4-07 盟約主変更
玄武を弱らせている途中で、変な人間が現れた為、円陣を組んで内緒話をする。
「淤加美様。どう思います? 怪しすぎませんか?」
「うむ、玄武を弱らせた途端に出て来るなんて、タイミングが良すぎるのぅ」
「どっか陰で、タイミングを見計らってたんじゃないか?」
「セイ龍の言う通り、あの手の輩は陰から見ていて、ニヤケてるタイプですよ」
赤城さん……人間に偏見を持過ぎる。まあ、龍に成る前があれでは、恨むのは分かるけどね。
僕達が組んでる円陣に割り込んで来る変な人が――――――
「あのぅ、玄武が再生で回復する前に、盟約を書き換えちゃいたいんですが……」
「うわああっ! 突然割り込んでこないでよ!」
「てめえ! 俺の千尋に手を出すんじゃねえ!」
「若龍、待つのじゃ!! おい、人間よ。盟約を書き換えると言ったな? それは、どうするんじゃ?」
「えっと、この玄武と他の四聖獣の残りも、千年以上前の陰陽師である、安倍晴明により京を護るよう、盟約を結んでおります。その盟約を現代の晴明の子孫が、有事であるが為に結界を強めろ! と命じたので、今回の霊道を塞ぐ騒ぎになっているんだと思います」
なるほど、大まかな盟約内容は変更せずに、結界を強めるだけなら出来るって事か……
おそらく晴明自身が、自分が亡き後の世に、大物の妖が攻めてきた場合の、緊急事態に用意して置いたのだろう。
「緊急の、結界一時強化か……」
「そうです。それを使ったんだと思います。なので緊急事態は終わったと、そう四聖獣に分からせないと、結界強化は解除されません」
「具体的に、どうするのじゃ?」
「はい、まず盟約主を書き換えねばなりません。そうしないと、四聖獣は晴明の子孫以外の言う事は聞きませんから」
今度は話を聞かれぬ様に、念話に切り替えて、皆の意見を聞いてみる。
『どうします? 一応話の筋は通ってるみたいですが』
『うむ……話の筋は通っていても、素性が分からない奴に、全部まかせるのも……』
『なーに、変な事をしようとしたら、あの頭蓋を噛み砕いてやる』
『セイ……お前さ、なんか正確変わってね?』
『……それがな、この貴船に着てからと言うもの、水氣に当てられたのかな? なんかこう……高揚というか、負ける気がしないと言うか』
分かる気がする。前回の鞍馬山の戦いで、僕も水氣にのまれたもの。
先ほど言ったセイの言う通り、本当に負ける気がしないと言うか、貴船の神佑地そのものに鼓舞されてるというか……とにかく、自分から抑えて気を付けていないと、水龍はイケイケモードに入ってしまうのだ。
水龍にって事は、赤城さんも――――――
『人間の言う事なんか聞かずに、さっさと次行きましょう、次!』
やっぱりか……みんな水氣にのまれ過ぎだ。
『もう、みんな冷静に……だいたい、四聖獣を放って置く訳には行きませんてば。それと急に現れた、この人の目的も分かりませんし』
盟約主を書き換えられるって言ってたので、それが本当ならば弱らせて放置している処を書き換えられて、玄武を操られて悪用されたりしたら厄介ですしね。
僕は取り合えず、コミニケーションを取ってみることに……
「えっと、自己紹介がまだでした。僕は瑞樹千尋です。貴方は?」
「おっと、これは失礼した。私は……そうですねぇ……千平 儀一とでも呼んでください」
なにその自己紹介、思いっきり偽名ですって言ってる様なモノじゃないか!
「それ、本名じゃありませんね?」
「えぇ、偽名です。だからお好きに呼んでもらっても構いません」
偽名って……隠しもしねえし……
まあ、盟約主を書き換える時に偽名って訳に行かないし、本名が分かるでしょう。
千平と名乗った人は、そのまま弱った玄武の横に立つと、何やら呪文を唱え始めた。
『ほう、一端に陰陽術を使うではないか』
淤加美様が、念話でそう言ってくるので。いい機会だし、淤加美様に陰陽師について聞いてみることにした。
『淤加美様。そう言えば、僕はウチが神社で将来も後を継ぐと思っていたので、神道ばかり勉強していたんですけど……陰陽道ってどんな流派というか、流れ何ですか?』
『ほむ、妾も陰陽師ではないのでな、そこまで詳しくは無いが…………千尋よ、術を使う際の人間と神仏との違いは何だと思う?』
『人間と神仏の違い……術の威力ですか?』
『それでは無いな。威力なら持ってる霊力や神力次第で、人間でも神を超える場合がある。良い例が建御雷と組んでいる人間じゃ』
『尊さんですか? あれは神器あってこそですよ』
『うむ、人間でも神器で嵩上げすれば、威力はどうにでもなるじゃろ? 問題は其処ではない』
『……となると……呪文の速さ……ですかね?』
『そうじゃ、我ら神々は自然など事象に直接干渉できるが、人間は直接干渉は出来ぬ』
『でも、色々術を使って火を出したり水を出したり、妖を祓ったり出来ますよね』
『あれは属性を持つモノに力を借りたり、仏に異形などの浄化を頼んだりしておるのだ。例とすればあの祓い屋の娘じゃな』
小鳥遊先輩の事か!?
確かに小鳥遊先輩は、実家がお寺なだけあって、仏に力を借りては妖を祓っている。
だがそれは、仏の力であって、先輩自身の力ではない。
先輩は霊力の代償を払って、仏から力を借りて行使しているに過ぎないのだ。
それに比べて僕ら龍神は、水氣に限定されてしまうけど、呪文など唱えずに直接水に干渉できている。
成る程、それが人間と神仏の違いか……
『そこまでは良いようじゃの。では次の段階じゃ。神道の宮司や巫女などは八百万の神から力を借りられ、仏道の僧侶は仏陀から力を借りる。では、陰陽師は?』
『え? 何から借りるんだろう……』
『降参かぇ? 陰陽師は、古神道と仏陀から力を借りて行使するのじゃ』
『ちょっ! それって反則じゃないですか!? ゲームで言う攻撃魔法と回復魔法が使える、賢者みたいなものなんじゃ?』
『それだけではないぞ、占星術を行い、風水を読み、式神召喚も行う』
おいおい、マジでオールマイティだな。
『そんな凄い術師なら、神道も仏道も要らなくなってしまいますね』
『いや、我々神々と仏陀から力を借りている点で、要らないと言うことは無いのじゃ。しかし、時の天皇が陰陽師達ばかり優遇したものでのぅ、日本中の僧侶達が頭に来るのも分からんでもない』
淤加美様の話では、当時の平安京に陰陽師達を育成する、エリート学校の様なモノがあったらしい。
その他にも、各地に散らばった陰陽師達を集めるために、かなり優遇した処置を行ったとか
だもの……僧侶達が臍を曲げるのも当たり前である。
『淤加美様は、当時から貴船に居られたんですよね? 神道を蔑ろにされて、よくキレませんでしたね』
『千尋……御主は妾をどう見て居るのじゃ……まったく、人間の宮司たちの中には、面白くなかった者も居ようが、我らは神なのだぞ。人間なぞ雨を降らせねば、直ぐに雨乞いをしに、妾へ頭を下げに来たわ』
それ、思いっきり報復してますよね。
でもそうか、当時は貯水技術なんか発達していなかったし、雨が1週間も降らねば田畑どころか、飲み水すら困るだろう。
もちろん井戸はあっただろうけど、下水処理が発達してないし、当時の飲み水の安全性だって分かったもんじゃない。
やっぱり水って偉大なんだなぁ。
そりゃあ、祈雨の神様である、淤加美神は蔑ろに出来ないよね。
淤加美様と念話でそんな話をしていると、千平さんの術が完成したらしく、玄武の真下に五芒星の陣が出来ていた。
山の斜面なのに、上手いもんだ。
「くっ、やめろ……」
苦しそうに、抵抗を試みようとする玄武だが、すでに方陣が出来てしまって居る為、無駄な足掻きに終わっているようだった。
「じゃあ弱ってる処、さっさとやっちゃいましょう。新しい盟約主は……」
ついに本名が分かるか? さすがに本契約で偽名は使えまい。
そう思っていると――――――――――
「新しい盟約主は『瑞樹千尋』……」
「ちょっと待ったぁ! 何で僕なんですか!?」
急に僕の名前が使われて吃驚し、大声を上げた。
「何でって……私の様に、下っ端中の下っ端陰陽師では、再度書き換えられてしまう恐れがあるからです。たぶん今回の結界騒ぎを起こしたのは、晴明の子孫であり、力のある本家……華千院の者でしょう。であるなら、再度書き換えられるのように、力のある瑞樹さん……龍神様だし瑞樹様のが良いのかな?」
「いや、さんか君でお願いします」
様呼びだと、龍神だと知らない人から、変な目で見られるし。
「では、女の子だし瑞樹さんで。龍神で国津神の瑞樹さんの方が、書き換えられずに済むのです」
「あのぅ……僕ここの神佑地担当じゃありませんよ。北関東の方が仰せつかった神佑地です。そっちがメインなので、京まで担当しきれません」
「あ、いえ。四聖獣の盟約主になるだけで、神佑地の権限は、天照大御神様か、国津神のトップ大国主命でも無ければ、変えられませんよ」
タダの人間の私には、とてもとても……と大袈裟に首を振る千平さん。
本当に胡散臭い人だ。
でも、書き換え直されない為と言われたら、断れない。
淤加美様は、この貴船の地に神佑地を持ってはいるが、此処に居るのは分霊であって、僕の中に顕現している為。僕が盟約主に成っても変わらないと言うし
セイには、興味ないって断られ、赤城の龍神さんに関しては、人間嫌いが災いし、千平さんに近寄ったらどうなっても知らんぞ! と歯を剥き出しにして怒っていた。
結局、僕しかいないし。
仕方なく、新しい盟約主に抜擢されたが――――――
「あのぅ……どうしたら良いんです?」
「方陣に血を一滴たらしてください。それで完了です」
血……どうやって出せばいいんだろ?
ナイフじゃ傷付かないし……
「誰か神器持ってない?」
「あん? そんなの龍の爪で良いんじゃ?」
セイの言葉を聞くまで、龍の爪の存在を忘れていたわ。
考えてみれば、これも立派な武器だわな。
僕は龍の爪で、指の先にちょっと傷をつけると、そこから一滴の血を五芒星の陣へと垂らす。
すると、陣から眩い光が上がり、玄武を飲み込んだのだ。
ちょっと光が強すぎて、誰か人間がやって来るんじゃないかと、心配になるほどだったが、その心配も杞憂に終わる。
やがて光が納まると、陣の中には姿形の変わらない玄武が、膝真ついていたのだ。
「新しい主よ。儂は玄武と申します。今後ともよろしく」
「どうやら書き換えが上手く行きましたね。もっと抵抗されるかと思いましたが……瑞樹さんは、さすが国津神ですね」
「じゃあ早速、結界を緩めて……」
と言い掛けたところで、淤加美様が――――――
「待つのじゃ千尋! やるなら4カ所同時でないとマズイぞ」
「そうなんですか?」
「他の3匹は、全開で結界を張り続けてますからね。ここだけ弱めれば、他の3匹の力が一気に均衡を崩して流れ込み、玄武が死んでしまいます」
淤加美様の代わりに、そう答える千平さん。
「それにじゃ、結界の中に流れ込んだ霊気が、一気に噴き出せば、周りの神佑地もどうなるか分からんぞ。霊気に敏感な者達などは、真っ先に影響を受けおるしのぅ」
淤加美様の言うには、四聖獣を全員の盟約主を変更させて、ゆっくり緩めて行く他はないらしい。
仕方ないので、今回は盟約主の変更だけで、待機を命じた。
玄武自体も、淤加美様にやられた傷が、まだ完全じゃないらしいしね。
「千尋ぉ、そろそろ、夕飯前が終わるんだけど……」
「はいはい。じゃあ一度貴船神社へ戻りますか」
僕がそう言ったと所で、千平さんが――――――
「では、私は次の青龍の処へ行っています」
「あれ? 千平さん来ないの?」
急に余所余所しくなる所が、また怪しい……
「次の戦場に成る場所を、見て置きたいのですよ。風水的に、少しでも有利な場所をね」
ご飯は途中で済ませるからと言って、山を下って行ってしまった。
「風水か……本来の陰陽師は、術を使って妖を倒すより、占星術の類や風水学に長けた者が多く、そちらがメインと言っても、過言では無いぐらいじゃしな……」
暗闇に消えていく、千平さんの背中を見ながら、淤加美様がそう呟く。
占星術師と風水師か……
スタイルとしては、占いで妖の本拠地を調べて突入し。式神を使って前衛を任せている間に、大きい術で一気に殲滅と言うのが、陰陽師の戦い方らしい。
僕は、神道以外の事は全然知らないので、全部淤加美様の受け売りだけどね。
「なあ千尋。いい加減行こうぜ」
セイの奴、だいぶ痺れを切らせているな。
僕が、山を下って行った、あの千平と言う男の方を見て立ち尽くしていたので、気に成ったのだろう。
だって、あやし過ぎるんだよなぁ。あの声も何処かで聞いたような声だし……
「ほら、千尋さん。人間なんか放って置きましょう」
赤城さんまで……まあ何処かへ逃げた訳でなく、青龍の処で逢う事に成るし、別に良いか。
「玄武さんはどうします?」
「儂は結界の要であります故。ここから動くとマズイのですよ」
相変わらず、僕と歳が同じぐらいの見た目で、儂とか言われると違和感ありまくるが……そうか、動けないのか……
だったら、後で御握りでも作って、持って着てあげよう。
僕達は、次の青龍戦の前に、作戦会議も兼ねて、一度貴船奥宮へと帰るのだった。




