4-08 レア神器
K都府、華千院本家にて
京を護る四聖獣へ、結界強化を命じていた華千院重道が、焦りの声を上げる。
「どう言う事だ……」
重道の声を聞いて、呪術を手伝っていた周りにいる分家の者達も、困惑の声を上げ始めた。
「……玄武の反応が消えましたぞ」
「馬鹿な! まだ1日と経っておらぬのに……」
「いや、反応は消えて居らぬ。こちらの制御下を、離れただけの様じゃ」
「そんな…………もう一度制御下に戻せぬのか!? 直ぐなら戻し様もあるだろう」
「駄目じゃ! 我々より高次元の者へと、盟約主が書き換えられたとしか考えられぬ」
「こんな事が出来るのは……貴船の龍神か……将又、伏見の宇迦之御霊神か……」
騒めき立つ分家の者に重道は――――――
「静まられよ!! 古の神々の仕業なら、玄武を消滅させることは出来ても、盟約主の書き換えなど出来ようはずが無い!!」
そう……幾ら神とはいえ、安倍晴明がオリジナルで編み出した、書き換えの秘術を使うことは出来ないだろうからだ。
だいたい古の神が契約変更など、まどろこしい真似をするとも思えぬ。邪魔なら直ぐにでも、ブレスの一撃で消されていよう。
となれば――――――
「答えは一つ……霊道を塞がれて、巣穴から出て来たか晴明……いや、神農原真」
「おおっ! では計画は?」
「今のところ順調だ。次は青龍か白虎だろう……実働部隊に連絡をし、待ち伏せを行わせてくれ」
重道の言葉を聞いて、一番若手の分家の者が廊下へ下がり、実働部隊を要請をしに出ていく。
まだ火之加具土命との契約を切っていなければ、大した術は使えまい。
神農原真……これで最後だ。
だが、そんな重道に、一抹の不安が残っているのも確かだ。
先程も言ったが、火之加具土命の契約で一杯一杯の筈の神農原真が、玄武を従わせる余裕など無い筈である。
だったら、一体……誰が玄武の盟約主に?
そう考えると、神農原真以外の者……いや、独りでは無理であろうから者達か? とにかく、此方にとっては良くない者達が、動いているとしか思えないのであった。
願わくば、神の類でありませぬ様……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方その頃。
華千院重道が危惧していた、玄武の盟約主となった、国津神の瑞樹千尋は……
龍脈を抜け、貴船神社奥宮の境内へ出る。
時間的に、人も居ないと思いきや……見知った顔がいるのに気がついた。
「あれ? 香住じゃない。どうしたのさ」
よく見ると、学園の制服のままだったので、まだ家には帰っていないらしい。
そして例のごとく、髪が軽くパーマに成ってるところを見ると、淵名の龍神さんを乗せたまま結界に触れたな……
多分、香住だけなら素通り出来たはずだが、龍脈を使えるのは龍族だけだから、淵名さんと一緒に通ろうとして引っ掛かったのだろう。
しかし、中級妖まで消し飛ばす結界に引っ掛かって、良くパーマだけで済んだものだ。
さすがは龍の乗りてと言った所か……
「なんだ淵名、お前も結界に引っ掛かったのか?」
「ああ、地中の龍脈まで結界が届いているなんて、正直思わなかったぞ」
セイと淵名さんのやり取りを聞いて、香住が僕の方へゆっくりと近付いて来る。
「て言うか……千尋……結界があるの知ってるなら……」
「え? 香住? 香住さん?」
殺気を感じた為、周り右をする僕の尻尾を掴むと、そのまま回転して地面に叩きつけられる。
「前もって、知らせなさいよね!」
「ぐあっ! ち、違うんだよ香住。スマホが東北で融けちゃってて、連絡出来なかったんだよ」
「スマホを早く何とかしなさいよ。連絡出来ないと不便だから……」
そうは言っても、紛失理由が理由なだけに、お店へ説明出来ないので、新規契約になりそうだし
今は神社の修繕費で、お金が無いからね。出来るだけ後回しにしたいのだ。
だって、人間以外なら念話で事足りるしね。
今回だって香住が来るとは、思わなかったんだもの。
「そういえば、香住は何でこっちに?」
「えっとね、伊織さんに聞いたら、京が大変な事になってて、千尋が帰れないかもって言ってたから、夕ご飯を作って持ってきたの。大人数だし伊織さん一人じゃ大変でしょ」
なるほど、それで香住が来たのね。
でもさ伊織さん……結界のことを香住に話してくれれば、僕がドラゴンスクリューされずに済んだのに……
とりあえず、宮司さんの所へ寄らせて貰うのだが……この人数では、居間が狭すぎる。
「おい、赤城! もっとそっち詰めろよ!」
「あぁぁん? お前こそ胡坐でなく正座で座れよ、胡坐だと場所とるだろうが!」
そんなセイと赤城さんのやり取りを、どこ吹く風で流す淵名の龍神さんが――――――
「香住殿、醤油を取って貰えるか?」
「淵名さん。十分味は着いてますよ。塩分過多です」
「儂は濃い味の方が好きなんじゃ」
いつも通りに騒がしい食卓である。
「すみません宮司さん。大人数でお邪魔しちゃって……」
「あ、いや……みんな龍神様なんでしょ。なら別に言う事はありませんて」
そんな宮司さんの言葉に、香住と伊織さんの膝の上に乗って、ご飯を食べて居る子狐達が――――――
「俺らは霊狐だけどな」
「そうそう、宇迦之御霊様の眷族だぜ」
「ははは……何か凄い事に成ってますな」
宮司さんへ本当に騒がしくて、すみません。と再び謝る僕。
取り合えず、もう座る場所がなさそうなので、御握りを2つばかり拝借すると、外へ出て行き拝殿の隅に腰かける。そのまま貰って来たお握りに齧り付き、中の梅干しの酸味に、口を窄めた後、誰も居ない空間に話しかけた。
「淤加美様。次は青龍戦ですよね。やはり水なんでしょうか?」
僕が虚空に向かってそう言うと、淤加美様が姿を現して――――――
「いや、名前で水や氷をイメージするらしいが、青龍は木氣の属性じゃぞ」
木氣……五行で言えば、植物と雷の属性であり、火氣の糧になり水氣を糧にする。
苦手とする相克の属性は金氣。
やはり木だけあって、金属(斧や鉈)に切り倒されると弱い言う事だ。
またウチのメンバーで、誰も持ってない属性に、当たったものだな……
金氣が弱点では、先ほどの淤加美様が使った、山津波式大渦は効果が薄いだろう
と言うよりも術が大掛かり過ぎて、それを片付けるのが、大変で大変で……石や流木と水を分けて処理しなきゃならないし
そのまま流して、京を半壊させる訳に行かないしね。
創りだした淤加美様は、片付けないんだもの。酷い目にあったわさ。
二つ目の御握りを頬ばり、胸を叩いて流し込もうとしていると、横から御茶碗が突き出される。
「はい、お茶。」
香住が気を利かせて、お茶を持って来てくれたようだ。
それを一気に煽り、詰まったお握りを流し込むと――――――
「ありがとう香住。落ち着いたよ」
そう答えた僕の隣に、香住が腰掛ける。
「それにしても吃驚しちゃった。京がそんな事に成ってるなんてね」
「伊織さんに聞いたの? 本当に吃驚だよねぇ」
「うん……普通に人は何も知らずに、暮らしてると思うと……余計に怖い」
あぁ……そうか、香住も人間側なんだよね。ただ僕ら龍神に関わりがあるから、知らなくて良いモノが見えているだけで……16歳の少女には、やっぱり怖いわな。
何気ない日常……そんな盤石だった足元が、いつ崩壊してもおかしくない。そんな現実を知ってしまったんだもの、怖くて堪らないんじゃないかな。
「大丈夫だよ。人間が恐怖を覚える前に、僕ら国津神で全部終わらせるから」
「それが嫌なの!」
「へ? か、香住さん?」
「私はね! 何も知らないで、終わってるなんて許せないのよ!」
自分の身ぐらい、自分で護れるんだから! と豪語する香住
「いやいやいやいや、相手は大陸では神と崇められていた四神だし。海を渡す際に聖獣に成っただけで、元神様だからね。人間の手には負えないってば」
「大丈夫よ。私には此れがあるわ」
そう言って、鞄から朱色のナックルを出す香住
「ちょっと香住! それって……緋緋色金じゃない? どうしたのよそれ」
「実は天津麻羅様に、材料が余ったらで良いので、ナックルを創ってくださいってお願いして置いたの。写真とか資料を渡してね。そうしたら、御霊在りの海神の槍と違って、御霊無なら簡単だからって、創ってくれる事に」
「おいおいおい……御霊無でも神器だからね。人間がそんなの持ったらヤバイって……」
僕の焦り声など、聞かなかったかのように、話を続ける香住。
「それで、ここへ来る前にね。天津麻羅様の処へ、お弁当を届けに寄ってみたら、依頼の品が出来てるよって言って貰って来たの。美味しい弁当のお礼だって」
弁当のお礼が神器とか、凄い事に成ってるな……
「緋緋色金を使った、鍛冶屋の神の作品って事は……完璧に神器じゃな」
淤加美様が珍しい武器を見て、鑑定するように弄り回す。
まあ、御霊入りじゃ無いから、一格が落ちるけど……それでも神器級である事には間違いない。
しかも、ナックルの神器って……レアってレベルじゃ無いし!
「ちょ、何創って貰ってるんですか香住さん。危ないでしょうに」
「えへへ、神器創って貰っちゃった。これで私も戦えるわよ。まさに鬼に金棒だわ」
いや、香住にナックルでしょう……
それに、創って貰っちゃったって……露店商にアクセサリーでも創ってもらうような感覚で言わないでください。それ御霊無でも、立派な神器なんですよ。
しかも、接近戦のナックルとか……香住のお父さん泣きますって。
「香住……本当に凶悪になったな……」
「千尋、なんか言った?」
僕は頭が取れそうな程、首を振ると……普通の女性が指輪を眺めて、うっとりした顔をするのと同じ表情で、ナックルを眺める香住の横画をに、溜息をつく。
色気がねえ……
「まさか、香住も青龍戦に参加しようとしてたり?」
「当たり前じゃない。試し殴りが出来る機会は、他に無いもの」
千尋が代わりに殴られてくれるなら、大人しく留守番してるって言うので、全力で拒否させてもらった。
青龍さん……今日は厄日だわ。
そこに淤加美様が――――――
「これで、金氣の属性が出来たではないか。良かったのぅ」
良かったのか?
僕が困惑していると、香住が――――――
「そうそう天津麻羅様が、千尋にこれを持って行けって……」
香住がそう言って出してくれたのは、緋緋色金で出来た、ビー玉ぐらいの大きさの珠だった。
「あのぅ……武器ですらないんですが」
「天津麻羅様がね、もう材料がそれしか無かったんだって、言ってたわよ。でもね、術を主体にして戦う千尋には、ちょうど良いはずだって言ってたわ」
意味が分からん。せめて杖とかそう言うのなら分かるが、珠とか……
半信半疑で、香住から珠を受け取ると――――――
「なんだこれ! 水氣と光水と闇水が……溢れてくる!!」
「うーむ。どうやら、増幅器の様なものらしいのう」
淤加美様の言葉を聞いて、試しに手水舎の水を呼んで、闇の刃を創って見る。
見た目はあまり変わってないけど、刃に使った闇の濃度が格段に違う。
闇の刃で試し切りは出来ないが、恐らく威力も格段に上がっているだろう。
「ちょっと待った! ただでさえ、術の威力があり過ぎて困ってるのに、増幅器とか……日本に……いや、地球に穴を開けるつもりですか!?」
これなら緋緋色金で創った、スマホカバーの方がよほど欲しいわ。
そうすれば、スマホが融けずに気兼ねなく漆黒を纏えるからね。
「まあ、増幅器で破壊をするのも、人助けをするのも、それは担い手次第であろう」
こんな危ねーもの、おいそれと使えないってば。
香住と、そんなやり取りをしていると、宮司さんの所から、食事の終わった龍達が出て来る。
「龍の姉ーちゃん。今回は俺らも行くからな」
「ちょっ! 子狐ちゃん達は危ないって」
「今回は木氣の龍なんだろ? だったら俺ら火が使えるし」
いやいやいやいや、火が使えるって言ってもレベルが違い過ぎる。
極端な話、ライターの火を使えるのと、火炎放射器の火を使えるで、レベルが違うのと一緒であり。
ライターの火で、生の大木を燃やせるかって言うと、かなり無理がある。
それと一緒で、子狐達の狐火がライターの火なら、青龍は動く生木の大木なのだ。
燃やせないだろうな……
青龍が燃える前に、雷で黒焦げにされるのがオチだ。
しかし今回は、子狐達も引き下がらなかったので、仕方なく連れて行く事に
「いい? 危ないと思ったら、すぐに距離を取る事」
「「 はーい 」」
2匹とも、返事は良いんだよな……大丈夫かな? 本当に……
「じゃあ、行きましょうか。えっと……場所は?」
僕の問いに、淤加美様が――――――
「場所は、八坂神社の東へ行ってくれ、おそらく青龍は、八坂神社に居るであろう」
「八坂神社? しかも東って……」
「できれば龍脈で直に入らずに、外から様子を窺いたい」
淤加美様の言葉に従って、八坂神社行の龍脈を開けると――――――
「千尋様、御無事を……」
「ありがとう伊織さん。では行ってきますね」
龍の巫女の伊織さんに手を振ると、そのまま開けた龍脈へ飛び込むのだった。




