4-09 青龍
淤加美様の言った座標に龍脈を開けると、山の上にある何処かのお寺に出たようだ。
八坂神社の東といわれたが、ここがギリギリ結界の外である。
香住がスマホで現在位置を検索すると、将軍塚青龍殿と画面に表示され、ここが京の東山山頂である事を示していた。
「ここからだと、八坂神社は遠いのぅ」
淤加美様が空に浮きながら、八坂神社の方角を眺めている。
おそらく龍眼による、暗視望遠モードであろう。
僕も、淤加美様の隣で背伸びをしながら、同じく龍眼を使い西の方を見る。
「仕方ありませんってば……ここから目と鼻の先に、結界があるんですから」
下手に結界に触って、強制パーマは掛けたくない。
そんな時、やっと戦えると思ったのに、目標が結界の中だと知った、セイの奴が――――――
「大婆様、八坂神社まで結構な距離があるぜ。普通結界の主って言うのは、結界の外ギリギリに住んで居る、ものなんじゃねーの?」
「若龍、お前は龍脈を通ってて、気が付かなかったのかぇ?」
「……何かありましたっけ?」
「はぁ……ちゃんと見ておらぬのか? 龍脈が滅茶苦茶だったじゃろう」
確かに、龍脈が変な方向に繋ぎ直されてて、継ぎ接ぎだらけであった。
「もしかして、人間の構造物が邪魔を?」
「そうとしか、考えられぬ。それで切れた龍脈を、貴船の妾が繋ぎ直したのじゃろう」
トンネルやら、高速道路……新幹線等々、いろんな構造物が出来たものねぇ。
この辺りの龍脈を管理している、淤加美様の本体が、龍脈を繋ぎ直したのだろう。
かなり四苦八苦しながら繋いだのが見てとれた。
「それでか、地上部の四聖獣による四方結界が歪んだのは……」
「じゃろうのぅ……本来ならもっと西にある筈じゃ」
とは言え、ここから中へ入る訳に行かないし……どうしたものか……
僕らが結界の前で困っていると――――――
「じゃあ、私が中へ行って青龍を倒して来るわ」
「「「「「 はい? 」」」」」
香住以外の全員が、目を丸くして驚いていた中。
もう神器のナックルを装備して、早く試し打ちがしたいとばかりに、シャドーボクシングを始めている。
香住さん……貴女、何時からプロレス辞めて、ボクシングに転向したんですか?
そんな、僕の心配を他所に香住は――――――
「だって、人間以外は通れないんでしょ? だったら私が行くしかないじゃない」
「ちょっと待って香住。人間しか結界を通れないと言う事は、淵名の龍神さんは着いて行けないんだよ? 幾ら神器持ちと言っても、青龍の雷で黒焦げにされるから」
淵名さんが居るからこそ、ドラゴンライダーとして、術への耐性も上がっているのだ。
龍なし状態の、普通の人間が雷に打たれて、髪の毛がパーマに成るだけで、済むわけがない。
そんな香住に、淤加美様が――――――
「まあ嬢ちゃん、待つがよい。玄武の奴も上賀茂神社に居る筈が、貴船山中に居ったであろう?」
「……すみません。私は居ませんでしたけど?」
「あ~そうじゃったか……それは済まない。じゃが、玄武の奴がズレた座標に居った訳じゃったし、青龍が同じじゃとすると……」
なるほど、淤加美様の推測だと、青龍も玄武と同じに、結界の外に居る可能性が高いと言う事か……
ならば此処が、東側の結界ギリギリの外。
青龍が、この近辺に居てもおかしくない。
淤加美様の言葉に、その場に居た全員が、索敵にて氣を探る――――――
なっ!? 氣が小さすぎて気が付かなかったが、いつの間にか複数の者達に囲まれていた。
闇から現れる人影は、全員が平安時代を彷彿させる『狩衣』と言う衣装で着飾り、如何にも陰陽師ですと言う格好をしていた。さすがに烏帽子は被ってなかったけどね。
知らない人が見たら、陰陽師の時代劇ドラマの撮影かと思うぐらいの、コスプレ具合だった。
「こいつらの気配の消し様は、まるで暗殺部隊の様ですね」
赤城の龍神さんの言葉に、セイが――――――
「まさか!? 陰陽師の忍者なんて聞いた事ないぜ」
確かに、陰陽師自体は非力なイメージが強く、術を主体に戦う後衛の職業と言うのが一般的である。
しかし――――――
「時代も変われば、戦法も変わるって事じゃ無いの? 弓が主体だった戦国の世が、鉄砲に取って代わられたしねぇ」
さらに言えば、大戦では戦車や戦闘機に変わり。現代では衛星を使い、ボタン一つで海から弾道ミサイルが撃てるのだ。
その時代、時代で、戦法が変わっても、何もおかしくはない。
後衛が主体だった陰陽師が、近接戦闘を覚えても不思議はないのだ。
「早い話、全員叩きのめしても、良いって事よね」
陰陽師を前に、香住は嬉々としてナックルを装着するが、僕の話をどう解釈したんだろう……
「香住さん? 一応言っておきますが、相手は人間ですからね。襲われて正当防衛だって言っても、過剰防衛には成らないよ……」
僕が注意を言い終わる前より先に、香住は飛ぶように走り、一番近い処の陰陽師の鳩尾に拳打を入れる。
聞いてねーし。だいたい向こうより先に手を出したら、正当防衛じゃなくなっちゃうでしょうが!
そのまま、くの字になって、すっ飛ぶ陰陽師。その者が地面に叩きつけられる前に、香住は次の標的へと移動している。
あまりの速度に反応できない陰陽師……分かりずらいので、陰陽師Bとしよう。
香住が目の前に現れたので、我に返り札を取り出すが、すでに遅すぎる。
最初に殴り飛ばされた、陰陽師Aと同じ様に、拳打を叩き込まれ、派手にふっ飛んだ。
ぜったい肋骨逝ったな……
あっという間に、2人の陰陽師をノックアウトした香住の勇士に、目が点に成る龍達と他の陰陽師達。
さすが、淵名さんが肩に乗ってドラゴンライダー化してるだけはある。
あぁ……あの大人しかった……いや、普段も大人しくは無いか。
しかし、香住がどんどん人間離れしていく……
「お、おい! 大丈夫か?」
他の陰陽師達が、倒れた仲間の救護に向かうと、服の下に鎖帷子を着込んであるのが見てとれた。
通りで……神器で叩かれたのに、意識があると思ったら、そう言う事か……
ドラゴンライダーになって、身体能力が全体的に上がり。その上、神器で攻撃だなんて、良く体が千切れないと思ったら、内側に鎖帷子を着込んでいたのね。
しかも、龍眼で構成繊維を調べたら、普通の鎖帷子ではなく、鋼鉄よりも軽くて硬い素材らしい。
現代技術は日進月歩、色々と進化してるんだねぇ。
「へぇ、そんなの着込んでたんだ……別に構わないわ。殴りがいがあって良いモノね」
香住さん、ぜんぜん良くないよ! 今のその言葉、一般的な女子高生の言う台詞じゃねーし。
完全に、及び腰に成ってる陰陽師達に向かって、ゆっくりと歩みを進める香住。
どっちが悪役だか、分からねえ。
そんな時、どこからか声がした――――――
「我が主。晴明の子孫たちに、手を出すのは止めて貰おうか」
そう言って現れたのは、人の姿をしていて、頭に角があり。髪は青色でウチのセイにそっくりな龍の人型であった。
「もしかして……青龍?」
一応確認の為に、声を掛けてみると――――――
「いかにも、我は青りゅ……ぶるあぁっ!!」
青龍が口上をきり終わる前に、香住が高速で真下に移送すると、そのまま顎に向けてアッパーを放ったのだ。
仰け反りながら吹っ飛ぶ青龍。
あれは効いたな……無防備の処に神器の一撃。しかも、青龍は木氣属性なので、金氣属性に弱く香住の緋緋色金のナックルは、何倍も効果があるだろう。青龍……可哀想に……
「香住……青龍に、名乗りぐらい上げさせてやれば良いのに」
「嫌よ! 先手必勝って、昔の偉い誰かが言ってたもの。それにレディファーストでしょ」
レディファーストの意味が間違っているよ! 先に殴って良いって意味じゃねえ!
だいたい、正式な格闘技の試合で無く、ルール無しのストリートファイトで、人の鳩尾や、顎に拳を叩き込む女子高生は、普通居ないよ!
「ほら、香住が青龍をぶっ飛ばすから、陰陽師の方々が恐怖状態になってる」
「安心して、残りも全部沈めるから」
沈めるって、ここはリングの上じゃねーし!
そんな陰陽師の人達が――――――
「おい、あそこの角の生えた巫女……瑞樹千尋じゃねーか?」
「なんだと!? 関東に居る筈なんじゃ?」
「嫌、間違いねえ! 凶暴な幼馴染に飼われた、恐ろしき凶龍だって言うし」
言わねーよ!! 誰だそんな噂流すの! 前半の凶暴な幼馴染って部分しか、当たってないし!
「マジかよ! なんで瑞樹千尋が敵に回ってるんだ?」
「クソがっ!! こんな事なら来るんじゃ無かったぜ!」
「とにかく逃げよう。相手が龍神じゃあ、勝ち目なんかねえ!!」
なんか、逃げる算段をしているようなので、援軍とか連れて来られても厄介だし
また凶龍だの、変な噂立てられるのも嫌なので、水のペットボトルを開けて、空気中の成分と色々混ぜ合わせる。
化学式を分解し、結合したりを繰り返す。はっきり言って、Hの水素がある限り、どうにでも繋いだりできるのだ。
其れで出来たのが、C4H10O……そう、エーテルである。
エーテルと言われても、ピンとこない人も多いだろう。主に手術前に掛ける麻酔と言えば、分かりやすい。
その麻酔を霧にして噴霧する。
龍達には当然効かないし、香住もドラゴンライダー化しているので、効かないだろう
すなわち、ここで眠りにつくのは、陰陽師達だけである。
霧の麻酔を吸い込み、眠りにつく陰陽師達。
と、子狐ちゃんズ。
マズイ。忘れてたよ……神使にまで成って居れば、耐えきれたと思うが、まだ子狐達は駆け出しの霊狐だったわ。
後で何か言われそう……ご機嫌取りに稲荷寿司でも用意するか……
「千尋。相変わらず、変わった水の使い方をするなぁ」
「この世の、全薬品を合成できる訳じゃ無いけどね。必ず水素が入ってないと、操れないし」
逆に言えば、水素さえ入っているなら、幾らでも合成可能である。
陰陽師全員が寝静まった頃、ようやく起き上がって来る青龍。
僕は念のため、もう一本のペットボトルを使い、香住の身体に光の衣を付与する。
気休めかも知れないけれど、青龍の使う雷対策で付与をするが、元が水なので、どこまで雷を防げるか?
直撃より良いかな?
取り合えず、寝ている陰陽師を、蔦で縛るセイ達。
僕は寝てしまった子狐達を、お寺の縁側に寝せてやる。
そして、肝心の香住 対 青龍の戦いは――――――
青龍は香住の右拳にはめられた、神器にばかり注意して、右だけは確実に避ける様にしているようだ。
それもその筈、神器の無い左拳で殴っても、大したダメージに成らないと、分かっているようだった。
だからこそ、香住の右手ばかり注意しているが
全然分かっていない。
香住の真骨頂は、打撃ではないと言う事を……
香住はわざと大振りをして隙を作る。長年の付き合いがある僕にはわかる、確実に誘いは罠だ!
チャンスだと思い込んだ青龍が、雷を呼んで大技に出る。
青龍は雷を纏った拳で、香住に向かってくるが、その雷拳を香住は屈んで避けると、そのまま青龍の片足を取り――――――身体を捻って回転をする。
香住の十八番、ドラゴンスクリュウである。
青龍は、御寺の境内に叩きつけられると、肺の空気を全部吐きだす様に悲鳴を上げる。
さらに、倒れた青龍に追い打ちをかけて、逆エビ固めを掛ける香住。
その極技に、ぐおお! と右手で地面を叩く青龍。
「お、おい……千尋。止めるレフリー居ないし、青龍死んじまうぞ」
青ざめて見ているセイと赤城の龍神さん。
僕にレフリーやれってか? 巻き添えに成るんで嫌なんだよなぁ。
でも、このまま放って置いて、本当に死なれてもなんだし、香住の処に行って引き剥がしに掛かる。
「何よ! 千尋もヤられたいの!?」
ヤられたくないです。
「いやいやいや、青龍に死なれても、困るんだってば」
まだ結界を、維持して貰わなきゃならないしね
僕の説得に、渋々従い逆エビを解く香住だが、どう見ても青龍が虫の息であった。
そんな青龍に同情の目を向ける赤城さんやセイ。
「千尋……お前良く生きて来れたな……」
「香住とは、長い付き合いだからね。受け身も上手くなるわさ」
そんな話をしていると、何処からかパチパチと拍手をする音がして、闇の中から千平(偽名)が現れる。
「いやぁ、さすが千尋さん達だ。私がやっと駆け付けた時には、青龍を屈服させた後だなんて……しかも、陰陽師まで一網打尽とは、いやはや恐れ入りました」
コノヤロウ……何時も全部終わってから、現れやがって……
胡散臭い事この上ない。自分で偽名とか言っちゃう処とかもね。
まあ、盟約主の書き換えは、この胡散臭い千平さんにしか、出来ないし。
何か企んでそうだが……本気で何か良からぬ事を企むなら、盟約主を自分の名前にする筈だが、未だに僕の名前のままだし、訳が分からん。
「それで毎回の事だけど、盟約主は僕で良いの?」
「私の器には、それほど大きなものは、入らないのですよ」
ボソっと……既にいっぱいでね。と呟いた気がしたが、小さすぎてよく聞き取れなかった。
「まあ、どうせ真面目に答える気が無さそうだし。ちゃっちゃと変更手続きを、しちゃってください」
「おっと、投げやりですね。良いんですか? 契約書をよく読んでサインしないと騙されますよ」
「どの口がそれを言う……だいたい、その契約書が、肝心な事を言わ無いんですよ!!」
大事な部分は、毎回はぐらかすし。
今回も玄武の時同様、地面に陰陽五芒の陣が出来て、そこに僕の血を垂らし、盟約主変更が完了である。
青龍はだいぶダメージを負っているらしく、暫らく静養を兼ねて待機を命じ。結界はそのまま維持して貰った。
結界を緩める時は、4箇所いっぺんで無いと駄目じゃ! と言う、淤加美様の言葉にしたがって、とりあえずは現状維持なのだ。
さて、盟約主は変更したが。寝ている陰陽師をどうするか……
「そうですねえ、戦闘に遅れてしまった償いとして、陰陽師達は私めにお任せください」
そういう千平さんに――――――
「あの……一応悪者でも……」
「分かっています。死なせたりはしません。ちゃんと折れた肋骨も治癒術掛けますしね」
「…………ならば別に任せていいかな」
胡散臭いけど――――――
「では、陰陽師を片付けたら、朱雀の処へ向かいますので、そちらでお会いしましょう」
はいはい。どうせまた戦闘が終わってから、やって来るんでしょ。
もう当てにして無いし。
僕は、寝ている子狐ちゃんを抱き上げると、龍脈を開ける。
「取り合えず、僕らは一旦戻ろう。子狐ちゃん達を、このまま外に寝せておく訳に行かないし」
次に戦う、朱雀のデータも欲しいしね。
そういう訳で、僕らは一旦、貴船神社奥宮へ移動することにしたのだった。




