4-04 それぞれが京へ
O阪府、地下にある晴明達の新アジト
その沼田教授クローンラボにて
晴明は、沼田教授の元へ相談に訪れていた。
「ほう、反水素による対消滅ですか?」
「かなり威力は絞っていたみたいだが、一撃でオロチ改がやられてしまった……瑞樹千尋が威力を絞って無ければ恐らく……富山湾が飛騨市手前まで広がっていただろう」
「それ程の威力……いや、対消滅なら考えられますな……」
これで、瑞樹千尋を水の無い場所へ追い込んでも、無駄だと言う事が良く分かった。
なにしろ、たった一滴の水で、あの威力の術を創り出したのだ。
いくら瑞樹千尋が、水を自分で生成できないと言っても、それは生成に時間が掛かると言うだけ。
一滴ぐらいの水ならば、空気中に漂う湿気を集めれば、すぐに出来るだろう。
本気で瑞樹千尋をどうにかするには、他に人間が沢山いて、大術が使えない様にしてやる他はない。
ただその場合、一般人にも、かなりの犠牲が出るだろうな……
あまり人間に被害を出すと、他の国津神がしゃしゃり出るかも知れないので、出来ればその案は却下したい。
これ以上、日本の神々を敵に回したくないからだ。
「沼田教授、モノは相談なのだが……瑞樹千尋のクローンは創れぬのか?」
「出来ますとも、DNAさえ頂ければね」
「ほう、ならばオロチクローンは後回しでも構わない、瑞樹千尋クローンを……」
「お待ちください。千尋クローンは出来ますが、同じ強さのクローンは不可能です」
「同じで無ければ、クローンではないじゃないか?」
沼田教授は人差し指を立てながら、チッチッチッと舌を鳴らす。
「そこを皆さん勘違いなされてるんです。良いですか? クローンと言うのは、あくまで身体の構造そのもののコピーであり、生まれた後に培った経験や技術まではコピーできません」
「沼田教授……つまり、クローンオロチで言えば、ブレスの様に生まれ持って吐ける能力はコピーできても、生後に獲得した技や術は使えないと?」
「そうです。同じ理由で、瑞樹千尋の術反射や水の術などは、つい最近使える様に成った……所謂生後の能力なので、生まれ持った能力ではありません。故に、千尋クローンを創ったとしても、水氣のコントロールに長けた、人型の雌龍が出来るだけです」
「なるほど……その程度のクローンなら、オロチの方がまだ強いな…………瑞樹千尋のクローはやめて、予定通りに火之加具土命の身体に成る、神のクローン計画を進めてくれ」
「承知いたしました」
深々と頭を下げる沼田教授のラボを出て、地下の廊下を歩きながら、瑞樹千尋の対策について考える。
それにしても、現代知識の化学と、神の御業が合わさると、これほど厄介だとは……
他の八百万の神ならば、水とか火とかの元素の構造を変化させて使うなんてことはまずない。
それこそ、力押しに水流で押し流したり、火山を噴火させたりなど、天災クラスをごり押ししてくるだけだ(それでも十分危険だがな)
だからこそ、行動や対策が立てやすいと言う点もあるが……
瑞樹千尋の場合、たかが水氣で水素爆破から、太陽フレアを集めて使ったり、剰え反水素まで創り出し対消滅まで使用した。
まだ何か奥の手があるとしたら、敵に回すのはあまりに危険すぎる。
そんな事を考えて、薄暗い廊下を歩いていると、突然! 脱力感が晴明を襲う。
何が起こった!? これほど霊力を消耗するなんて……一体何が……
「いかん! 加具土命の維持が……」
直ぐに、火之加具土命が熱を奪って冷やしている、サーバールームへと向かうのだが
晴明がサーバールームに入って、そこで見たモノは――――――
苦しそうに床に手を付く、火之加具土命の姿であった。
「は……晴明……か?」
「加具土命、お前目が見えて居らぬのか?」
「急激に霊力を絶たれてな、今は必要最低限の機能以外は、カットしている」
「すまぬ。こちらも急に脱力があったので、もしやと思い駆け付けたのだ」
苦しそうに手を付いたまま、動く事もままならない加具土命に説明をする。
「このままでは、身体の維持が出来ぬ。そこの機械から熱を貰っているので、辛うじて顕現して居られるが、時間の問題やも知れぬ……」
「恐らく、京からの霊道を閉じられたな……済まぬが、姿を人形から珠玉にまで堕とし、数日間だけ堪えられるか?」
「人型でないなら何とか……しかし、どうするつもりだ?」
「知れた事。京へ行き、霊道の障害を取り除いてくる」
なんとか堪えてくれと加具土命に言い渡し、京へ行く準備をしていると――――――
「晴明様! 京へは私めが参ります」
狐巫女のお玉が現れて、そう言って来た。
「駄目だ。お玉は、顔が割れている」
「それは晴明様とて同じです。晴明様は、お歳を召しませんので、30年前の写真でバレてしまいます」
「大丈夫、ちゃんと変装はして行く。それに西園寺達が東北へ異形退治に行っている今が、チャンスなのだ」
間者の報告によれば、例の沼田教授が創った、ゲームのモンスターみたいな異形を退治しに、東北まで出向いているらしい。
彼方此方の廃坑に、異形を解き放ったのが、功を奏しているようだ。
順調にいけば、北の大地まで異形退治に行ってくれるだろう。
「しかし晴明様は、霊道の流れをカットされ、今身体の中にある霊力でさえ、加具土命へ回しておられる。その状態では、まともに戦闘は出来ませぬ」
「かも知れぬ……まあ、結界の近くまで行けば、多少は霊気も流れてくるだろう」
おそらくテレビやネットで、京への出入りが出来ないと言う騒ぎが、起こって無い処を見ると、人間の出入りには支障がないらしい。
であるなら、完全な遮断という訳ではない筈だ。
完全でないならば、近くまで行けば、漏れだした霊気があり、それで戦えよう。
だいたい、こんな真似をするのは……恐らく本家の連中か? こちらを誘い出そうとしているとしか、思えないな……
ならば思惑通り、誘いに乗ってやろうではないか。
「晴明様。ならば、せめて私も一緒に……」
「駄目だ! お玉は此処で加具土命の様子を見て、様子がおかしかったら連絡をくれ。もしもの時はラボを放棄し、教授たちを連れて逃げよ」
火之加具土命が、暴走状態にならねば良いが……
「……分かりました。必ず無事に帰ってきてくださいね」
心配そうに見詰める狐巫女のお玉に――――――
「ああ、まだ死ぬ気は無い」
と元気付ける。
そう……まだ死ぬ訳に行かないのだ。最愛の人、弥生を救い出すまでは……
晴明は、狐巫女のお玉へ留守を任せると、独りアジトを後にするのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方その頃――――――
北関東の瑞樹の地にある学園で、瑞樹千尋は体育の授業でサッカーをやっていた。
頭の上に乗った、セイと赤城の龍神さんの2龍が、欠伸をしながら寛いでいる。
勿論2龍は、術で姿が見えないようにしてあるので、声さえ出さなければ、気が付かれる事はまずないだろう。
そんな2龍に、他のクラスメイトへ聞こえぬ様、念話を使って――――――
『あのさ……そう寛がれると、こっちまで気が抜けるんだけど……』
『千尋さん。気が抜けるも何も、始まって一度も蹴鞠が飛んできませんよ』
『赤城……サッカーを知らんのか? これは蹴鞠とは違うぞ』
『そうなのか? 鞠を蹴って遊んでるから蹴鞠かと……』
セイが、ネットで仕入れた知識を使い、赤城さんにルールを説明しているので
僕は敵陣ゴールへ攻め込んでいる、数人のクラスメイトへ目をやる。
どのクラスにも、数人は居る運動に長けた者達だが、その万能の運動性能があるお陰で、ボールが飛んで来ないのだ。
ウチのクラスでは、僕がキーパーをして居るのだけど、赤城さんの言う様に、確かに暇なのだ。
何故なら、あのスポーツ万能の正哉が、ウチのクラスに居るからね。
しかも、座敷童ちゃんが正哉に憑いている為。余程、明後日の方向にボールを蹴らない限り、全部入ってしまうのだ。
代わりに、相手が何も無い処で、転んでばかり……なんだか、見ていて可哀想になって来た……
あの座敷童……チート過ぎる。
『ほう、じゃあどれだけボールを入れたかで、競って居るわけか』
『そう言う事だ。まだまだ現代知識では、赤城には負けぬぞ』
セイが偉そうに念話で高笑いをするが、全部ネットの受け売りである。
だってセイ自身、サッカーをやった事ないしね。
流石に暇なので、周りを見わたすと、他にも暇そうなクラスメイトが、多数いるみたいなので
「暇だねえ」
名前もよく覚えてない、クラスメイトに話しかける。
「くぅ……もっと相手チームに攻められて、瑞樹の胸が揺れるのを見たかったのに……」
「はぁあ!? 何言ってんの?」
「俺達、それだけが楽しみだったのに……」
「泣くなよエロ学友!! だいたいサラシ巻いてるから、胸なんか揺れないよ!!」
サラシで押さえて無きゃ、邪魔で体育なんて出来ないし。
本気で泣くクラスメイトに、ドン引きしていると――――――
「良いよな瑞樹は、女子更衣室に入れて」
「なっ!? 入って無いよ!! トイレだって男子トイレの個室だよ!!」
まあ、完全な女子の身体なんだし、女子更衣室でも文句は出なそうだが
女子更衣室へ行くと、必ず揉まれるんだよな……同性だから許されるとか言うんだろうけどさ……だからこそ怖いと言うか…………
それに、オロチの鴻上さんに、目の敵にされるのがなぁ……正哉も早く正式に付き合っちゃえよ。そうすれば、嫉妬も無くなるのにね。
他にも、頭に雄龍乗せたまま、女子更衣室に入る気にはなれない。
こいつら本当にスケベなんだもの。
まあ男子更衣室は男子更衣室で、また違った危うさがあるんだ。なので着替えは、誰も使ってない屋上手前の踊り場で着替えている。
あそこなら、昼休み以外に来る生徒は、殆どいないからね。小鳥遊先輩の様に、変わり者でない限りは……
泣き崩れるエロ学友に溜息をつき、前線に目をやると。正哉が、12点目のゴールを丁度決めた処だった。
ちなみに此方の失点は0である。
『しかし、此れだけ暇ならば、千尋さんがもっと前に出て、前線に上がられては?』
『キーパーの僕が前に出たら、ゴールを護る人が居なくなっちゃうよ』
『赤城、唯一手を使うのを許されてるのが、キーパーなんだぞ。そのキーパーが居なければ、ボールを手で取れぬのだ』
厳密に言えば、手を使えるのはコート全体ではなく、ゴール手前だけね。
僕がキーパーをしている理由は他にもある。それは、ジャージにあいた尻尾穴である。
尻尾が見えぬ人間からは、ジャージの穴の中が丸見えに成ってしまうのだ。
キーパーならば、僕より後ろに行くクラスメイトは居ないので、ジャージの穴を覗かれる心配は無い。
なので、前線に上がってしまっては、折角キーパーに成った意味が、無くなってしまうのだ。
審判をしている教員の笛が鳴り、相手チームからのボールで始まるが、なぜか足がもつれて転がる相手チーム。
よく見ると、子犬が横切って行ったのに気を取られた様だ。
「チクショウ! なんで犬が横切るんだよ!! こういう場合は黒猫じゃないのかよ!!」
ツッコミ入れる処はそこかい!?
その後、体育教師によって摘まみ出される子犬。
もう一度相手チームのボールから開始されるが……今度はカラスの大群が飛んできて、ボール押して転がして行った。
「おい……俺たちのチーム、呪われてるのかな……」
「天変地異の前触れか?」
口々に恐怖しだす隣のクラスチーム。完全に恐怖不安状態に掛かっている。
でも、見えている僕に言わせて貰えば、座敷童の悪戯です。
本当……姿が見えてないので、やりたい放題だな座敷ちゃん。
結局ボールの紛失および、相手チームの戦意喪失により、続行不能と判断した体育教師が、ちょっと早いけど終わりにするぞ、と鶴の一声で終わりに成った。
恐ろしや、座敷童の幸福チート。
敵に回った場合、これほど厄介な相手はいないだろうな。あのオロチの鴻上さんがお手上げに成るのも頷ける。
体育が早めに終わったので、ゆっくり着替えられると、階段の踊り場へ向かっていたら、突然淤加美様から念話が入る。
龍族の専用念話回線? 前に話したかも知れないけれど、種族を限定すると念話の距離が伸びるのだ。普通の念話だと、瑞樹神社から学園までの距離は、ギリギリ届かないんだよね。
だから、龍族回線だと蟹の神使である桔梗さんでは、僕と念話が出来ないので、スマホを持たせているのだ。
僕のスマホが漆黒で融けてるから、今は香住のスマホを通す形だけどね。
さて、話がそれたので、淤加美様の念話へ戻そう。
『淤加美様、昨晩から徹夜で、豊玉姫様とやってるゲーム。少しは負けてあげてくださいね。お客さんなんだし』
『戯け! ゲームだろうと豊玉相手に、手は抜かぬわ! 1万582戦で1万576勝じゃ』
まったく、初めてゲームをやった相手に、大人げない。たぶんその6敗も、淤加美様自身がポカした結果だろう。
『で、どうしたんです?』
『実はの、子狐達が宇迦のヤツとの、お狐ネットワークが切れていると言うのでな、妾も貴船の方を探ってみたのじゃが……靄が掛かった様に霞んでしまって居ての、向こうの様子が分からんのじゃ』
『古龍様。それって、京の貴船ですよね?』
赤城さんが、念話に割り込んで来る。龍族回線なので、龍族なら誰でも聞ける念話だから、赤城の龍神さんにも、当然聞こえていたのだろう。
『うむ、関の貴船でなく、京の貴船じゃ』
淤加美様の言葉を聞いて、心配そうな顔をする赤城さん。
それもその筈、今朝早くに赤城の龍の巫女である、神木志穂先輩が、修学旅行で京へと向かったのだ。
『なんだ赤城、心配なら見に行ってみれば良かろうに』
セイが赤城さんを茶化し気味にそう言うと――――――
『我は志穂の事なんか、別に……心配だなんて……』
赤城さん、心配しまくってるし。
『セイ、赤城さんに意地悪言わないの。僕も貴船の龍の巫女である、伊織さんには色々と世話に成ったし、様子を見に行きたいのは山々だけど、午後も授業があるからなぁ……』
それに、人間不信の赤城さんが、やっと信じられそうな神木先輩と仲良く行きそうだし、手助けしてあげたいのは、山々なのだが、あまり休むと出席日数に響くから、少しでも授業に出て置きたい。
ん~、どうしたものか――――――
そこで、もう一方の龍が、念話に割り込みを掛けてくる。
『ならば、儂が千尋殿に変化して、午後の授業を受けて置くと言うのはどうだ?』
『淵名さん!? 良いんですか?』
『今日一日、香住殿の肩に乗って居るだけで、些か退屈して居った処だ。それと、香住殿が伊織殿によろしくだと言って居る』
あらら、香住に筒抜けかぁ
これはまた、お礼の土産を買って来なくては……
『それじゃあ、淵名さん。済みませんが、午後の授業をお願いしますね』
『あい分かった』
『おい、ちょっと待て千尋。昼飯食ってかねーのかよ』
セイが腹を鳴らしながら言ってくる。
『お昼は、一度瑞樹神社に帰るから、そこで食べよう。学校で食べてたら、出発時間がどんどん遅く成るからね』
平日に学生服で出歩く訳に行かないので、瑞樹神社で巫女装束に着替えたりしたいし。
着替えを持ったり、ペットボトルに水も汲みたい。
備えあれば憂いなしって言うからね、万全装備で行こう。
そうと決まれば、北校舎の一階の床へあけた穴へと向かって行く。
お昼のこの時間に、校門から堂々と出ていく訳には、行かないものね。教員に止められるのは間違いないし。
北校舎のあの穴からなら、剥き出しの地面に龍穴が開けれるから、誰にも見つからずに、学園から出られるのだ。
一度瑞樹神社へ帰って用意をする為に、開けた龍脈へ飛び込む。その後はK都市へ。
こうして、1000年王都である京の都へと、向かう事に成るのだが……果たして、向こうで何が起こっているのやら……
今3勢力が、京に集結する。




