さんが、地面に横たわってヒクヒク痙攣しているニワトリに近寄り、木の枝で突っついている。
「おい、お前はただのニワトリか?」
赤城さんが、そう言いながら、ニワトリのお腹を突っつくが、全然反応が無い。
「フライドチキンにしたら美味そうだな」
「セイ……またお前はそうやって変なものを食べようとする」
「フライドチキンは変なもんじゃ無いだろ!」
普通のフライドチキンならな。ただ、喋るニワトリなんか普通居ないし。
その時、ゆらりと立ち上がるニワトリ君。
「あんたら龍族が、食べるとか言うと冗談に聞こえねーし」
「お!? 生き返ったぞ! やっぱり不死鳥なんだろ?」
「いやいやいや、セイ。それはフェニックスであって、朱雀は関係ないから」
良くある間違えで、不死鳥のフェニックスと、聖獣朱雀が同じだと思う人が居る様だが、それは違いますから。そもそも、朱雀は大陸の四神であり、南側を護る神様と崇められる存在ですしね。
四神にとって異国の日本では、アウェイになるので、力が落ちて四聖獣に成ってるだけだし。
一方でフェニックスは、古代エジプト神話のベンヌが原型と言われていた筈……
まあ……僕は神道系以外、それほど詳しくないので、日本以外の神話は省きます。どうせ話に繋がりは無いし。
「でも、普通のニワトリじゃ無いのは、分かりましたね」
赤城さん。喋る時点で……いや、屋根の上で光ってた時点で、変だと思わなきゃ……
ただ、朱雀かと言われると……う~ん。
僕らが、ニワトリの扱いに困っていると――――――
小さい氣が、周りに沢山いる事に気がついた。
「千尋……気が付いたか?」
「うん。青龍の時と同じく、人間の氣だね」
「囲まれてますね。10人……いや、西から更に8人の援軍が来たか……」
全部で18人……また同じく陰陽師だろう。
ご丁寧に、警備システムは全部切っているようで、カメラの作動ランプが消えていた。
それは、こちらにも好都合である。
「取り合えず、朱雀の捜索は一時中止で、陰陽師達を片付けるよ! あと、二人とも分かってるだろうけど……」
「ああ、殺すな! だろ?」
「そのぐらいのハンディキャップがあった方が、人間相手なら丁度いいですよ」
分かればよろしい。
セイと、赤城さんはそのまま陰陽師へと向かって行く。
その2龍を迎え撃とうと、陰陽師達は懐から独鈷杵と札を取り出して、何やら術を唱え始める。
淤加美様が言ってたっけか、陰陽師は古神道と、仏道の密教を使うと。
今唱えているのは、陰陽師の半分が不動明王の火炎術で、残りの半分が早九字を切っている。
なるほど、属性が打ち消し合わない様、火炎術と他の属性は一緒に唱えないのね。
大方、朱雀が火氣の聖獣なので、その朱雀の居る城南宮が火氣の聖域ならば、火氣の術を使う方が、威力が上がると思ったのだろう。
だがこちらは水神の龍である。属性を火氣にしたのは間違いだったね。
僕は神器の珠を握りしめ、少し離れた鴨川の水を呼ぶと、それをそのまま浄化雨として、城南宮へと雨を降らせたのだ。
小さくてもさすが神器。呼び水を使わなくも、離れた水を呼べるなんて……滅茶苦茶便利アイテムである。
急に降った集中豪雨にて、一気に水煙が上がり、あたり一面に濃い水氣が立ち上る。
場の属性が、一気に水氣に置き換えられ、この状態で火炎術が出来るなら、相当な術師の腕であろう。
周りを見ると案の定、火炎術は不発に終わっているが、早九字の方は、そう上手く止められない。
だが、早九字を完成させる前に、セイと赤城さんが陰陽師の数人を吹っ飛ばしていた。
あいつら……ちゃんと加減しているだろうな……
そんな事を考えて居ると、セイ達が打ち漏らした陰陽師数人が、早九字を完成させ、僕に向けて放って来たのだ。
「「「「 破っ!! 」」」」
マズイ! 僕には常時発動で術反射が付いているから、このまま反射させたら死なせてしまう。
慌てて回避に移る僕だが――――――
「そう簡単に、行かせぬよ」
なんと、僕の後ろに居たはずのニワトリが、いつの間にか人の形に変わっているではないか!!
「まさか!? 朱雀だったのか!!」
「ご名答……分かったら黄泉路へと行って貰おう」
くっ。完全に背後を取られ、羽交い絞めにされた。
しかも前方から、早九字の氣弾が迫る。
僕は最悪術反射があるから、朱雀の言う様に黄泉行には成らないが、陰陽師達はどうしよう……
そう考えて居ると、チョーカーに化けている巳緒が――――――
朱雀の足元の地面を軟弱化させて、踏ん張りがきかない様にすると、僕を羽交い絞めにしていた手が緩んだのだ。
さすが巳緒。水氣と土氣を持つ、オロチだけはある。
その隙を逃さずに、僕は羽交い絞めにされていた手を引き抜き、屈んで前転すると、その上を早九字の氣弾が通り過ぎて、朱雀にぶち当たった。
「あーあ。直撃だし……」
まさかこれで終わりじゃないよな?
そう思っていると、軟弱化された泥の中から朱雀が出て来たのだ。
なるほど、避けられないと踏んで、そのまま仰向けに泥の中へ倒れて、早九字の氣弾の直撃を避けたのか。
思ったより戦い慣れている。
「千尋!」
「千尋さん、大丈夫ですか?」
セイと赤城さんが慌ててやって来る。
僕が浄化雨の術を止めてしまった為、雲も晴れて行き月明かりが挿し込んで、姿があらわになっていく。
「どうやら、この泥まみれが朱雀らしいよ」
「くっくっく、バレちゃあ仕方ない。オレの火氣では、水氣のあんたらと相性が悪いので、隙をみて背後から襲う計画が……失敗しちまったな」
最初から、騙し討ちする気満々だったんじゃないか!!
この阿呆鳥め!
泥だらけの朱雀を睨んでいると、すっかり立ち直った陰陽師達に、周りを包囲されていた。
ああ……もう、面倒くさい!
まだ10人以上居るじゃないのよ!
僕ら3龍は、互いに顔を見合わせ頷くと、誰が朱雀を相手にするかを決めるべく、拳をつき出すのだった。




